第57話 騎士サトー
リベッネ達と別れ、一人山に入った俺は順調過ぎるほどフィスフェレムの屋敷へと進んでいた。
それもそうだろう。
誘惑によって操られていたセトロベイーナ軍の兵士は、ディサイドの力で誘惑が解けているため、屍のように倒れているだけ。
ネグレリア・ワームは俺にビビっているから出て来ない。
インキュバスは屋敷の中で子作りに勤しんでいるから出て来ない。
サキュバスが出て来ないのは知らん。
障害が無ければ、フィスフェレムの屋敷へ続くこの山は、標高が低い上に急な坂道も無い登りやすい山だ。
時間にして数十分程だろうか。
フィスフェレムの屋敷の庭へと着いた。
「ディサイド」
俺は屋敷全体に向かってディサイドを使う。
これで屋敷の中にいるセトロベイーナ軍の人間や騎士サトーと剣士イトーの誘惑が解ければラッキー。
解けなくても屋敷の中で使えば良い。
「だ、誰だ!?」
しまった。
どうやら、ディサイドを使ったせいで、見つかってしまったようだ。
まあ別にサキュバスとかなら殺せるから問題無いんですけど。
……いや、待てよ?
人の言葉だよな?
もしかしたら人間か?
セトロベイーナ軍の人間か、はたまた騎士サトーなのか、剣士イトーなのか。
とりあえず戦う事になっても良いように、
「誰だ……一体……誰だ」
大き過ぎる独り言を言いながら、こちらへと近付いて来る人影。
どこか自信無さ気な。
怯えているかのような。
どこかで聞いたような懐かしい声だった。
いや、懐かしいと言ってもそういやそんな奴いたなあってレベルだけどね。
二年ぶりか、
話しかけようにも名前を覚えてない。
佐藤貴までは思い出しているんだ。
後、一文字……出ない。
「ま、まさか? お、
……距離があるせいか、向こうからは俺が見えてないようだな。
五感強化の加護のお陰で俺は、視覚やら聴覚やらが大分上がっている。
だから、かなり離れていても誰なのかが分かるわけだが、アイツは五感強化の加護を持っていないようだな。
二十歳を超えた男性にしては小柄で、おどおどビクビクとしていて、どこかパッとしない男。
佐藤貴……で間違い無いだろう。
小柄な体には似合わない、騎士の鎧を纏い、自分の体よりも大きい大剣を担いでいる。
恐らく、何らかの女神の加護で重さを感じなくしているか、肉体強化をしているか、それともイーリス特製の装備品だから小柄な人間にも使えるようになっているのだろう。
そうじゃなければ、重そうな鎧を纏いつつ、大剣を使うなんて出来るような奴じゃない。
ディサイドで誘惑が解けているのか、俺が知っている記憶通りの佐藤貴だったので、声をかける事にした。
「大関なら、まだ目覚めて無いぞ」
「!? だ、誰だい!? そ、その話し方……も、もしかして、この世界の人間じゃない……同じクラスだった人間かい!?」
話しかけた相手が、大関ではない上にこの世界の人間じゃない存在。
つまり、元クラスメイトだということに気付いた佐藤貴は警戒してその場に立ち止まっ……いや、後ずさりしてやがるな。
屋敷へと逃げようとしている?
……何故だ?
「ま、まずい……い、
さっきよりも小声で、俺に聞こえないように独り言を呟いた佐藤貴。
意味無いけどな。
俺、五感強化の加護あるから丸聞こえなんだよ。
まずい? どうしてだ?
フィスフェレムに負けて、大関が目覚めない上に勇者パーティーの残りの三人とセトロベイーナ軍、そして若い女性達がフィスフェレムの屋敷に囚われている今の状態も、十分マズいんだがな。
「……っ」
佐藤貴は何も話さずに屋敷の中の方へと逃げて行った。
幸い、アイツは足が速くない。
急がなくても見失わずに後を追う事が出来るだろう。
伊東くんに知らせなくちゃ?
一体、アイツは何を隠している?
ん? あれは、サキュバス!
佐藤貴が逃げた方向にサキュバスが数匹ほどいたのだ。
おいおい、面倒臭いな。
せっかく、ディサイドを使って佐藤貴にかけられていた誘惑を解いたのに、また誘惑をかけられるじゃねえか、アイツ。
だが、その時だった。
「ちょ、丁度良い! サ、サキュバス! し、侵入者だ! ゆ、誘惑を使って兵士達みたいに操ってしまえ!」
……は?
今、なんて?
アイツ、今なんつった?
……いや、聞き間違いかもしれねえ。
そんな訳ねえ。
女神に選ばれた人間、魔王を討伐するために召喚された勇者パーティーの人間が、魔王軍幹部と手を組んでいるかのような発言をするわけねえ。
……だが、数匹のサキュバスは奴の言葉に従うように俺の方へと向かって来た。
……どういう事だ?
サキュバスが人間の言うことを聞いている?
いや、それよりも何故勇者パーティーの人間がサキュバスに命令しているんだ?
「エクスチェンジ、
誘惑なんか効くわけも無いが、一匹一匹殺すのもタイムロスになるので、女神の紫の猛毒でまとめてサキュバスを殺す。
だが、サキュバスに意識を割かれた一瞬の隙に奴には屋敷の中へと逃げられてしまった。
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