第4話 青い蛍火

 翌日、洞窟の奥の水路に赴く。流れの奥が気になるのだ。ちょっと覗いてみよう。


 水に入り天井の狭くなった流れの奥へと進む。周りの水流を操作する。双頭犬オルキュロスを伴とする。小魚が逃げ散る。潜水でさらに先に進み、一度、水面から頭を伸ばすと、そこは天井が割と高くなっており、岸があり、また別の洞窟が繋がっていた。岸に上がり探索してみる。


 その洞窟の異質さにはすぐに気付いた。通路として整形されている。何処かしこに僅かな光源が存在している。すでに、薄く青くほのかに光っていた石を一つ、拾ってポケットに入れている。

 双頭犬と通路を進んでいくとその先に玄室じみた空間があり気配を感じる。


 思い切って、子守歌を唄ってみる。慈しむように魔力をのせて。

 ハープは持ってきていない。


 近づいていくと、それはキマイラだった。山羊と獅子の頭がある。蛇の尻尾はよく見えないが。ウチの双頭犬達よりも一回りはでかい。

 微睡まどろみ、山羊と獅子は交互に舟を漕いでいる。


 三方からオルキュロスが飛び掛かる。微睡んでいてはひとたまりもない。首に食らいつかれ、喉笛を噛み千切られ、抵抗することもできず、絶命した。


 すると、ドスンという音がし、壁が開き、宝箱らしき物が現れた。

 あまりにもゲーム的だ。まぁはじめから、全部ゲーム的なのだ。こういうことで問題ないのだろう。


 しかし、宝箱には近づかない。鍵や罠に対応できない。

 まず、キマイラの死体を観察する。オルキュロスたちが食い散らかしたりはしていない。あまり食べる気はしない。森にはおそらく食べ物の恵みがある。素材の利用もともかく。今はあれがあるかを確認しよう。

 魔石だ。お約束のな。

 昨日作ったヘラを使って慎重に胸を裂き捌く。・・・だが、それらしきものはなかった。かわりに出てきたのは、おそらく宝箱の鍵だろう物だった。

 

 三匹に警戒をさせながら、毛皮だけは下手なりに剥いだ。スキュラの怪力でも大変だった。ヘラだけではこの大きさの解体は無理がある。

 疲れて休憩する。結構な時間経過しているはずだ。ほかの魔物は現れていない。


 宝箱に近寄り、拾った青く光る石を近づけ観察する。鍵があればそれで大丈夫だとは考えない。毒ガスとか爆発とか、石弓ってのはどう飛んでくるのかわからんが、スキュラは無視して開けても大丈夫か。考える。自分の毒や麻痺と同種のものなら大丈夫だろう。


 結論、離れて尻尾で試してみることにした。蛸手なら3m程離れて作業できるだろう。部位再生もあるし。要は思考を半端に投げ出したのだが。

 水路に沈めて、水流操作で身を守ることも考えたが、あの水路を毒で汚染はさせたくない。


 みんなで距離を取り、蛸手を巧みに操り、カチリと鍵を押し込み回す。そのまま蓋を開け、少し様子を見た。何も起きない。罠がなかったか、正規の鍵で開ければ手順等は特に必要ないタイプだったか。安堵し、近寄って、箱の中をうかがう。


 武骨だが良さそうな、柄も全て金属製の手斧が入っていた。

 斧か。自分の武器としては飛び道具か槍がいいと思っていたが、悪くない。解体工作道具としてな。武器としても今のスキュラの筋力なら取り回しもきくだろう。


 手斧とキマイラの毛皮、光る石を戦利品として、その日は拠点に戻った。

 光る石は『石蛍いしぼたる』と呼ぶことにする。澄んだ石の中を薄青い蛍火が仄かに揺らめいている。不思議な石だ。


 夜は、またハープと歌の練習を続ける。

 

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