第15話 オシリスのカナリア(4)ワナ

 警察や報道陣がホールを取り囲んだが、中に入る事も出来ず、手をこまねいている状態だ。

 ホールに飛び込んで舞台に上がる。

「どこだ!?爆弾はどこ!?」

 目を皿のようにして探す。

 湊は、中央の酒樽を見た。最初にする鏡割りで使うらしく、もう中央に置いてある。

 それに近付き、そっと手を伸ばすのに、警備課の連中が慌てた。

「おい!?勝手な事をするな!」

 無視して、蓋を取った。

「あった」

 覗くと、機械がセットしてあった。詳しくわからなくとも、それが爆弾だとはわかった。

「湊君!?」

「昨日のと似てる。でも、隠し回路が仕掛けてあるみたいで、悪意があるな」

 じっくりと観察して言う湊から、別室の皆以外は距離を取っている。

「解体できるか?」

 涼真が言うのに、湊はためらった。

「解体そのものはできる。でも、していいのかどうか……」

 すると、警備課の班長が言った。

「警察も入れないんだ。できるならしてくれ。客は全員ホールから遠ざけてあるし、最低の人員以外、ホールから退避して」

 涼真が、背中を見せかけている班長に言う。

「それ、湊だけに押し付けるって事ですか」

「そ、そうは言ってない。でも、時間もないだろう!」

 湊は構わず、それを眺めて言う。

「時間がない。全員退避してくれ。もし隠し回路の仕掛けで爆発しても、被害は俺だけで済む」

「湊!」

「それが常識だ。行け。時間がない。行かないと今やるぞ」

 それで慌てた皆は転がるように逃げ出して行き、涼真は雅美に引きずられて連れ出された。

 それに目をやる事もせず、ポケットの十徳ナイフを使い、解体を始める。

 パチン、パチン、という音が、無人の舞台に響く。

 嫌な感じは、益々強まる。

 しかし、解体しないでいると、このまま爆発するのだ。解体するしかない。

(せめてもう少し調べる時間の余裕があればな)

 そう考えたが、仕方がない。

 これは、調べられないようなタイムスケジュールで電話してきたのだろう。最初から、こうする事が犯人の狙いだ。

 湊は祈る神を持っていない。こんな時、人は神に祈るものなのかと思いながら、最後のリード線を切断した。

 静寂が満ち、カウントダウンしていたデジタルの時計は、数十秒を残して止まっていた。

(終わりか?)

 嫌な感じは無くなっていない。終わりでは無い事を、湊は確信していた。

 と、放送が入る。

『解除おめでとう。次は屋上の爆弾がスタートしました。あと5分で、ホールを中心に200メートルが吹き飛ぶでしょう。

 残念でしたね。警備員さん』

 含み笑いをして、それは切れた。

 そしてそれを聞き終える前に、湊はホールを飛び出して行った。


 犯人は、窓辺からそれを見ていた。出来立てのホールの屋上。

 そこには水槽や色んな空調パイプなどが配置されており、ドアの正面に、ダンボール箱が置いてある。

 しかしそれは、爆弾ではない。空だ。

 本当の爆弾は、別の所に仕掛けてある。そして、それを回避はできないだろうという、自信があった。

「吹き飛べ。ククク!」

 犯人は双眼鏡を覗きながら、楽し気に嗤った。


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