Carnival

岩﨑 史

①帰郷

5年ぶりに故郷の町に帰ってきた。

改札を抜けて駅の外に出ると、途端に強い日差しが容赦なく肌に照りつける。

私は手でひさしを作りながら、実家を目指して歩き出した。


上京して以来の、久しぶりの故郷の風景だ。

駅のそばの商店街入り口には、相変わらずその閑散とした雰囲気とは不釣り合いな鮮やかな赤い門が立っている。

その門をくぐり商店街の中を歩くと、多くの店がシャッターを下ろしている状態だった。

さらには、当時はなかったはずのファストフード店ができている。


ここ、前なんの店だっけ? 案外、思い出せないもんだな。


特に郷愁などを感じることなく、商店街を通り過ぎた。

風景は結構変わっていしまっているが、高校卒業まで過ごした町である。

懐かしく思ったりするのかなと思っていたが、悲しいくらい何も感じなかった。


商店街を抜けると、左右を住宅に囲まれた長い坂を上る。

この坂の急さは、子どもの頃から何も変わっていない。

中盤に差し掛かったあたりから、汗がしたたり落ちてくる。足が重い。


あれ、この坂こんなにきつかったっけ?


高校生の頃は、毎日下校時に上っていた坂だ。

「だるい」などと文句を言いながら登ってはいたが、きついと感じた覚えはない。

年齢のせいか、今年の特別な猛暑のせいか、それとも……


「一人、だからかな……」


ふと、口をついて言葉が出た。

と同時に、懐かしさともつかない、ツンと胸を突くような感情が心をかすめる。


「暑いね、アイス食べたい」

そう言って、隣で頬を赤く染めて笑う彼女がふと脳裏をよぎった。

汗でおでこに張り付いた前髪を直す仕草が可愛らしい。


「よいしょ」

私は、そんな追憶を頭から追い出すように声を出し、残り数メートルの坂を上った。

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