勇者召喚しようとして魔王を召喚してしまいました〜ごめんなさい〜

飛騨牛・牛・牛太郎

第1話 そもそもの始まり編

「申し訳ございません」


魔法使いは床に頭を付ける勢いで頭を下げた。

白髪に白いおひげ、三角帽子になんと呼ぶのかよくわからないだぶだぶな服と長い杖。

この国の子供たちに「魔法使いを書いて」と頼めばこの人の絵が描かれる。そのくらい定番なスタイル。

もちろん権力もある。この国で一番偉い魔法使いの一人。(見方によって誰が偉いかなど変わる)


「君なぁ。よりによってこの時期に勇者召喚なんてよくやってくれたな」


それを叱りつけているのは王様。

数年前に先代の王様が死去してそのあとを継いだそろそろおじさんと呼ばれるくらいの男。

愛嬌がある顔をしているが、イケメンとは呼ばれない。

ただその手腕と合わせて、国民から愛されている感じの王様だ。

ちなみに息子が一人いる。今は外で剣の修行中。


「大体魔王討伐のための勇者召喚ってなんだよ。聞いてないぞ。やくざの鉄砲玉じゃねぇんだぞ」


王様はくどくどと文句を並べたてる。

この王国(名前など何でもいい)は昔から隣国の魔王が収める闇の国(モンスターや怪物がいっぱいいるモンスターの国)と戦争をしていた。

戦争をしていた、というかしている。

正確に言えば現在も継続中だ。

ただ、実際に戦ってるわけでもなきゃ、闇の国からモンスターが攻めてくることもない。

国境沿いに警備の兵はいるが、そんなもんより内政と闇の国との戦争中というのに目を付けて他所の人間たちが作る国が攻めてくるのを追い返す方が大事。

そんな状態で事実上停戦状態。民間同士では経済交流や文化交流なんか始めちゃってるので子供たちの中には


「闇の国と戦争してるの?」


と言い出す人間がでる始末。


「はい。先代の頃に一度計画はでたのですが」


魔法使いはこれまた恐縮して言い訳を並べる。

曰く


「古き良き時代の戦い方をまねて勇者を召喚し敵国王の魔王討伐を依頼しよう」


という計画が保守的な魔法使いからでで一時は承認されたが


「そんな方法がいまどき通じるかよ」


とまともな理性を持った軍の幹部が凍結させたとのこと。

というわけで勇者召喚などする予定はなかったのだが


「じゃぁなんでそうやって召喚したんだよ」

「事務手続きのミスでして、なぜか凍結したはずの計画が実行する計画に紛れ込んでしまっていたのです」


そういったわけでしてしまったのだ。

実行する計画に分類されている計画を考えずそのまま計画通り実行に移す。

官僚主義、お役所仕事、これには王様もさすがにキレる。

そりゃそうだ。


「お前部下に新聞くらい読ませてないのか。馬鹿か。世間知らずか。あほか。今度向こうの国と正式に終戦協定を結ぶんだぞ。そんなときに勇者召喚して魔王討伐させようとしましたとか世間にしれたら、おめぇどうなるかわかってんのか。俺にはわからんわ」


以前からその機運はあったとは言えこの王様初の大仕事で確実に歴史書に残るであろう闇の国との終戦協定。

この協定についての事務方協議がやっとまとまり、今度式典を開いて正式に終戦しようという状態なのだ。


そんな時期に

「魔王を殺すための鉄砲玉を城に呼び寄せた」

などと知られたら大問題。やめてくれ。何が起こるか想像したくもない。


「どうすんだ」

「どうもこうも、申し訳ございません」


そういう想像もしたくない問題を起こしたのがこの城で研究している魔法使い部門であり、その代表がこの魔法使いであり、その直属の上司で責任者が王様というわけなのでこのようにキレた若いの王様に説教されている偉大なる老齢の魔法使いという光景ができるわけだ。


あ、当然だけど普段はもっと温厚だし仲良しだよ。週末は一緒に酒を飲む仲だとも聞いた。

そういう仲でも今回のこれはキレる。そういう案件。


「あのぉ」


その二人の会話に割り込んだのが一人の青年。

身なりは素朴。足元に土がついているが、それ以外は清潔感がありさっぱりとしている。かっこいい今どきの好青年というやつだ。


「僕はその、どうしたらいいんでしょうか?」



後の世まで語り継がれる事件の始まりがこれである。

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