第52話 新たな魔王軍幹部の気配
「次から次へと何なんだよ……動く死体の後は気持ち悪い大量の虫かよ……」
どうなっているんだ。
ジェノニアという街は。
魔王軍幹部であるフィスフェレムがいて、そのフィスフェレムに勇者パーティーとセトロベイーナ軍と街が壊滅状態にされただけじゃなく、住民の死体が腐敗した状態で近くの森にゴロゴロ転がっているし、その森を抜けて街が見えたと思ったら、ジェノニアの住民の死体が動いていたんだぜ?
それでも何とか冷静に考えて、ディサイドを使って動く死体を何とかしたと思ったら、死体から気持ち悪い大量の虫が出てくるし……。
毛虫? ミミズ? それとも何かの幼虫か?
「あ、あれはネグレリア・ワーム……そ、そんな……セトロベイーナに入って来ていたなんて……ちょっと洒落になって無いよ……」
「ネグレリア・ワーム?」
聞き覚えの無い虫の名前をリベッネが呟いていたので、聞いてみる。
ネグレリア・ワーム……ダメだ、やっぱり知らないし分からねえな。
リベッネの様子からしてヤバい虫だという事は分かるけど。
「ネグレリア・ワームは……魔王軍幹部が操る虫型モンスターです……どうして……セトロベイーナでは確認されていなかったのに……」
「魔王軍幹部!? ちょ、ちょっと待って下さい! それ本当ですか!?」
ネグレリア・ワームがヤバい虫だとかそんな小さな問題じゃなかった。
まさか、魔王軍幹部の操る虫型モンスターだったなんて……。
あの気持ち悪い大量の虫型モンスター共は、ヴェルディアのサタン、フィスフェレムのサキュバスとインキュバスと同じってことか。
「魔王軍幹部ネグレリア……フィスフェレムが生きている人間を自在に操り、全てを手に入れて国を乗っ取るのに対して、ネグレリアは死んだ人間、動物、そしてモンスターや魔物にネグレリア・ワームを寄生させて暴れさせる事で、全てを壊し国を滅ぼす。フィスフェレム同様厄介な相手ですよ」
「もしかして、さっきジェノニアの人達の死体が動いていたのは?」
「ええ、間違い無いです。ネグレリア・ワームに寄生されていたから……ですけど。セトロベイーナにネグレリア・ワームはいなかったはずなんですよ……本当に、どうして……」
リベッネは俺の質問に歯切れ悪く答えた後、頭を抱えた。
あの自信満々だったリベッネが頭を抱えるなんてな。
いや、確かに頭を抱えたくなるのは分かる。
現状のセトロベイーナはかなりヤバいし。
あくまでこれは俺の想像だが、フィスフェレムとネグレリアが協力してセトロベイーナを滅ぼそうとしているのかもしれない。
フィスフェレムが勇者パーティーやセトロベイーナ軍の人間を操り、ジェノニアの住民を殺す。そしてその住民の死体をネグレリアがネグレリア・ワームを使って暴れさせる。
……うわ、考えただけで嫌だ。
おまけに俺が
……でも、頭を抱えたって現状は何も変わらないんだよなあ。
「とりあえず、ネグレリア・ワームを殺しましょうか。何か近付いて来ていますし」
落ち込んでいる暇なんて無い。
現に、大量の虫型モンスター達は俺達の方へとお構い無しに近付いて来ている。
モンスターにとっちゃこっちの心情なんか知ったこっちゃねえからな。
俺達を殺して、寄生して暴れさせる気満々だろ。
そんな事はさせるか。
「あ、はい……それもそうですね。……死体もついでに焼き尽くそう。転がっていても、寄生されちゃってゾンビみたいになっちゃうだけだし。……バーンアウト」
かなりショックなのか、やる気無さそうにリベッネは魔法を詠唱する。
おいおいそんなんじゃ……って?
「は?」
まさに一瞬だった。
一瞬にして、虫型モンスターと死体が激しい炎に包まれていた。
え? やる気無さそうなリベッネを注意しようとしたほんの数秒の間に、何か知らないけどメチャクチャ燃えているんだけど?
というか、威力強過ぎじゃね?
「すいません……勇者様。流石にアタシもショックで……思わず火属性魔法の力加減を間違ってしまいました……」
「……いや、いいんじゃないですか? ちょっと威力が強過ぎかな? って思いましたけど、ネグレリア・ワームも死体も燃やせるし……」
「え? 威力が低いって意味で謝ったんですが……これだと焼き尽くすまで時間が掛かってしまいますから」
「えぇ……」
きょとんとするリベッネ。
俺はただただドン引いていた。
ああ……流石だわ。
セトロベイーナ最強と自称するだけはあるな。
けど、この女ヤベーわ。
この女に全力で魔法を使わせたら、街全体が焦土になるわ。
……もしかして、コイツが連れて行かれなかったのって、魔法の威力が強過ぎて制御出来ないからだったりして……。
「……で? 火はちゃんと消せるんですか?」
「多分大丈夫です。ネグレリア・ワームと死体を焼き尽くしたら、勝手に火は消えるはずです。風が吹いて、森の木に燃え移って森林火災、という事にならなければ、多分」
し、信用出来ねえ……。
ネグレリア・ワームと死体が、ある程度燃えたら俺の
こいつに後始末を任せない方が良い。
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