第41話 帝国の勇者パーティーが来た

 俺が八番目の勇者 サブメンバーという事と、女神の黒イーリス・ブラックという自分達の知らない女神の剣イーリス・ブレイドの存在に、セトロベイーナの人間達は戸惑っている。


「皆さんが戸惑うのは分かります。本来勇者は七人しかいないはずだし、女神の剣もリベッネさんが言うように、本来なら虹の七色しか無かった。ですが、色々と問題があったんですよ」

「問題?」

「ええ、女神の剣を持つ七人の勇者が七人全員優秀では無いという事と、七人全員がこの世界の人間の為に魔王軍を倒そうとしている訳では無いという問題です」

「……あーなるほど」


 イーリスに選ばれた勇者が七人全員優秀な訳では無いし、七人全員が魔王軍を倒そうとしている訳では無いという俺の話に、思い当たる事があったのか、リベッネは大きく頷いていた。

 女王様や騎士達も小さくではあるが頷いている。


 ここからは、大関の持つ女神の藍イーリス・インディゴを手に入れる為にそれなりの嘘を交えながら、話を進めるとしよう。


「現に、ボルチオール王国にいる勇者は優秀では無かったですし、魔王軍を倒そうという気もありませんでしたからね。まあ、七人の中で最弱と女神イーリスに評されていたので仕方ありませんが」

「それってさっき勇者様達が言っていた勇者ケントって人ですか?」

「ええ、女神の紫イーリス・パープルを持っていた七番目の勇者です。今は俺に女神の紫、そして女神の加護を剥奪されているのでそこら辺の一般人以下の力しか無いでしょうね。興味もありませんが」


 ……ああ、はいはい。

 そりゃ驚きますよね。

 でも悪いけどケントについて説明するのが面倒臭いのは変わらない。

 話を進めよう。


「さっき、俺の女神の黒に紫が混じっているって言ってましたよね? あれは女神の紫を奪ったからなんです」

「そんな事が出来るんですか!?」

「出来るも何も、それが俺の持つ女神の黒の能力の最大の長所ですからね」


 はい、こっからサンドラさんとメリサさんには言っていない情報を言います。

 文句は受け付けません。


「女神の黒の能力は、俺より実力が下で尚且つ勇者パーティーとして不適格な人間から奪ってパワーに代えたり、もしくは女神の加護を持った人間が死んだ時に、その女神の加護を俺に与えたりする能力なんです。更に奪った女神の剣の能力を自在に使えるようになります」

「それはまた……凄い能力ですね」

「女神の藍の能力も凄いと思っていましたけど、それ以上じゃないですか……」

「八番目の勇者でそんな強力な能力……やはり、女神の剣を持つ勇者は凄い……」


 ……八番目の勇者って言ったけど、七番目であるケントは全てを俺に奪われて、六番目の勇者である大関はほぼ死んだも同然で、必死に延命されている状態だから、実質俺って今六番目だよな。


 勇者とかマジで面倒臭いけど。

 勇者だって言ってしまった以上は魔王軍幹部や魔王を倒すだけじゃなくて、この世界の人間も救わないと文句言われるんだろうし。


 ……あー勇者だって言ったの失敗だったか?

 この世界の人間が思うがままのように、この世界の人間が期待するように助けてやらないと文句言われるし。


 ファウンテンの住民を助けた時に、建物や私達にサタンの体液や血がかからないようにして戦えって言われた事を思い出し、後悔する。

 一応、幼馴染であるケントのミスのとばっちりを受けたくないって目的があったから、サタン達から街を守るという面倒な事をやったわけだが。


 絶対、次はやらねえ。

 サタンが街に出没して、ファウンテンの住民達が困っても絶対助けねえ。

 俺がボルチオール王国のためにやることがあるとすれば、ヴェブナック、そして魔王軍七幹部のヴェルディアの討伐だけだ。


「なるほど……単体だと戦闘じゃあまり役に立たないと勇者様が言っていたのは、そういう訳だったんですね」

「我々からすれば、攻撃魔法を斬ったり跳ね返したり出来るだけで凄いですが……」

「いやはや……オーゼキ殿も凄いと思っていましたが……上には上がいるという事か」

「いやいや! アルラギア帝国の勇者よりも上かもしれないぞ!」


 さて、女神の黒の能力を話した訳だが……セトロベイーナ側の反応は悪くない。

 女王様を除いては。

 必死に女王様は何やら考えている。

 女神の藍を俺に託して良いかどうか悩んでいるのかな。


 ……まあ別に渡せないと言われればそれで良い。

 大関は今必死に延命されている状態。

 時間が経てば、大関は死ぬ。

 そうなれば、女神イーリスの力で作られた女神の藍と女神の加護は、いずれ俺の物になる。


 もしくは、大関がいる場所を教えて貰えれば、隙を見て女神の藍だけ奪えば良い。

 女神の加護だけは、奪わずに残したままにしておけば、忌避の力による魔物・モンスター避けは維持出来る訳だしな。


 そんな事を考えていた時だった。


 バーン!


 さっき、リベッネと言い争って部屋を出て行ったはずの騎士がかなり急いだ様子で、勢いよく部屋へと入ってくる。


「おい……勇者様の前で……」

「大変だぞ! お前ら! アルラギア帝国の勇者が来やがった! しかも、今度はアルラギア帝国の勇者だけじゃなく、アルラギア帝国の勇者パーティーで来ていやがる!」

「それ本当!? ど、どうしよう!?」

「は!? 一体何しに来たの!?」

「そんなの知るかよ!」


 セトロベイーナ側の人間がメチャクチャ慌てている。

 さっきもメチャクチャ文句を言っていたからな、アルラギア帝国の勇者に対して。

 こんな慌てるってそんなに嫌なんだな。

 しかも勇者パーティーって事は、嫌いでしょうがない勇者の仲間も来るって事だろうし。



 ……ん? 勇者パーティー?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る