第3話 数字

 目が覚めた。朝が来たようだ。自分のいたところが洞窟の中だとわかった。

 20畳くらいの広さがあり、隙間みたいな空洞が奥にある。

 近くにオルキュロスが3匹おとなしく寝そべっている。

 夢だったというわけではなかった。

 

 オルキュロスはかなり大型だが3頭というと頭が6つあるのに妙な感じがするので匹もしくは体で数えることにした。昨夜の狂暴な感じはまるでない。姿が不安定だったせいなのかもしれない。


 さて、今度は自分の体を見る。女の体だ。顔はわからないが、オレンジ色の髪が胸のあたりまで伸びている。

 尻尾は一晩たったせいか、すっかり固定してしまったようだ。太くとても長い蛸腕の一尾だ。初めからそうあったかのように自由に操れる。

 目をつぶり、能力値を割り振ったときの感じを、意識してみる。


 筋力(Str) 7 (2)

 頑強(Tou) 7 (3)

 体力(Vit) 8 (2)

 知力(Int) 5 (4)

 精神(Men) 5 (3)

 魔力(Mag) 7 (3)

 器用(Dex) 4 (4)

 速さ(Agi) 6 (3)

 魅力(Cha) 8 (3)


 特殊能力/「指令(オルキュロス)」「暗視(光学)」「部位再生(オルキュロス/尻尾)」「柔軟」「吸い付き(尻尾)」「水中呼吸」「耐圧」「致死毒(犬狼牙)」「麻痺毒(尻尾)」「エナジードレイン(犬狼牙/尻尾)」「味覚・嗅覚(尻尾)」「煙幕(尻尾)」「嗅奪(煙幕)」


 特殊技能/「キルケーの毒」「水流操作」「歌唱(眠り)」


 天稟/「弦楽器の天稟」「作曲の天稟」「歌唱の天稟」


 知力、器用さはあまり変わってないが、特にフィジカル面が大きくパワーアップしている。魅力はポイントで+3した上にさらにアップしているのだろうか。顔を見るのが楽しみだ。まぁ魔物なんだが。


 そして、特殊能力、特殊技能なんてものが目白押しだ。感覚でわかっていたが声をかけなくてもオルキュロスに命令ができる。ほかも、スキュラからイメージできそうな能力がついている。蛸手の尻尾に依存するものも多いようで、まぁ、よかったのかもしれない。


 特殊技能の「キルケーの毒」が何なのかわからず、それから小3時間ほど自己を見つめなおす必要があった。

 いろいろと試したところ、おそらく昨夜おこなった犬部分の分離、再構成に関連した技能かと考えている。魔女キルケーの毒素で乱れた魔力を操作しようとしたつもりだったが、同時に体内に含まれていたキルケーの毒素を抽出操作していたのではないか。


 試行錯誤の結果、魔女キルケーの毒素だか、変形しようとした魔力だか、で造られたと思われる、正体不明の黒い下着とワンピース(ミニ)が目の前に完成している。


 周囲の探索をするにあたって、尻尾対応した衣類を調達できたのはよかった。ついでにサンダルも作成した。あくまで今できるのは構造のはっきりしているちょっとした小物作成だけだ。


 洞窟を出ると、景色に目を奪われた。すごくいい。屋久島の苔むした森のようだ。緑が心と目を癒す。魔物ライフ最高。昨晩の苦しみは喉元過ぎればだ。生態系の中でやっていけるのか楽観してはいけないのだろうが。


 オルキュロス達がそばに寄ってくる。

 こいつらに名前をつけてやりたい。どれも黒い毛をベースとしているが若干大きく見える個体がいる。あと尻尾の蛸手が黒かったり、少し赤味がかかっていたり。個体差があるようだ。しかし、それまでもなく、何番の犬頭なのか俺には何故かわかった。

 1番と2番の犬頭がペアになった、尻尾が赤味がかったやつを『アンドゥ』、3番と6番の犬頭ペアの少しでかい、黒い尻尾のやつを『トワシス』、4番5番のペアのピンク味がかった尻尾の個体を『キャトルサンク』と名付けた。この閃く数字が何なのかはわからない。

 

 徒歩で洞窟周辺を軽く散歩したが野兎程度しかいなかった。キャトルサンクにサクッと狩ってもらい、食事にしようかと思ったところでどうしたらいいかということになった。

 解体する方法を持たない。また、現状、火を起こせないが、生で食べるのは抵抗がある。双頭犬オルキュロスに食べさせても、こちらの腹の足しにはさすがにならないだろう。ただ、自分の尻尾でエナジードレインするという手はあるか。まぁ今は双頭犬たちに与えることにした。


 木の枝と木草を集めて、洞窟に戻った。


 洞窟に戻ると、よく見てなかった奥の隙間を確認しに行く。割れ目のような穴の先には、斜めに川幅3m程の透明な地下水路に繋がっていた。スキュラの感性が飲んでもいいと認めている。手ですくい一口二口飲む。きれいな淡水だ。これは助かった。

 天井が低く、水に入れば先に行けそうだったが、今はやめて広間に戻る。


 それから、「キルケーの毒」で道具を3つ作った。

 出来るだけ薄く滑らかな刃先のヘラ。一つ目針。そして糸。


 もう外は暗くなりだしていたが、わずかな光を増幅してくれる「暗視(光学)」の特殊能力のおかげでそれなりに見えている。3匹の双頭犬を見渡し、壁のそばまで来ると、もたれかかり目を閉じる。元の世界に戻る機能か能力でもないか、試しに念じてみたが、何も起きなかった。

 

 この現象は何なんだろう。みんなに起こったのだろうか。人間を選んでいたら他の人と会えただろう。魔物は孤独なのか?闇は思考も暗くする。


 明日は火をおこすのだ。


 翌日、早くに起きると、オルキュロス達と散歩がてら、森で果実を探す。

 赤いドラゴンフルーツに似た何かが生っていたので、半ば怖々食べてみると、ほんのり甘かった。

 

 大きい石を洞窟に集め、かまどを大きめに作る。

 杉っぽい木を加工して作った細長い横板。固くまっすぐな木草の茎で作った棒。枯葉。麻っぽい木草はほぐして繊維状にしてまるめておく。

 横板と枯葉をセットして、原始人が棒をネジネジするやつに挑戦する。

 横板につけた窪みと切れ目に棒の先をうまく当て、若干体重をかけながら、何度も何度もネジネジを繰り返す。摩擦で窪みが削れて煙がでる。切れ目から黒い木屑が枯葉の上に溜まる。ひたすら繰り返す。

 十分炭化した木屑の火口を枯葉ですくうように、丸めた木草の繊維の中に入れて包みこむ。火種が育つのを待ちながら何度か息を吹き込む。


 燃え広がった火種を、木草と枝で薪をしっかり準備したかまどに移す。高揚した。苦労して何とかうまくいったが大仕事だ。

 その後、さらに薪を作り。野兎を仕留め。自己流の血抜き、解体のうえ、調理し食べた。


 夕暮れから、唯一の初期装備だったハープを練習がてら奏で、唄った。かまどのそばで。橙色の温かな火に抱かれて。

 

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