第55話 選ばれなかった時点で下
「勇者様……どうしましょう……」
リベッネにどうすべきか聞かれるが、俺は答えられなかった。
いや、不安そうな顔されても。
俺だって誰かにそう聞きたいぐらいだ。
どうすれば正解なのか。
「……少し、考えさせてください」
「……分かりました。では、その間アタシは兵士達の応急処置をします。……ただ、流石にここまで重症だといくらアタシの回復魔法でも、かろうじて体を動かせるレベル程度にしか回復させられないと思います」
「……す、凄いですね」
瀕死状態の兵士すら回復させる事が出来るというリベッネに軽く引きつつ、これからどうするか俺は考える。
……フィスフェレムに
だが、ここで引くは無い。
フィスフェレム討伐に時間を掛ければ掛けるほど、セトロベイーナ軍の人間が死ぬ事になる。
しかも死んだら死んだでネグレリア・ワームに寄生させれるので、ネグレリアの手下となって敵となる。
更に、攫われた若い女性達が悪魔を産まされれば産まされるほど、せっかくセトロベイーナ軍が討伐したインキュバスとサキュバスの数が元通りになるため、フィスフェレムの戦力も元通りになってしまう。
なら、フィスフェレム討伐は今やるしかない。
しかも、幸いな事にリベッネが瀕死状態の兵士達をなんとか動けるレベルまで回復させられるみたいなので、山付近にいる兵士は街に避難させる事が出来るだろう。
街には壊れていない住宅があるから、兵士達の救護所だったり休憩所として使う事が出来る。
それに。
どうせ、リベッネがいくら魔法に優れていたとしても、フィスフェレムには効かない以上、フィスフェレムとの戦いでは、リベッネは戦力にならない。
ということは、今やらなくてもいずれ俺一人でフィスフェレムを討伐しなきゃいけなくなる。
だったら、フィスフェレムの戦力が手薄な今こそ討伐すべきだ。
「リベッネさ……うおっ!?」
考えがまとまったので、リベッネに話しかけようとしたら、兵士の一人がフラフラではあるものの立ち上がっていたため驚く。
他の兵士達も立ち上がってはいないものの、既に意識を取り戻したようだ。
……すごいな。
俺が考えていたのなんて、ほんの数分にも満たないのに、もう回復させたのか。
「……あ、あなたが……ボ、ボルチオール王国の勇者様……し、失礼しました……我々の力が無力だったために、フィスフェレムに操られた上、こうして勇者様のお手を煩わせるなど……」
立ち上がっていた兵士が俺に気付いたのか、申し訳なさそうに謝ってきた。
恐らく、リベッネが俺の事について話したのだろう。
でなければ、俺の事をボルチオール王国の勇者などと呼ぶ訳がない。
……それにしても今更と言えば今更だが、俺がボルチオール王国の勇者で話を進められるのもなんだかなあ……。
いちいち説明するのが面倒だから、ボルチオール王国の勇者だって事にはしてるけど。
「いえいえ、むしろ遅くなってすいません。俺がもう少しセトロベイーナ王国の現状に気付いていれば、皆さんがこんな事にはならなかった」
「……? 他には? ボルチオール王国は勇者様だけしか、勇者パーティーの……女神イーリスに選ばれた人間がいないのですか?」
「…………」
嫌な事に気付くな、このおっさん兵士。
リベッネの回復魔法が効き過ぎているんじゃないか?
まあ、そりゃ疑問に思うだろうな。
本来の勇者パーティーは四人一組なんだから。
……適当にごまかすか。
ああ……そうだ。
ヘロヘロの兵士達に正義感で付いてこられても困るから、こう言ってやるか。
「フィスフェレム討伐は、俺一人で十分ですよ。だから、俺の仲間は連れて来ませんでした」
「……ほ、本当ですか? ……信じられません。勇者オーゼキを始めとした勇者パーティーとセトロベイーナ軍が力を合わせても勝てなかったのに……」
「…………」
また、答えに困る事を言うなこのおっさん兵士は。
……正直答えは簡単だ。
ただ、それだけ。
コイツらが負けた時点で勝ち筋なんてない。
いくらセトロベイーナ軍が強かろうが、イーリスに選ばれていない時点で魔王軍幹部であるフィスフェレムにダメージを与えられない。
それが、事実であり真実なんだから。
しかし可哀想な事に、彼らはそれを知らない。
「……信じられないかもしれませんが、任せてください。必ず、フィスフェレムを俺が討伐します。なので、今は体を休めて下さい。セトロベイーナ軍……あなた方の力が必要なんです」
「……は、はあ……」
おっさん兵士は戸惑っていた。
自分の求めていた返答とは違う返答が返って来たからだろう。
……事実を話して気落ちされると困るから、求めているであろう返答を言わなかっただけだが。
山の中、屋敷付近で倒れたセトロベイーナ軍の人間を助けるのはリベッネと回復して動けるようになった兵士達に任せたいし。
知らない方が幸せだと思う。
どうあがこうが、イーリスに選ばれなかった時点で、負けた大関達よりセトロベイーナ軍の人間が下だということは。
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