この中に、頭のネジを落とされた方はいませんかーー!?

ちびまるフォイ

こいつが一番頭のネジが飛んでいる

「あれ? なんだろう、このネジ」


近くには何も建物がない。

なにか工事していた後もない。


唐突に、空から落ちてきたようにネジがあった。


「すみません。この近くでなにか工事とかありました?」


「どうしてそんなことを?」


「ほら、ここにネジが落ちてるんですよ。

 なにか大切な部品だったら大変だと思って」


「これは……頭のネジだね」


「えっ!? 頭のネジ!?」


「見るのははじめて?」


「はじめてですけど……ってそれよりも!

 それじゃ今誰か頭のネジを1本飛ばしてるってことですよね!?」


「そうだね」


「そうだねって……大問題じゃないですか!」


頭のネジを拾い上げると人混みに向かって走った。


「だれか! だれかーー!

 頭のネジ落としていませんかーー!?」


叫んでも通行人は冷ややかな目で見るばかり。

誰も頭のネジを確かめて取ろうともしない。


近くにいたアバンギャルドな男に近づく。


「あなた、頭のネジ落としていませんか!?」

「うおっ、なんだあんた!? 俺は普通だよ!」


今度は全身ピアスの女性に話しかけた。


「頭のネジ、落としていませんか!?」

「私じゃないわよ!?」


毛穴から花が咲いて、手と足が逆の人に話しかける。


「この頭のネジ落としていませんか!?」

「君ね、失礼だよ。私は頭のネジなんてはずれてない」


いくら声をかけても誰も受け取ってくれなかった。

むしろ避けられている気さえする。


本当は頭のネジが外れているのに

それを認めることが恥ずかしくて言えないんじゃなかろうか。


「そ、そうだ。頭のネジを降板に届けよう。

 自分の頭のネジがはずれたと気づいた人が

 こっそり取りに来るかもしれない」


頭のネジが落ちていた場所からもっとも近い交番へと向かった。


「あの、頭のネジを拾ったんですけど」


「ふぅん」


警官は読んでいた雑誌から顔を少しだけ上げてから、

また視線を雑誌へと戻した。


足を机に上げて、椅子にもたれかかっている。


「そこ、置いておいて」


警官が指差したのは「落とし物ボックス」と書かれた雑なダンボール箱。

いったいいつから置かれているかもわからないような

日に焼け切った小物が入っている。


「いや、こんなところ置いていたら

 頭のネジがはずれて困っている人も気づけないでしょう!?」


「……ええ?」


「ここに頭のネジが1本あるってことは、

 今この世界で頭のネジがはずれた人が1人いるってことですよ。

 あなたは警官なのにその重大さがわからないんですか!?」


「はあ」


「頭のネジがはずれている人間がなにするか!

 僕のような一般の人が考えつかないような

 ぶっとんだことをしでかす危険だってあるんですよ!

 ちゃんとネジの落とし主を探してください!!」


「うるさいなぁ。はいはいわかりましたよ。

 ちゃんと探しておくんで今日はもう帰って」


「んなっ……その態度!

 絶対あとで僕の悪口を言ったあとで

 なにもしないパターンじゃないですか!」


「あのね、さっきから黙って聞いていたけど

 頭のネジ頭のネジって、そんなに騒ぐほどのこと?」


「騒ぐことですよ! 頭のネジがはずれているってことは

 一般の、通常の、普通の人のことわりからはずれている

 犯罪予備軍危険分子筆頭でしょう!」


「私から言わせれば、あんたのほうが危険に見えるけどね」


「はい!?」


警官は「はあ」とまたため息をついた。


「本当はそれ自分の頭のネジなんじゃないか?

 頭のネジがはずれていると何考えてるかわからないんだろ・

 自分で外して、自分で騒ぐってことも……」


「ふざけないでください! 僕じゃないですよ!」


「実は偽物の頭のネジということもあるだろう」


「さっきからなんで僕の言葉を嘘にしようとするんですか!?」


「神が作りたもうた完璧なる人間なのに

 頭のネジが外れるなんて欠陥品であるはずがない」


「なんにでも予想外なことはあるでしょう!」


「全知全能の神が予想できないことなんてない。

 予想外なんて言葉は人間にしか当てはまらない」


「でも、現実としてここには頭のネジがあるんです!

 だから誰かの頭のネジが飛んでるんですよ!」


「仮にその頭のネジが本当だとして、

 いったい誰が"それ僕のネジです"と名乗るんだ。

 自分が人間以下のぽんこつ豚野郎だと立候補するようなものだ」


「しかし……」


「頭のネジが抜けたイカれ野郎が

 この社会で普通に暮らしていけるわけもない。

 今ごろは投獄されていて取りにこれないんだろうよ」


警官が受け取った頭のネジを雑に捨てたとき。


空の雲がまっぷたつに割れて金色の光が差し込んだ。




『あ、ワシの32本目の頭のネジここに落ちてたのか』



神はネジを拾うことなくノリで人間に悪意を植え付け

大小さまざまな格差を作って人間を争うように仕向けた。

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