三、検証
さてと、幾つかの事実が判明した。
ここから私は、復讐の一歩を踏み出して行く。
……踏み出す足は無いけどね。
あー、どうしようかしらね。
空き瓶に足は無い。空き瓶は歩く事ができない。
絶対の真理が、大きな関門となって立ち塞がっている。
しかし、ここは異世界。
物が動くには、物理法則だけに限った事じゃないのだ。
魔法。
それは、異世界を異世界足らしめる最大の要素。
魔法があれば「空き瓶は動けない」という事実を覆す事ができるかもしれない。
足が無いのなら、魔法を使えばいいじゃない。
というか、それしかないんですけどね。あ、スキルとかもあるか。
魔法とスキルの違いってなに?
私のステータスには耐久値しか表示されていない。
それらしきゲージは、他にないようだ。
あれ。これ私、魔法とかスキル使えるよね?
マジックアイテムとかインテリジェンスウェポンがあるくらいだし、空き瓶が魔法使ってもいいわよね。
だって、スキル欄に『光魔法Lv1』あるもんねー。
光魔法。光魔法……。
光魔法さん、光魔法さん。私が使える魔法はなぁに?
……。
…………。
光魔法分からぬぅ!
誤算だったわ。魔法の使い方が分からないなんて。
スキルとして覚えているので、感覚で分かるものかと思ってたわ。
自然と頭に呪文が浮かんでくるんじゃないの?
恥かいたわー。
魔法は間違いなく存在しているのだろうけど、私はその使用条件を満たしていないようだ。
やっぱり
どっちもだったらどうしよう。
そもそも素質がないのであれば『光魔法Lv1』も生えてない筈なので、まだ希望があると信じたい。
女神は私に光属性は授けたけど、光魔法は授けてない。
これは、私の素質があって発現したものと考えるのが一般的だろう。
あとは、魔法に必要な呪文の詠唱。
詠唱できなくても呪文くらいは浮かんでもよさそうだが、この辺りは
救いがあるとすれば、魔法には口頭詠唱が必要なパターン。
仮にそうだとすれば八方塞がりにも思えるが、異世界には必ずといってよい程、無詠唱というものが存在する。
本来であれば必要な詠唱を破棄して、魔法のみを発動させる高等技術だ。
スキルでそれを取得できれば、空き瓶の私でも案外いけるんじゃないかと思ってる。
ふむ、魔法に関してはこんなとこね。
現状でできる事はないわ。
次、次いきましょ。スキルの検証。
スキルとは有り体に言って謎なものである。
技能とは言うけども、魔法って技能なの?
それに、なにかしらを消費するイメージはない。
自らが習得した技術を使うのに、消耗もなにも無いということね。
私が持つスキルは魔法を除くと【万物操作】【無機物ボディ】『精神耐性Lv1』の三つ。
この三つのうちの【万物操作】は女神から貰ったもの。
【無機物ボディ】はどっから生えてきたんだろう。空き瓶にされた時点で必要なものでもありそうだけど。
あの悪質極まりない女神なら、有益なスキルを付けたりはすまい。
これは空き瓶の私を創るのに、必要な要素だったんじゃないかと。
感覚だけど、これが私のイレギュラーな存在を保っている。そんな気がした。
ゴーレムとか、モンスターが持ってそうよね。私ってばモンスター?
そんな訳ないわよねー。
……宝箱のモンスターがいるくらいだから、空き瓶もモンスターなのか?
自分がモンスターになったと考えたら、ちょっと怖くなった。
待って。スライムとかゴブリンに転生する話をよく聞くけど、空き瓶の方が怖くない?
決定。私が一番怖かったわ。ありがとう『精神耐性Lv1』。
つまりは、『精神耐性Lv1』とはそういう事だろう。
あと、
うん、いい線いってると思う。
頼みの綱は【万物操作】かー。
言葉だけで判断するなら、なんでも自在に操れるスキル。
あの女神も優れものとか言ってたし、これが現状を打開する糸口になると思うの。
……と、いうわけで。【万物操作】えんやこらー!
……えんやこらー!
うん、知ってた。
万物を操作するスキルだからって、関連性のないものを操作できる訳じゃないって。
つまりは、剣は振られるものであって宙を舞うものではない。
仮にブーメランがあれば、上手いこと飛ばせただろう。
でも、空き瓶の用途は転がることでも動くことでもない。
空き瓶の操作って、なんだ? ポーションを溜めておくことか……?
あ、蓋が外れやすくなるとか!
……よそう。むなしい。
ていうかこれ、魔法の時と同じパティーンだわ!
あー、もう! 八方塞がりって事じゃないの!
どうしよう。変に可能性を模索したら、絶望さんが待ち受けてたわ。
最初から、私のことを弄んだのね。
ぬわー、どうしよう。ぬあー! 誰か助けてー!
なんか、動け。動け!
私が動けなくても、周りにある物を動かすことはできるかもしれない。
辺りに意識を集中して、うご……けー!?
地面が爆発した。
いやさ、下の方から強い力で持ち上がったというのが正しいだろう。
意識を向けると口を開けた宝箱。
それこそ宝箱型のモンスター、ミミックではないか?
ゴミ捨て場にミミックがいる訳ないわね。子供向けの収納ボックスのようだ。
綺麗な石とかセミの脱け殻入れとくやつね。
その収納ボックスの蓋が思い切り開いて、その拍子に私が宙に飛ばされたんだわ。
ゴミ袋の中身も一緒に散乱しているところを見ると、更に下に埋まってたらしい。
何はともあれ、これで移動する事ができたーい。
わーいわーい、全然嬉しくないやーい!
私の身体は跳ねた勢いで宙を舞っている。
このまま落っこちたら、
なんとかしてください【万物操作】!
残念! 操作できるものがない!
光魔法!
ああ、ヤバい。地面が近い。【無機物ボディ】さん! 謎なスキルだけど、何か手立てはないですか?
ないですよね、多分パッシブ的スキルな感じですもの!
迫る地面。
ゴミ捨て場から外れた場所へと落下していく私。
やわらかい草花も生えておらず、ガラスの身体が向かう先は硬質な地面だけだ。
ぎにゃあああ!
地面に衝突。と、同時に流れ込む情報。文字列。
━━『硬化Lv1』を習得しました。
……うおおお、おや?
世界がバウンドしてゴロゴロと回転する。
どこにあるのか分からない耳が捉えたものは、ガラスの身体が破砕する音ではなく、硬質なガラス瓶が地面を転がる音だった。
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