第21話 帝国歴323年4月、潜水艦
ドライゼン帝国帝都コルダの某所。
「資金については、こちらの方である程度の援助が可能と考えております。ご自由に大義のためお役立てください」
街の中どこにでもいるような特徴のない風体の男がそう言いながら足元に置いていた革鞄をテーブルの上に置き、鍵を操作して上蓋を開けた。中には、帝国高額紙幣の束がぎっしり詰まっていた。どの紙幣も使用済みのもののように見える。
「おお」
男の向かいに立っていた身なりの整った男の口から思わず声が漏れた。自分たちを援助するという男の正体はおそらくアンガリアの工作員だろう。それは今となってはどうでもいいことだ。皇帝を除くことができるならどこの誰の援助であれありがたい。
アンガリア海軍は主力艦の三分の一を原因不明の
ASUCAによるポンペイ海軍基地襲撃の補助をした航洋型可潜艦NU-01は一週間の休養の後、本来の任務のために出撃していった。すなわち、封鎖艦隊襲撃である。
「潜望鏡深度まで浮上」
潜望鏡を上げ、素早く一回転させすぐに潜望鏡を下げる。
NU-01デーミッツ中佐艦長は、今見た海上の様子を脳内で再生する。
「前方3時の方向、巡洋艦1、駆逐艦3。距離5000。的速10。射角0、方位角45。全発射筒ドール発艦準備。敵艦4隻にうまく割り振ってくれ」
大まかな諸元でドールを発射すれば、あとはドールが自己判断して、敵艦の艦底中央、キールの真下で自爆する。水中自爆型ドールでの初めての実戦ではあるが、訓練では確実に標的艦を撃沈している。
『ドール発艦室了解。
……、各機諸元入力良し。
発射筒注水。……。
発射準備完了』
「全ドール発艦!」
発令所内にも発艦の振動が感じられた。
『1番から4番、全ドール発艦しました』
「機関停止。深度そのまま」
「機関停止。深度そのまま、懸吊装置起動」
NU-01がゆっくり潜望鏡深度で停止した。4機の円筒型ドールが速度30ノットで水面下10メートルの水中を進む。
各ドールは割り当てられた目標艦に向けコースを変えていく。最初のドールが目標の巡洋艦に到達するまでの時間は約6分。目標艦の未来位置に向けコースを修正しながら突進していく。
「時間です」
海中に鈍い爆発音が聞こえてきた。しばらくして、もう一度、そしてあと二度。
「全ドール目標を捉えたようです」
「潜望鏡上げ。戦果を確認する」
潜望鏡を再び上げたNU-01。今回デーミッツは潜望鏡でじっくり海上を観察する。前方では艦のキールを破壊されて真っ二つに折れた4隻の艦がときおり小爆発を起こしながら黒煙を上げ急速に沈没しつつあった。
「全艦撃沈確実だ。航行中キールを折られた大型艦はこうなるのか。水中自爆型ドールmk1、帝国海軍はエラいもんを作ったものだ。それでも先日のお客さまにはかなわないがな。
微速前進、180度回頭」
圧倒的な戦果ではあるが、ドールの数がたった4機では襲撃作戦はここまでだ。今回発見した敵艦の数が5隻だったら1隻はとり逃がし海上に投げ出された兵員がかなりの数救助されただろう。非情なようではあるが、ドライゼンのためには一兵でも敵の兵士の数が削ることは大切なことだ。
初めての航洋型であるNU-01では容積的な関係でこれ以上ドールの格納庫を兼ねた発射筒を設けることは厳しいだろうが、次級ではせめて8機、欲を言えば12機のドールを搭載したてもらいたいとデーミッツ艦長は海軍作戦部に今回の出撃報告書に添えて要望書を送ることにした。
襲撃の二日後、カール軍港に帰還したデーミッツはその足で帰還中に書き上げた出撃報告書と要望書を海軍基地内の上官に提出した。
デーミッツのこの要望書は直ちに作戦部に送られたあと間を置かず検討され、海軍開発部、海軍工廠部に新規航洋型可潜艦の要望として挙げられた。とはいえ、開発部でもドールの数が過少である点は十分承知していたようで、待ってましたとばかり新たな艦型として、航洋型
容積的にNU-01の三倍、ドール発射筒6、発射筒の後部より次機装填可能。全12機のドールを搭載し、安全潜航深度100メートル、海上最大21ノット、海中最大12ノットの大型の航洋型
作戦部でもその案を了承し、海軍局として御前会議にてニコラの裁可を仰ぐこととなったが、あっさり裁可され、開発費ばかりか4隻建造するに足る予算が直ちに計上された。しかもニコラは、ASUCA用の予備として製作していた次元位置エネルギー転換動力炉4基を接続方法などの細かな資料も付けて海軍に現物提供することを決めた。情報漏洩を防ぐため装置の内部については完全なブラックボックスとしている。
次元位置エネルギー転換動力炉が艦の動力になれば、無限のエネルギーを得ることができる。これまでのようにカイネタイトの充力残量を気にすることなく水中を機動できるようになる。しかも転換動力炉を設置した新型
その時期までに、今回の戦争は終わっている、いや、終わらせているとニコラ自身は思っている。
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