『小さなお話し』 その110

やましん(テンパー)

『不思議が池の幸子さんVs.死神ももさん』

 『これは、フィクションです。』




 深夜の『不思議が池』である。


 あやしの風が、池の面を吹きわたる。


 普段は鏡のように滑らかな池の表面は、波立ち、泡立ち、いきり立っている。


 その、真ん中に立って、にらみあっているのは、不思議が池の幸子さんと、死神ももさんである。


 このふたりの、確執は、昨日、今日に始まったものではない。


 ご存じない向きもおおいことでありましょうから、一応、概略を申し上げよう。


 幸子さんは、古墳時代前半期に生きていたひとですあるが、長老から、大雪のなか、山の池に(やがて、不思議が池と呼ばれる………)水汲みに行くよう言われて、池のほとりで、凍死したのでありますが、火星の女王さまによって、池の女神さまとして、よみがえったのである。


 最近は、女王さまの、指令があり、やましんさんの監視役として、やましんちに、おおかた、居座っている。


 本体は、恐ろしい鬼の姿なのだが、それは、めったに、見せない。


 女王さまが創設した地獄に、罪人を送るのが役目で、ものすごい力があるのだが、わりと、おとぼけキャラが強く、しょっちゅう、人助けしてしまう。


 『不思議が池おきらく饅頭』と、『お酒ぱっく』が、大好きで、参拝には、かならず、それが必要であり、持ってこない人は、相手にしない。


 一方、死神ももさんは、幸子さんとは、別の地獄の職員であり、しかも、エリートを自認する、失敗したことがない存在だったけれども、なんと、やましんの捕獲に失敗したことから、大スランプに陥っているのであった。


 元々は、幸子さんと、同じ村にいた、競争相手であり、小さい頃から、張り合っていたが、

幸子さんがいなくなってからは、人気を独り占めしていた。


 しかし、となり村との戦争に敗れ、抵抗したため、惨殺されてしまった。


 いまだに、張り合っていたのである。


 今夜は、虫の居所が悪いももさんが、幸子さんに、決闘、仕掛けてきたのであった。


 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 


 闘いは3時間に及んだのである。


 不思議が池は、激しく燃え上がり、その様子は街からも見えた。


 管理組合は、直ちに立ち入り禁止にして、人間が近寄れないようにした。


 しかし、警察内にある、マツムラを監視する秘密部門は、無人機を飛ばした。


 また、密かに設置した監視装置で、何が起こっているか調べようとした。


 けれども、きらきら輝く、激しい光の乱舞以外は、何もわからなかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 


 千年以上、ふたりは、こうやって闘ってきたのです。


 勝負がついたことは、ありません。


 明け方が近くなると、闘いは止めになります。


 幸子さんと、ももさんは、お池の底に移動し、お饅頭と、お酒かっぷで、乾杯するのです。


 そうして、暫くしたら、また、決闘するのです。


 その、繰り返しです。


 仲良くしたほうが、より、効率的なはずですが、なかなか、そうもゆきません。


 これがあるから、人間が、また、集まるのです。


 幸子さんにとっても、また、ももさんにとっても、そこからは、得るところがあるのですから。


 幸子さんは、お饅頭やお酒ぱっくが、大量に手に入りますし、ももさんは、確実な標的を定めることが、できるのです。


 だから、争いは、止められない。


 そう。


 辞められない、権力者と、鬼と、戦争は。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 


 






 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『小さなお話し』 その110 やましん(テンパー) @yamashin-2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る