第43話 残暑「ザンショ」


 別荘から戻ってきた唯斗たちは憂鬱な日々を過ごしていた。


 快斗は普段通り仕事に出かける日々が多くなった。帰ってこない日も多くなり、忙しいようだ。


 そんな毎日を過ごして夏休みも終わり、夏休み明けの新学期の最初の学校の日のことだった。



 その日の朝……



「おはよう唯斗 」


「……おはよう 」


「今日から学校だよー 」


「うん……起きるかー 」



 唯斗も莉奈に起こされて起きた。眠そうな唯斗は目を擦りながら一階に降りる。


 まだ夏の暑さが少し残る9月の最初。これからの数ヶ月で姉妹や兄弟、家族が大きく変化する。


 

「唯斗ー、学校行くよー 」


「まってー 」


「はーやーくー 」


「今行くってー 」



 いつも通りの毎朝の出来事だ。


 

「お姉ちゃん行ってくるね! 」

「いってきます美奈さん 」


「2人ともいってらっしゃい〜 」



 2人は玄関を開けて、学校に向かって歩き出した。


 夏の暑さがまだ少し残る。夕方や夜になれば比較的涼しいが、日中は日が出れば暑い。


 そんな2人も、出会ってからもう1年半が経つ。2人は最初はこんなにも仲が良くなかった。学校の行き帰りも別々であり基本一緒に行動することもなく、家で喋ることも少なかった。それが色々な壁や出来事を乗り越えて、関係は良い方向へ変わった。そうやっていつも通りが少しずつ変わり、合わなかった歩幅も合っていった。


 2人が歩いて学校に向かい、学校に着いて教室に入ると久しぶりの学校でクラスメイトたちと顔を合わせた。


 桃香や陸とは夏休みに何回か会うことがあったが、何か関係が変わることは特になかった。



「おはよう唯斗と莉奈ー 」


「おはよう桃香ー! 」


「桃香おはよう 」


「おはよう唯斗 」


「おー陸もおはよう 」



 みんな変わらずに元気そうだ。


 そんな変わらない日々を過ごしていた。


 もちろん結衣も元気だ。休み時間に教室に来て唯斗の元へ訪ねてきた。相変わらず積極的な姿勢だ。



 それを唯斗はどう思っているのだろう……



 いつまでも中途半端な関係ではいられない。それはただの甘えであって、言い訳にしかならない。当人たちがはっきりして向き合うことがこれからは大事になってくるのだろう。



 その日の学校の放課後、唯斗は結衣に一緒に帰るように誘われていた。


 放課後になると、いつも通りに莉奈は唯斗に帰るように言った。



「唯斗帰ろー! 」


「うん、今日結衣も一緒にいい? 」


「え? 」



 莉奈は驚いた様子だった。



「なんか、一緒に帰ろうって誘われたんだけど断る理由もなかったし 」


「そうなんだね…… 私1人で帰るから、別に結衣ちゃんと2人で帰ってもいいよ 」


「いや、それはなんか違くないか 」


「そんなことないよ、じゃ私先帰ってるね 」


「おい、莉奈待てって! 」



 莉奈は教室から出ていった。唯斗は仕方なく1人で教室にいて結衣を待つことにした。


 それを見ていた桃香が、唯斗の元へ寄ってきた。



「なんかあった? 大丈夫唯斗? 」


「大丈夫だけど、おれは…… 」


「唯斗はどうしたいの……? 」


「おれは、別に…… 」


「そっか…… 」



 何かはっきりしない。唯斗も桃香も分かってるのに。みんなが自分では分かっている。それでも前へ踏み出すことができない。それが簡単にできる人間など本当に少ない。ごく一部の存在だ。


 

「せーーんぱい! 」


「…… 」


「ん、どうしたのー? 唯斗せんぱーい 」


「ん、ああ結衣か 」


「桃香さん、唯斗せんぱいに何かあったんですか? 」


「ううん…… 何も無いと思うよ 」


「ですよね! じゃ帰りましょー! 」


「うん… 」



 2人は教室から出ていった。


 桃香は勉強をするために教室に残っていた。


 2人が教室を出て行く様子を見て、呟いた桃香の言葉はどこかいつもよりも重たく感じた。



「唯斗…… 」



 桃香も辛いだろう……


 自分は恋愛対象として、見られていないのだろうと思ってしまう。実際唯斗の中ではそうなのかもしれない。それでも、それでも……


 


 唯斗と結衣も学校から出て歩き出した。




「唯斗先輩、話があるので少し寄って行きたいとこ行ってもいいですか? 」




 


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