第39話 見たくなかった(3)3人の恋模様

 悠花は、待ち合わせの人がひしめく噴水のそばで、待ち合わせの相手を待っていた。

 それを、雅美、涼真、湊が、隠れて見ている。

 雅美は心配でこっそりと付いて来、ハラハラとしながら見ていた。

 涼真は同じくハラハラとしながら、

「何をする気なんだろう。親友に『人の彼氏を取らないで』と言う気かな。それとも彼氏に『どっちを選ぶの』って迫る気かな」

と心配で見ていた。

 湊は涼真に引きずられて来、

「なあ、勝手に付いて来て見るのってどうなんだ?」

と、帰りたくて仕方がなかった。

「しっ!」

 雅美と涼真に「黙れ」と合図され、閉口して湊は口をつぐんだ。

 と、青年が来た。栗原だ。

「待たせた?ごめん、竹内さん」

 それに悠花は、笑って首を振る。

「ううん、今来たところだから」

「じゃあ、まずは食事に行く?」

「待って。今日は話があるの。

 突然だけど、栗原君、英梨の事好きよね」

 栗原はギョッとしたように硬直した。

「え、何を」

「だって、視線でわかるもの」

 悠花も栗原も、両方共が苦しそうに俯いた。

「ごめん。気を付けるよ。ごめん」

「そうじゃない。

 ああ、考えて来たのに、どう言うか忘れちゃったわ。

 英梨は大事な親友なの。英梨も栗原君の事が好きだと思うわ。だから、大事にして」

 悠花は、口元を震わせながら言った。

「30分後に、英梨を呼び出してるの。ご飯に行こうって。だから、栗原君、ちゃんと英梨に言ってね」

「待ってよ、竹内さん。そんな事できないよ」

「どうして」

「だって、付き合ってるのはぼくと竹内さんだし」

「だから英梨と栗原君が好き合ってるんだから、2人が付き合うべきで」

「いや、待ってよ。そんな勝手な事できないよ」

「私がいいって言ってるじゃない」

 見ていた湊達は、いらいらしていた。

「ウジウジグズグズとした男ね」

「バシッと言えよ」

「行って来る」

「は!?」

 歩き出す湊に、驚きながら涼真と雅美も付いていく。

「おい」

「え?あ、湊君?それにみんな?え、何で?」

 キョトンとする悠花と、何事かという顔付きの栗原がこちらを向く。

「悠花さんがここまで言ってるのに、わかるでしょう」

「でも、ぼくは竹内さんと――」

「ふざけるなよ。親友と好き合ってる男と、気付かない振りして付き合い続けられるほど、悠花さんは鈍感な人じゃない。迷って、泣いて、勇気を振り絞って決めたってわかるだろ」

 栗原はそれでも、苦しい顔で、俯いた。

「でも、僕の方から付き合って欲しいって言ったのに。そんな事」

「義理で付き合われて嬉しいか?」

 悠花は、

「冗談でしょ」

と、震えを隠すような声で、無理矢理笑った。

「というわけだ」

 なおも栗原は立ち尽くしていたが、

「英梨を、よろしくね。さよなら」

と悠花が笑い、背を向けると、呆然と悠花と皆を見送った。

 噴水から離れ、悠花は足を止めると、人込みに紛れるようにして木立の中に入り込み、栗原の様子を窺った。

「悠花ちゃん」

「気になって……あ、来た!」

 英梨が駅から来た。

 そして2人は何事か言葉を交わし、英梨は嬉しそうな顔をした後、困ったような顔になり、それから泣き出して栗原に背中を抱かれ、2人で歩き出した。

 それを見て、悠花は声を殺して泣き出した。

「悠花さん、その」

「えへへ。ごめんね。大丈夫よ」

 悠花は笑って、3人に向き直った。

「勝手に来ちゃってごめんね。でも、心配で」

 雅美が申し訳なさそうに言い、湊も謝った。

「突然口を出して申し訳なかった」

「んん!助かりました!あのままだったら、英梨が来てもあの調子だったと思うし」

 それに、涼真も頷く。

「確かにな。ボク達も聞いててイライラして来て。

 それでも、本当に、済みませんでした」

「あはは。いいって。というか、ありがとう。

 失恋しちゃったあ!でも、悲しいよりも嬉しい!」

 悠花は空を見上げながら、まだどこか涙の残った声で言うと、くるりと皆を振り返った。

「お腹空きました!どこか行きませんか?」

 それに、涼真と雅美が即賛成する。

「行きます!喜んで!」

「いいわね」

「湊君もいいでしょ?ね?」

「まあ、いいか」

 そして4人は、栗原と英梨の向かったのとは反対方向に連れだって歩き出した。

 その夜、ひとつの恋が終わった。




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