第25話 強盗強要(1)目撃

 コンサートが終了し、客を無事に駅の方へと誘導して、手伝いに駆り出されていた別室の業務は終わった。

「若いなあ、皆」

 飛び跳ね、声援という絶叫を繰り返し、入り口へ走ってアイドルのお見送りをした観客達に、涼真は遠い目を送った。

 それに、悠花が吹き出した。

「若いって。涼真君も同じ年代じゃないですか。

 コンサートや舞台の後ってこんなものですよ。興奮して」

 しかし湊は思った。

(それによるだろ)

 同じ出待ちでも、歌舞伎やクラシックコンサートでは、少し違う。宝塚も、歌舞伎寄りだ。

「缶コーヒーでも飲む?」

 雅美が言うのに、涼真が手を上げた。

「あ、ボク行ってきます。ちょっと歩いてほぐして来たい」

「あ、私も行きます!」

 悠花が言って、2人は自動販売機目指して歩き出した。

 ロビーの自動販売医は軒並み売り切れで、2人は外へ出た。角を曲がった所にあるのを見ていたのだ。

「私はイチゴヨーグルトにしようっと」

「じゃあボクは、コーヒーの微糖。

 湊はブラックだな」

「雅美さんはミルクティーよね」

 取り出し口から商品を取り出した2人は、急ブレーキの音に、横道を覗き込んだ。

 路上に車が1台停まっており、そばに、鞄を抱えた中年の男が倒れていた。そして、その人物のそばに青年が立って覗き込んでいた。

「事故?」

「大丈夫ですかあ?」

 涼真と悠花が声をかけて近付いて行くと、青年はぎょっとしたように顔を向けた。

 倒れていた男は後頭部を押さえて、

「いきなり殴られて」

と言い、涼真と悠花は、

「は?事故じゃないんですか?」

と訊き返した。

 青年を反射的に振り返ると、青年は男の鞄を奪った。

「え」

「ご、強盗!?」

「返せ!」

「大人しくしてくれ!」

 各々の声が入り乱れる。

 青年は泣きそうな顔で、悠花にナイフを押し当てた。

「すみません、でも、こうしないと」

 言って、青年は悠花を羽交い絞めにしたまま車に乗る。

 涼真は飲み物を男に押し付けて、動き始めようとしている車に飛び乗った。

「ええー!?涼真君、何で!?」

「えっと、何となく?」

 犯人の青年は困ったような顔をして、とにかく車をそこから遠ざけた。


 湊と雅美は、なかなか帰らない2人を探しに行こうかと考え始めていた。

 その時急ブレーキの音がした。

「まさか」

 急いで音の方へ行く。

 すると、座り込んでいる男が、走り出す車を見送っていた。

「どうしましたか?」

 言いながら、男が、ブラックコーヒーと微糖コーヒーとミルクティーといちごヨーグルトの飲み物を抱えているのに気付いた。

「殴られて、鞄を取られて。それで、若い女の子が人質にされて、連れの男の子が一緒に乗って……あれ。何でだ?」

 男は混乱しているようだ。

 しかし、その「男の子と女の子」が、涼真と悠花であると、すぐに気付いた。

「警察に」

 男に言い置いて、湊と雅美は、社用車に飛び乗った。

「この道は真っすぐよ。飛ばせば追いつくわ」

「待ってくれ!私も行こう!」

 男も乗り込んで来る。

「ああ。俺が買いに行けば良かった」

 雅美はクスリと笑い、アクセルを踏み込んだ。



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