第25話 国王パーク・ボルチオールの企み

「俺に頼みたいことですか? 一体何をすれば良いのでしょうか?」


 どうせ断っても無駄なんだから、さっさと王様に俺への頼みごとの内容を聞いた方が良い。

 頼みたいことがある。

 一国の王がそう言った時点で俺に断る権利なんて物はあってないようなもんだろ。


 実質これは命令。

 ただ、俺の機嫌を損ねない為に王様は丁寧にお願いしているだけの話だ。


「おお! そうかそうか! 実はなジン、お前には我が国の東側にある隣国セトロベイーナに行って貰いたいのだ」

「セトロベイーナ?」

「うむ、本来なら我が国の勇者パーティーに行って貰うつもりだったのだが……。それどころでは無いようだからな」


 王様はそう話した後、サンドラさんの方を何か意味ありげに見る。

 サンドラさんは、その意味に気付いたのか苦笑いしているが。


 ……行くのは良いけど、王様が俺に頼んだ時に護衛騎士達が微妙な反応というか、困惑した表情をしているのが気になるな。

 護衛騎士達の表情から読み取れる感情を一言で言うならば、こいつで大丈夫か? って感じの顔なんだよ。


 後、そもそもセトロベイーナってどんな国なんだ?

 俺がセトロベイーナって国を既に知っている前提で話を進めるの辞めてくれませんかね?


 しかし、そんな事はお構い無しで王様は嬉しそうに話を進める。


「フッ……流石、ヴェルディアの番犬ケルベロスを倒しただけの男。セトロベイーナへ行けと言われて、嫌な顔一つしないとは。あの勇者パーティー役立たず達とは違うな」


 セトロベイーナの事を全く知らないから、嫌な顔すら出来ないってのが正解なんだよなあ……。


 ケント達にも頼んで、その時にケント達が嫌な顔したって事は、十中八九面倒臭い事か、魔王討伐関連なのは間違いないんだろうけど。


「セトロベイーナに行くのは良いんですが……一体、俺は何を?」

「難しい事ではない。セトロベイーナの女王に、親書を届けて欲しい」


 えぇ……?

 親書って、王とか首相とかそれなりの地位の人が、別な国の同じ立場の人間に渡したりする手紙だよな?

 そんな物、俺なんかに任せて良いのかよ。


 兵士や側近とか、それこそこの国の勇者(まだ一応)であるケントに行かせろよ。

 この国じゃ地位も無くて、身分も高くない俺が親書持って行ってどうする。


「サンドラ、ジンへの案内も兼ねて貴様もセトロベイーナへと行け。親書を渡すのだ、ある程度の身分がある者を同席させねばならん。だが、セトロベイーナへの道のりはちと厳しい。素行に問題はあるが、実力と身分を兼ね備えた貴様が一番妥当だろう」

「素行に問題って、私はお酒を飲み過ぎさえしなければ、ただの優秀な令嬢なんですけどね。良いですよ? 確かにそこら辺の王族や貴族じゃセトロベイーナに着く前に死んじゃいそうですからね」

「まず貴様は断酒しろ。ロジャースや兵士達からの報告書に書いてあったぞ? 泥酔していて魔法剣姫は使い物にならなかったとな。ならば、今回は役に立て」

「うぐっ……」


 うーん、報告書でサンドラさんのあの醜態まで報告するとかアイドラさんは中々酷いな。

 お陰でサンドラさんも、王様の頼み押し付けられてるじゃん。


 理由はどうあれ、サンドラさんが付いて来てくれるなら俺としては安心だけど。

 セトロベイーナへのルートも知っていて、尚且つ強くて、ある程度身分がある。


 ……セトロベイーナへの道のりは厳しくて、そこら辺の王族や貴族じゃ死ぬってのが気掛かりだけど。


「ん? 何だジン? 今更不安になったのか? 大丈夫だ、ケルベロスを倒したお前なら無事にセトロベイーナへ辿り着ける」

「王様が道のりが厳しいとか言うからですよ。ジンくんはこの世界の事をまだあんまり知らないんですから、不安を煽るような事を言った王様が悪いです」

「貴様も同じような事を言っていただろ……。不安なら、精鋭を数人同行させるが?」

「あ、それは結構です。メリサも連れてくので。あんまり大人数だと庇い切れないですし、足手纏いはいりません」


 さらっと、サンドラさんに足手纏い扱いされるこの国の精鋭って……。

 まあ……ファウンテンに派遣されていた兵士達見てれば何となく想像つくけど。

 あ、メリサさんは御愁傷様です。

 勝手に連れていく事が決まりました。


 その後、色々話を一時間程聞いて、親書を王様の側近から受け取って俺達は城を後にし、メリサさんが待つ宿へと向かった。






 ◇






 ジンとサンドラが城を離れて数分後、王は側近の一人と話をしていた。


「王よ。よろしかったのですか? セトロベイーナの現状をあの二人に話さなくて?」


 側近の言葉に、王は不適な笑みを浮かべる。

 親書をセトロベイーナの女王に渡して貰いたいという依頼はただのカモフラージュ。


 本当の目的はジンをセトロベイーナに向かわせることだった。

 今、セトロベイーナに行けばジン達がどうなるか。

 それはセトロベイーナの現状をよく知っているボルチオール王国国王の、パークにとって想像に難くない。


「ヴェルディアの番犬ケルベロスを倒し、ヴェルディア軍の襲撃から街を守った。素晴らしい事だ。だが、信用出来ないのだ」

「信用出来ない?」

「ああ、二年間もの間何の功績も残して来なかった勇者パーティー役立たず達を見てきたからかもしれんがな」

「彼も、あの無能達と同じ世界から来た人間。特に勇者ケント能無しとは幼馴染だったと言ってましたな」

「……」


 それだけではないと言いたげに王は側近の言葉に無言で首を振る。


「それもあるが、あの男……ウエノ・ジンは何かを隠している。あくまで勘だがな」

「勘……ですか。その勘の根拠は?」

「ワタナベ・ケントと同じ目をしていたからだろうな。あの男も常に何かを隠し、取り繕っていたろう? その男の目と似ているんだよ。違いは功績があるかないかだけだ」


 王であるパークの言葉に側近は首を傾げていたが、黙ってなるほど……と呟きつつ。


 信用出来ないからという理由で、セトロベイーナの勇者パーティーを壊滅状態にした魔王軍幹部の一人であるフィスフェレムと戦わせようとしている冷酷さに震えていた。

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