第26話 ファウンテンに帰ろう
王様にセトロベイーナの女王へ親書を渡して欲しいと依頼(実質命令)された翌日の朝。
俺達三人は、馬車に乗ってファウンテンへ戻っていた。
セトロベイーナは、ボルチオール王国の東側にある国なんだから、必然的にボルチオール王国の最東端の街のファウンテンは経由するし、アイドラさん達にもセトロベイーナに行ってきますって言わないとね。
折角王都であるカムデンメリーに来たのに、宿に一泊しただけで、ファウンテンに戻るなんて勿体無いが、王様の依頼だから早めにやらないとどこぞの
「うぅ……気持ち悪い……昨日、宿のバーで飲み過ぎた……」
俺とメリサさんが座っている向かい側の席では、いつものようにサンドラさんが二日酔いの状態で苦しんでいた。
メリサさんはこの状態のサンドラさんを見飽きたのか、苦しんでいるサンドラさんを完全に無視している。
頼むから吐くなよ……馬車の中でなんか。
それと、王様にも断酒しろって苦言を呈された翌日にこれは……。
流石に俺も呆れた。
足手纏いになるから、この国の精鋭はいらないと王様に言っていたあの魔法剣姫と同一人物とは思えないな。
「大丈夫か……? この人が案内役で……?」
「案内役……? 何を勘違いしているんですか? そこの酔っ払いはセトロベイーナへの行き方を知りませんよ? だから、私も連れていかれるんですから」
「ええ……」
俺の独り言を聞いていたメリサさんが、そんな訳無いだろといった態度で真実を話す。
いや、王様に頼まれてたしサンドラさんも快諾していたから、セトロベイーナへ行くルートを知っていると思うだろ。
「私が案内役兼ヒーラーです。サンドラさんはセトロベイーナへの行き方も知らないですし、回復魔法も使えませんからね」
「メリサさんは回復魔法が得意なんですか?」
「得意というわけではありません。攻撃魔法も回復魔法も補助魔法もそれなりに使えるだけです」
サンドラさんの陰に隠れているけど、もしかしてメリサさんも凄い人なんじゃ……?
大体の魔法をそれなりに使えるって、凄いと思うけどな。
俺に至っては、全く魔法を使えないからね。
「凄くなんかありませんよ。それより私はジンさんの
俺が褒めようとしている事に気付いたのか、メリサさんは首を振って、俺の持つ女神の黒へと話題を変える。
そういえば、ケント達の女神の加護を奪って下着姿にした時も一体何を……? って質問してきていたな。
話しても良いか。
一応、一緒にセトロベイーナへ行くんだし。
まあ、ちょっと言い回しを変えるけど。
「ああ……女神の黒は、簡単に言うと女神の加護を持っている人間が、俺より下の実力なら剥奪出来る力を持っているんですよ」
「女神の加護を剥奪……?」
「ええ、剥奪した女神の加護は、俺が使えるようになりますし、何より女神の黒の強化にもなります。まあ……どういう女神の加護を奪ったかは分からないので、自在に使える訳ではありませんが」
うーん。メリサさんに説明してて再確認したけど、女神の黒って本当使いづらいよな。
何だよ、剥奪した女神の加護を把握出来ないって。
ケントとサラが異世界言語理解の能力と忌避の力の女神の加護を持っていたのは知っていたけど、それ以外の女神の加護は何を持っていたのか全く知らないからな。
忌避の力は奪わなかったから、異世界言語理解の能力以外のどういう女神の加護を奪ったのか分かってないから使いようが無いという不便さ。
後、明確に奪ったと分かるのはイーリスの力で作られたケントとサラの装備品。
装備品を奪ったんだから、女神の黒が折れにくくなるとか、切れ味が増したりするのかな。
今分かっている女神の黒の変化は、真っ黒だったはずの刀身が少し、紫色に変わったということだけ。
恐らく、ケントの
「なるほど……突然、あの二人が下着姿になったのは、女神の加護を奪ったからですか」
「ええ、恐らく。身に付けていた装備品が下着以外イーリスの力によって作られた物だったので、女神の加護扱いになった為、剥奪出来たんだと思います。……多分」
「……ファウンテンに戻ったら、報告してあげた方が良いでしょうか? 下着姿でいるなんて、勇者はふざけてるのか! と兵士達が怒っていましたから」
メリサさんは、ケントとサラの心配をする。
そういえば、ケントとサラが兵士に連行されている時メチャクチャ怒られていたな。
街中で下着姿なんて露出狂じゃないかとか呆れられていたような。
まあ、いいや。
「いえ、大丈夫です。あれは俺がケント達に猛省を促す為にやった事ですから。もし、兵士やアイドラさん辺りにその事を聞かれたら、俺から話します」
「猛省……それも、そうですね。分かりました。黙っておきましょう」
悪いな、ケントとサラ。
折角、メリサさんがフォローしてくれようとしていた所を邪魔して。
とりあえず、一回お前らは怒られろ。
そして、惨めな思いをしてドン底に落ちろ。
今のお前らにはそれが必要なんだよ。
期待は全くしていないけど、ドン底から這い上がってこい。
「うぶっ……ゴメン……二人共……吐く」
「サンドラさん!? 袋! 袋!」
「ええ……」
ジンとメリサの会話は、サンドラが吐き始めた為終わった。
二人ともファウンテンに着くまでの間、サンドラの介護やサンドラが吐いた吐瀉物の処理に追われるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます