正義の証明

維川千四号

第1話



「くっ……強い!」


 夕日が照らす、郊外の大きな陸橋の上。

 熱血戦隊グレンジャーのグレンレッドこと赤城は、キックと同時に敵から距離を取った。


 ――世界征服を企む悪の秘密結社・アークX。

 今日現れたのは、その幹部の狼怪人ヴルーフと戦闘員たちだ。

 しかし残念なことに、赤城が今、対峙しているのは幹部のヴルーフではない。姿かたちがどれも同じの戦闘員。そんな相手に、かれこれ一時間は手こずっている。


(おかしい。どうして、ただの戦闘員がこんなにも強い……?)


 異変は少し前から感じていた。

 まず、怪人の出現回数が減った。

 しかも時折現れては、ギリギリのところで逃げられてしまう。今までならば、その命尽きるまで戦い、最後には爆発していたというのに。

 そして、それは戦闘員たちにも言えることだ。

 これまでは捨て駒のような扱いだったのに、今は陣形を組み、統率の取れた動きでこちらを翻弄してくる。誰かが最前線でダメージを受ければ、それと入れ替わるように後ろで控えていた戦闘員が前に出てくる。

 どころか先日に至っては、不意に陣形からはみ出し、一人ピンチとなった戦闘員を、怪人がかばうような行動さえ見て取れた。

 明らかに何かがおかしい。

 だが、その『何か』が分からない。


「――レッド! まずい、挟まれた!」


 そんな声と共に駆け寄ってきたのは、後方で戦っていたはずのグレンブルーだった。

 慌てて後ろを振り返れば、そこには橋の一端をふさぐように構える戦闘員たち。当然、前にはヴルーフたちが立ちふさがっており、赤城たちは橋の中央に閉じ込められたかたちとなっていた。


「ど、どうしよう、レッド!?」

「…………」


 ブルーと一緒に後退してきたピンクの動揺を隠せない問いに、何も返せない赤城。

 もちろん、何をすべきか――いや、しなくてはならないかは分かっている。現状の打破、つまりは前後どちらかの突破だ。

 橋の下は深い谷。たとえ強化スーツを着ている自分たちでも、そこに逃げるという選択には命の危険がある。

 だが、と赤城は改めて前を睨んだ。


 ――狼怪人ヴルーフ。

 戦闘狂として悪名高い彼が、今回の戦闘に一切参加していないのだ。幹部という立場や作戦行動など気にせず、いつも最前線で猛威を振るう存在が、現れてからずっと戦闘員たちの後ろで静観を続けている。

 赤城には、それが不気味でならなかった。


(一体、何を企んでいるんだ……)


 どちらかを突破するなら当然、ヴルーフのいない後方だ。だが、あの戦闘狂に背を向ける恐怖が、赤城の判断を鈍らせる。

 じり、じり、と着実に狭まる包囲網。ブルーもピンクも体力の限界が近い。

 ここで決断せねば、訪れるのは最悪の事態だ。


「ブルー! ピンク!」


 意を決し、仲間に合図を送ろうとしたその時だった。


「――ウオオオオォォォォォォン!」


 大地を轟かせるような遠吠え。

 自分たちはもちろん、戦闘員たちも声の主へと視線をやる。そこにいるのは他でもない、大きな口元から凶悪な牙を覗かせる狼怪人ヴルーフだった。


(ついに動くのかっ……!)


 緊張感が一気に身体を駆け巡る。

 ここで判断を誤れば、死は免れない。


「……、…………?」


 ――結果、赤城たちを待ち受けていたのは、予想とはまるで違うものだった。

 遠吠えを合図に、確かにヴルーフは動き出した。

 だが、方向は真逆。戦闘員たちを連れての撤退という行動だった。


「……どういうことだ?」


 ぽつりと零れた赤城の言葉。

 それを聞いていたのは、共に残されたブルーとピンクだけだった。



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