桜花繚乱

紬木 楓奏

プロローグ 

 東京都足立区で、一人の女が自殺した。都心で会員制クラブを経営していた、彼女の名前は言問こととい百合亜。遺書は見つかっていないが、遺言はあった。彼女には、若くして生んだ一人息子がいた。

 言問零王れお、中学二年生。年齢よりはるかに大人びた少年は、唯一の肉親である母親の死を嘆きながら、僅かばかりの遺産とメモ帳を握りしめ、ひとり、がらがらの新幹線に揺られていた。



『零王、よくきいて。あんたの苗字は本当は言問じゃない』



 -次は、盛岡。盛岡。



『北東北の財界、医療界、教育界……すべてに影響力のある一族。それがあなたの出自よ。奴らは北東北から西の果てまで勢力を拡大しようともくろんでいる。零王、あんたはいずれ本物の王様になる権利がある』



「おや、ずいぶんと若い。最終便に乗るなんて」

 若い男性が零王に声をかけた。スーツにジュラルミンケース、高級そうな革靴に腕時計。それらすべてに桜の紋が入っている。

「これから、盛岡の実家に帰るのです」

「奇遇だね! わたしも盛岡なんだよ。といっても、長いこと東京にいたものだから、盛岡なまりが抜けてしまったが」

「その紋章……」

「ああ、わたしの実家の家紋だよ。古臭いだろう?」

「いえ、立派な紋章です。俺も持っていますから」

「……君、名前を覗っていいかな」



『あたしはあいつらを許さない。あたしと零王をいとも簡単に捨てたあいつらを。そして、その代わりに幸せそうにしている、あの母子。零王!』



「俺は、美櫻みざくら。美櫻零王です」



『あたしの願い、あんたに託すわ』



「し、失礼しました!!!!」




 ―盛岡、盛岡……

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桜花繚乱 紬木 楓奏 @fukatsumugi

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