第6話

街に着くとリーネオさんはマントゥーリ君から私を降ろしてくれた。デッカイ手で両脇りょうわきを支えるので胸もほとんどど包まれる感じだ。もうイチイチ気にしない。いやらしい目的で触ってないことは判るから・・・。その後、自分も降りて来たと思ったらマントゥーリ君からくらを外した。


「今日も世話になったな! 明日の朝、またここで会おう!」


リーネオさんがそう言うとマントゥーリ君も一度、首を下げてから草原の暗闇くらやみに駆け出して行った。何て言ったら良いんだろう。見えない信頼の糸でお互いつながっているみたいだ。人間同士でもこうは行かないんじゃないかしら?


「アイツは街の厩舎きゅうしゃには入らんからな。まあ良い息抜きだ。」


そう言うと私の肩を抱き寄せて街の中心に向かって歩き出した。もう片方の手にはデッカくて凄い重そうなくらを軽々かかえてる。ディーナーさんも大きなスピアを抱えてついてくる。そのまま大きな宿屋に入って行く。


女将おかみ! 男が二人に娘が一人だ。良い部屋はあるか?」


リーネオさんがカウンターの奥に大きな声を掛けると品の良さそうな中年の女の人が出て来た。私たちを見廻みまわして少し考え込む。


生憎あいにく、娘さんの部屋が有りません。皆さん一緒で良いのなら大部屋はいてますよ。ちゃんとベッドは三つご用意出来ます。お値段は張りますが、それでよろしいなら?」


「うむ。是非ぜひもない。何、この娘は妹のようなものよ。その部屋を一晩頼む。」


え? この人、私とディーナーさんと三人一緒の部屋取っちゃったよ? どうゆうこと?


「それでは女将おかみ、我らは食事をしてくる。荷物をよろしく頼む。ああ、あとくらの手入れも頼む。」


そう言ってリーネオさんは街にり出した。私とディーナーさんも付いて行く。街中を練り歩くのかと思ったら、宿を出てすぐの小さな食堂に入っちゃった。靴擦くつずれがある私には嬉しかった。


「ここの牛野菜煮ビーフシチューが絶品でな。寒い夜にはコレを食わんことには始まらん。」


そう言ってリーネオさんは五人分頼んじゃった。あとパンとか一品料理とかお酒も頼んでる。でも私はお酒が飲めない。


「店主、この娘には蜂蜜はちみつ生姜しょうが柑橘かんきつを加えたものを湯でって出してやれ。酒が飲めぬでな。」


リーネオさんが先回りしてどんどん注文してくれる。あ、お気遣きづかいスイマセン。けど、なんか子供扱いされてるようで複雑です・・・。


「しかし連戦連勝の【戦巫女いくさみこ】が何故なぜ、国を追われることになったのだ?何か粗相そそうでもしたか?」


「私は何にも悪いことしてません。て、言うかしてないと思います!」


「それでは説明になるまい。何か其方そなたに心当たりはないのか? 正直にもうせ。」


う~ん。どうしよう。見た目で負けたからとか言いたくない・・・。けど、これ以上は会話がつながらない。


「えっと、あのう・・・。私と戦って負けた【戦巫女いくさみこ】のの方が『上位互換』だとか言われて・・・。もう、私はらないと言われたんです。」


私はもしかしたらリーネオさんもこの話を聞いたら「じゃあ俺も要らね!」みたいな態度を取るんじゃないかと思って内心ビクビクしていた。


「ん? 其方そなたが戦で圧勝したと聞いたぞ? どう考えても【戦巫女いくさみこ】としてはリンの方がはるかに優秀であろう? 大体、そうで無ければ俺は動いていないからな。」


「その、私は背が高いばっかでせっぽちの魅力の無い女なので、同じ【戦巫女いくさみこ】なら見た目が好みの女の子の方が良いみたいです!」


私は勇気を振りしぼって打ち明けた。もうどうにでもなれ!そんな気分だった。


「ふ、ふふ、ふははは! なんとペルクーリ王太子というのはそこまでの「うつけ」か?どうやら集めていた情報以上のバカよな。世の中は金さえあれば何でも思い通りになると勘違かんちがいしている大馬鹿者よ。」


「若旦那! その割には金勘定かんじょうが下手くそですよ、その王太子。あの商人の大国『ストルバク』国では、こういうのを『銀貨を金貨であがなう』って言うらしいですぜ?」


ん? そりゃ千円を手に入れるために10万円払ったら、物の価値が判らないバカだよね。私も可笑おかしくなってクスクスと笑い出しちゃった。


「ほう! 中々、上手く言うではないか、アピナ。その点、俺はツイてるぞ? なにせ街道を馬で流すだけで『金貨』を拾ったのだからな!」


「違いないです。あっしなんぞ、その『金貨』を手に入れる為にどれだけ準備をしたことか! 全くの取り越し苦労でございました。」


どうやら「金貨」って言うのは私のことらしい。【戦巫女いくさみこ】としての私の価値をそんなに評価してるってことは・・・。


「あ、あのう。私の事をそんなに手に入れたかったということは、どこかでいくさがあるのですか?」


私が質問するとリーネオさんとディーナーさんがお互い目を見合わせた。


「おい、アピナ。リンは想像以上にさとい娘だぞ。」


「へい、若旦那。これが本当の『拾い物』でございますよ!」


そう言って二人は大声で笑い出した。「拾い物」って、められてるんだろうけど、その言い方が・・・。


「食事も終わった。これ以上の話は宿でしよう。ここでは誰が聞いておるか、判らんからな。」


リーネオさんはそう言って立ち上がった。この後、宿に戻った私は自分がどれだけこの世界のことを知らなかったかを嫌と言うほど知らされた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る