第59話 魔王の剣《ベリアル・ブレイド》
階段を登り切ると、何やら障壁のようなもので覆われている大きな門が現れた。
間違いない、この門の先はフィスフェレムのいる場所。
フィスフェレムの間だ。
「エクスチェンジ、
ちゃんと、ここの障壁をどうやって突破したのかセトロベイーナ軍の人間に聞いておいて正解だったな。
簡単に障壁を壊す事に成功した。
そして門を開く。
すると目の前には、魔王軍幹部フィスフェレムが待ちかまえて……いなかった。
おかしい、場所でも間違えたか?
「だ、誰だい!? 障壁を壊して入ってきて! ここをどこだと思っている! フィスフェレム様のお部屋な……ん……だ……ぞ」
フィスフェレムの間の中にいた男は、動揺した後すぐに俺を見て唖然としていた。
……動揺した後、目の前の男を見て唖然とさせられたのは俺もだ。
「おい、なんて言ったんだ佐藤? フィスフェレム様だと?」
フィスフェレムの間にいて、フィスフェレム様と呼んでいた男の正体。
それは俺の元クラスメイトにして、セトロベイーナ王国勇者パーティーの一人であり、この世界では騎士サトーと呼ばれていた男だった。
「な、何故……君が……君は
……ああ、はいはい。
どうやら俺は、この世界で元クラスメイトの人間と再会する度に、生存しているだけで毎回驚かれるし、いちいち説明しなきゃいけなくなるんですね。
面倒臭い……けど、俺も佐藤に聞きたい事があるから話すか。
「何故生きてるかって? そりゃ、俺が
「う、嘘だ! 君は女神イーリスに選ばれなかった人間のはずだ! そ、それなら見せてくれよ! 君の女神の剣とやらを!」
……ああ、やっぱりこうなるのね。
本物見ないと信用出来ませんってか。
ため息を吐きながら、佐藤へ
「な、何だい? そ、その黒い剣は……それが本当に女神の剣だって言うのかい?」
「イーリスがお詫びに作ってくれた代物だ。お前ら勇者パーティーが役に立たないと思ったら、これを使って勇者パーティーの代わりに魔王や魔王軍七幹部を倒せって言われたんだよ」
「し、信じられない……」
明らかに佐藤は、激しく動揺していた。
いや、動揺しているのはこっちもだけどね。
本当に。
「う、嘘だ……」
「は?」
「う、嘘だ! 君も伊東くんや
「ベリアル・ブレイド……?」
思わず俺は、聞き返してしまった。
ベリアル・ブレイドという聞いた事も無い名前の剣が出て来た訳だから無理もないが。
ベリアル……なんとなくだが、とりあえずゲームとかだと悪い奴やモンスターに付けられている名前のイメージがある。
そして、これに加えてもう一つ。
佐藤の口から出た、
あの、傍若無人の名前が何故出てくる?
頭も良いし、運動神経も抜群と正に完璧。
部活はテニスで、日本の学生どころか、日本のプロテニスプレイヤーを含めても日本のトップクラスに挙げられるぐらいには将来を有望視されていた男だ。
だが、それはあくまで表の顔。
裏じゃ、暴力事件の常習犯だった。
イジメなどをしていた訳ではない。
ただ、自分が気に入らないから先輩であろうと教師であろうとクラスメイトであろうと後輩であろうとボコボコにする。
そんな男だ。
だから、確かあの男も勇者には選ばれたけど、俺の記憶だとイーリスの評価はそこまで高く無かった気がするんだよな。
傍若無人過ぎて、仲間が絶対に付いてこないだろうし、何より異世界の人間とも仲良くなれるはずがないから、必ずどこかで躓くよってのが神堂に対するイーリスの評価だった。
まあいい……神堂の名前が出たのはビックリしたが、神堂よりもまずはベリアル・ブレイドとやらを聞く方が先だ。
「し、しらばっくれないでくれ! フィスフェレム様がおっしゃっていたんだ! 現時点で、魔王の剣は三本存在すると! その内一本はフィスフェレム様から伊東くんが授かった物、そして神堂は魔王軍幹部イグフォノスを倒して手に入れた。残る一本は同じく魔王軍幹部の災厄の竜ディザスタが倒された時に出来た物……君はディザスタを倒して、魔王の剣を手に入れたんだろう? 他の勇者を出し抜く為に、いや他の勇者を殺して女神の剣を奪う為に!」
「……は?」
佐藤がまくし立てて、どうだ見破ってやったぞ!
みたいな感じでドヤ顔して来たので反応に困る。
え? ていうか、魔王軍幹部七分の二討伐してんの?
マジかよ、初めて知ったよ。
「な、何だい? その反応は? ま、まるで本当に知らなかったみたいな反応じゃないか。え、演技が上手いね君は!」
「いや、マジで知らねえんだわ」
「そ、そんな訳……」
「女神の黒、目の前の男から女神の加護を全部奪え」
どんなに説明しようとも、佐藤は信用しなさそうなので、女神の黒を使って女神の加護を全部奪う事にした。
身を持って体験した方が分かるだろうし。
「な、何をしたんだ! た、大剣と鎧が急に無くなった! い、一体君は何をしたんだ!」
佐藤は、自らが持っていた大剣と装備していた鎧が急に消えた為、当然焦って俺に何をしたか聞いてくる。
幸い、佐藤がちゃんと女神の加護で作られた防具も装備していた為、ボルチオールのバカ勇者みたくパンツ一丁にはなっていなかった。
……けど、
ケント程では無いけど、勘違いしてかなりの情報をベラベラと喋ってたし。
「……話を聞いてなかったのか?」
「だ、だから一体何を……」
「お前ら勇者パーティーが役に立たないと判断したら、これを使って代わりに魔王や魔王軍七幹部を倒せって、俺はイーリスに言われたって言ったよな?」
「そ、それは、君の嘘で……」
「疑うんなら、突然消えたお前の武器である大剣や鎧はどんな代物だったか考えろ。そうすれば分かる」
佐藤は、数分程考えた。
そして気付いたようだ。
「め、女神イーリスに与えられた物だけ消えてる……!」
「これで分かったか? 俺がベリアル・ブレイドとやらを持っていないということと、俺の女神の剣、女神の黒の能力が。じゃあ、今度は俺が色々と聞かせて貰う番だ」
女神の黒を佐藤に突き付け、全てを話すように求めた。
佐藤は震えながら話を始めた。
……果たしてそれは殺される恐怖か、情報を俺にベラベラと喋ってしまったというミスに対してなのかは分からないが。
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