第二章 ぽっちゃり女勇者と残り三人誰だよ……の勇者パーティー(壊滅状態)
第23話 ジンと魔法剣姫は王の元へ
ケント達を兵士に引き渡した後、怒りが収まらないサンドラさんにちょっと付き合ってと言われたので、怖かった俺は二つ返事で了承し、行く先を聞かずに黙ってサンドラさんに付いて行く。
メリサさんは、俺達が今日泊まる宿のチェックアウトがあるのと、サンドラさんがメリサさんをこれから行く所に連れて行きたくないと言うので、先に宿へと向かった。
「あーあんなに人に怒ったのは、久し振りだよ。元彼が騎士の女を妊娠させたから別れてくれって土下座してきた時ぐらい頭に来たよ」
「はは……」
サンドラさん。
どれだけ自分がケント達に怒っているかを分かりやすく教えたいのは分かるけど、そんな過去話さないでくれ。
愛想笑いか苦笑いしか出来ないから。
「全く、異世界でどういう教育を受けてきたんだろうね! ミスを誤魔化す為に言葉が理解出来ないフリをするなんて! あれほど、「いや~僕達頭良いんですぐに覚えちゃいましたよ~」とか自慢してたクセにさあ! そう思わない! ジンくん!」
いや、同意を求められても。
だってアイツら、本当にサンドラさん達と意思疎通出来なくなってるし。
俺が女神の加護を奪ったからな。
怒っているサンドラさんの前で、ケント達を庇ったら俺も怒られそうだから、余計な事は言わないけど。
「ケントに関しては幼馴染だったから分かりますけど、元の世界でも怒られている時にヘラヘラしながら言い訳しているような奴でしたからね」
「親の顔が見たいね! 一体どういう子育てしたんだか、小一時間問い詰めたいよ!」
問い詰めた所で何も変わらないだろうなあ。
ケントの父親は、ほとんど家に帰らない人で、母親の方は優秀なケントのお兄さんに付きっきりで、ケントが小さい頃から何をやっていても全く興味を示さなかった。
……まあ、ケントももう二十歳なんだし立派な大人だ。
親の子育てのせいにしていられる年齢じゃない。
勇者パーティーのリーダーとして、自分達のミスで多くの人が死んだという事に関しての責任は取るべきだし、批判は受けてもしょうがないだろう。
「けど、アイツら王様に呼ばれたからファウンテンを早めに出てカムデンメリーに行ったんだって言ってましたよ? 勝手に連れ戻して大丈夫なんですかね? すぐに帰って来なかったって事はこっちでまだやる事あったんじゃ無いですか?」
ケント達への怒りが収まる気配がないサンドラさんをなだめながら、唯一心配な事を聞く。
「それは、これから行く所に行けば分かるよ。あー嫌だ嫌だ。辞めた元職場に行くなんて。しかも泥棒猫の職場でもあるし」
サンドラさんは、更にイライラしながら俺の質問に答える。
え、まさか。
今俺達が向かっているのって。
「丁度見えてきたよ、ジンくん。あれが私達が今から行く所。私、そしてメリサの元職場」
で、出たよ……。
サンドラさんが指差す建物を見て、俺はげんなりする。
デカい城。
つまり、王様にこれから会いに行くのかよ。
◇
「絶対止められると思ったのに、何で普通に案内されているんだ」
「あはは、これでも私、カムデンメリーでも有名人だったからね。それに一つの街の長の娘だし、何より王は私に借りがあるからね」
笑いながら城内を歩くサンドラさん。
俺達を案内している城の人間はちょくちょくサンドラさんを睨んでいるが。
あ、これ聞いちゃいけないやつだ。
俺の勘がそう警告している。
「よくジンくんに話していた浮気男の元彼が、実は王様の甥だったんだよねー。流石に騎士を妊娠させて捨てたら、王族の評判が悪くなるから別れてくれって私に頼んできて以来、私に文句とか言えないの」
「……」
俺が聞いてないのに、話すなよ!
城の人間が無言でこっちをメチャクチャ睨んでるじゃねえか!
「でも、やっぱり悪い噂ってすぐに広まってさ。私も居づらくなっちゃって、辞めたの。丁度その頃、仲良かったメリサも魔法使い辞めるって聞いたのが後押しになったかな」
「ああ……メリサさんから聞きましたよ。ケントに迫られて断ったら逆ギレされて辞めるハメになったんでしたっけ?」
話題を変えよう。
城内で王族の評判が下がるような事をベラベラと話されても困る。
評判が下がっても困らない人間の話をしよう。
「違う違う、勇者への奉仕を断るなど魔法使い失格だ! って、王や王妃が教祖の虹の教団の人間に、メチャクチャ怒られたのが気に食わなくて辞めたのよ」
これもダメだったよ!
だから城内で王族の批判は辞めてくれよ!
ほら! また睨まれてるじゃん!
しかも、さっきよりも凄い形相で睨んでるよ!
……もういい、諦めよう。
この人はそういう人なんだと割り切ろう。
ただお願いだから、王様の前では失言しないでくれ。
「……サンドラ様。王はこちらでお待ちになっております。急な来客対応に王は大変お怒りになっていますので、くれぐれも! 失礼な事は無いように!」
目的の部屋の前に着くと、釘を刺すように言い残して、怒りながら案内してくれた城の人間は足早に去っていった。
「あー懐かしい。そうそう、ここが玉座の間よね。王様、元気してるかなー?」
当の本人は全く、気にしてないから困る。
「さ、入るよー」
「ええ……」
まるで友達の家の部屋に入るかのように気軽にサンドラさんは入っていった。
あ、ありえねえ……。
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