後日談

第7話 オーダーメイド

 彼のいないこのお店なんて、砂糖を入れ忘れたクッキーみたいに味気ない。

 帰り支度を済ませて、さっさと帰ろうかな。

 と、思ったのに。

「なぁ、溺愛」

「なによ、最強」

「かわいくて聡明なお前なら、怠惰の好みの女に成り代わることなんてわけないんじゃないのか? そうやって、あいつの心の隙間に入り込むなんて、訳ないだろう? そうやって、今まで生きてきたんだろう?」

「そうね。簡単だわ、そんなの」

 でもね、Sさまは特別なの。たぶん、この世にあの人しかいない。だからこそ。

「愛する人の好みに合わせることも、一つの愛の形だと思うわ。私はそれを否定しない。でもね、私は、愛する人を私好みにオーダーメイド手作りしたいの。それが私にとっての、愛のカタチ」


の彼じゃあ、満足できないってか」

「そういうこと。だから、私はこのままでいく。今の私を好きになってもらうの」


 店主は椅子の背もたれによりかかり伸びをした。

「殺人鬼が、名探偵を好きになるたぁ、これもまた、運命だな」

「きっと、お似合いの二人になるわ」

 店内の姿見に映る私を見た。その隣に彼が見える。

 黄緑色のネクタイを絞めて、スーツに身を包む彼。

 その隣に佇む、真っ赤なドレスを着こなす私。

 血は私の中にも、そばにも流れる。何ら不思議ではない。温かな人間味。

 人を殺す退屈しのぎよりも、彼と並び歩いていけるなら、そちらの方がずっとずっと楽しそう。

 いずれ、私の過ちによって全てが清算されることになるのなら、それまでの私の人生、誰かに愛されて死にたいじゃない?


 彼を愛する私。

 彼に愛される私。

 愛は、強く気高く、罪深いもの。

 きっと真実の愛は、血塗れの手の中にあるの。

 それならば、私と、彼の中にだってきっとあるはず。


 夢にまで見た、愛のカタチが。


「賞金、振り込んどくぜ。デート代の足しにしてくれ。今回は誤解答者が多かったから、賞金も高い」

「ありがと」

 たった250万で賞金と彼の連絡先をゲットして、彼とのデートの約束まで取り付けたんだから、今日の作戦は大成功だったわね。

 見返りリターンの方が大きい。楽しいゲームだった。

「じゃ、このオーダーメイドのネクタイを買うわ。包んで頂戴」

「まいどあり。でもそれ、あいつに絞めるのだけはやめとけよ」


「一度締めたら日光で徐々に自動的に絞めつけるマーダーメイト殺人鬼御用達ネクタイだぜ?」




『間違いなく君だったよ』完

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