第一章 ストレス回収に来ました
第1話 2人のバキューマーズ
雲一つない快晴。心の中まで陽が届いてきそうだ。
目の前に広がる世界はどこまでも明るく、不変的な幸せで満ちている。
月曜日の朝だというのに誰1人として苦悶の表情を見せず、今週もメリーゴーランドの様な1週間が始まる。
満員電車に揺られるサラリーマン、子供を保育園に預ける主婦、パンを咥えてダッシュする高校生。
皆、背中に羽が生えたかの様な足取りで各々の目的地を目指す。
ここにいる人達は、自分がこれからどんな道を歩むかは、分かってない。もちろん、僕もだ。
ゴールの見えない真っ暗な未来。
親しい友人や恋人、家族がいくら近くにいても、人生と言う闇を進むのは己自身のみ。
だけど、僕等は恐れない。いや、恐れなどない。心にあるのは希望のみ。
恐怖、苛立ち、劣等感、焦燥感、罪悪感、絶望感等の負の感情は人間誰しも持ち合わせている。
人と人が必ずしも互いにとってメリットな関係を築く訳ではない。
接触すれば、必ず摩擦が生じ、僅かばかりの綻びが出る。
綻びは心に絡みつき、ストレスとなって僕達を蝕んでいく。
人間とは不思議なもので、幸せな想いは、中々貯める事が出来ず、ストレスだけは簡単に蓄積されていく。
その都度、人間はゲームをしたり、友人とレジャーに行ったり、恋人と映画を観たりと様々な手を使ってストレスを紛らせていた。
しかし、もうその方法では間に合わない。
このストレス社会を生き抜いていくには、そんな遠回りなやり方では先に押し潰されてしまうのが関の山。
だから、無理しなくて良い。
ストレスが溜まってるなら、遠慮なく排泄して良いですよ。
僕がきちんと
閑静な住宅街を一台の白い「NEGA
少し開いた助手席の窓からは、美人三姉妹アイドル「パーリーエンジェルズ」の3rdシングル「真実のラブ&ピース」が漏れて聞こえる。
ハンドルを握る手でリズムを刻みながら、
「やっぱり、良いですね。本当に可愛い歌声ですよね。朝からテンションマックス間違いないですよー」
太陽も目を瞑るくらい眩しい笑顔の甘木とは対照的に冷徹で神経質な指が左からラジオのチューニングをいじってきた。
「ちょっと、今からサビなのに、チャンネル変えないで下さいよ」
「朝から、うるせーんだよ。キンキンした声が頭に響くんだよ」
深緑の作業服をシワ1つなく着こなす甘木と対照的に、いつ洗濯したか分からないくらい煙草の匂いを染み込ませている
「また、二日酔いですか。この時世に頭がガンガンになるまで飲む人は、武藤さん以外いないですよ」「うるせーな。頭に響くって言ってんだろ。それに男ならフリフリの蜂蜜みてーな歌なんて聞かねーで、熱い拳で語るボクシングだろ!」
武藤は目を細めながら、チャンネルを切り替える。
ラジオから聞こえていた桃色の声は、燃え盛る炎の声へと変わった、
『さぁ、R3のゴングが鳴りました。鶴田選手、全く疲れを見せず相手のキーラ選手をしっかりと睨みつけてます』
甘木はため息を吐き「パーリーエンジェルズ」を諦めハンドルを握る。
「いいぞ、鶴田。今日も決めてくれ!」
「本当、ボクシング好きですよね。僕はフィギュアスケートみたいなスポーツの方が好きですけどね」
「しー。黙ってろよ!」
二日酔いを我慢しながらも興奮する武藤にお手上げの甘木。
『両者とも譲らないラッシュ。どうやら、互いに持久戦は不利と考え、このラウンドで決めるつもりの様です。おっと、ここで鶴田選手のボディーに強烈な一撃が入りました!』
「鶴田ー!」狭い車内に武藤の叫び声が響く。
「武藤さん、一応仕事中ですよ」
『ここで鶴田の反撃です。キーラ選手の顔面目掛けて鋭い右拳が走る』
「よっしゃいけー!」
『おっと、キーラ選手、攻撃を交わし、カウンターの左フックを顎へ綺麗に入れたー! 鶴田選手、ダウンするか?』
「負けるなー! 立つんだー!」
『いや、立っている。依然としてキーラ選手から目を逸らしてない。まさか、このまま決める気か? 鶴田選手、距離を縮めます!』
「いいぞー! やっちまえ」
『決まったー! 鶴田選手、渾身の左アッパーです! なんて、闘争心でしょうか! まだ、俺は足りねーぞとばかりに暴れてます。さすが九州が生んだビースト鶴田! 会場全員スタンディングオーベーショ…』
興奮と感動が入り混じった歓声が突然、糸を切るかの様にプツンと切られる。
「おい。なんで切るんだよ!」
「最初の家に着きました。仕事ですよ」
「あー面倒くさいな。頭、痛いしよ」
「よく言いますよ。さっきまで叫んでたじゃないですか。僕がホース出すんで、
「へいへい」
「さ、今日もNEGA
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