兄弟×姉妹「キョウダイカケルシマイ」

萌乃

第1話 衝撃「ショウゲキ」


「あ……!!! 」


 唯斗と彼女は衝撃の余り、数秒間目がお互いに離せなかった。


 




― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―




「唯斗起きなさいよー 」


「……もう朝か 」


 母親に毎朝のように起こされて嫌々起きる。半分程しか開かない。


 カーテンを開けると、窓越しの太陽光がやたらと眩しい。目蓋が余計に開かない。


 そんな唯斗も今日から高校2年生。


 唯斗とは、本名二階堂唯斗。


 普通の高校2年生だ。


 唯斗には、三つ上の兄がいる。兄は高校卒業と同時にスカウトされていたモデル業の仕事の世界に入った。今も現役のモデルだ。


 高身長で勉強も運動もできた。そして当然のようにカッコいい。


 必然的にそんな兄と比べられる。唯斗は別に周りから見ればかっこいい方だと自負はしているようだ。いや、それなりに告白もされたことはある。モテる。はず……

 

 しかし兄と比べれると……、それが唯斗の悩みだ。


 家族は唯斗と兄そして母親の3人家族。母親と父親は1年前に離婚した。


 兄と唯斗の親権は母親が手にした。結果三人で、アパートで暮らしている。


「行ってくる 」


「はーい! いってらっしゃい〜 」

 

 兄さんを送り出す母さんの声。どうやら撮影に出かけたようだ。


 兄の快斗の仕事は忙しい。この頃は、あまり家に帰れずに仕事での外泊も多い。


「唯斗も、そろそろ出ないと学校に間に合わなくなるわよー 」


「あぁ……わかってるよ 」


 唯斗はめんどくさ気に返事をした。母親の言葉に対してこの態度。


 これって反抗期なのか。

 いやそうだろう……


 ただ今16歳の思春期真っ最中。世の中の16歳では普通のことだ。そう唯斗は普通に普通。普通過ぎる高校生。


「はぁ…… 母さんなんでわかんないかな。わかられても困るけど。」


 唯斗は母親に聞こえない声で呟く。


「俺は兄さんと並んで歩きたくないんだ。それが嫌なんだ。」


 そんな唯斗の言葉は届くはずがない。



「行ってきまーす 」


「はーい、いってらっしゃい 」



 そんな唯斗の気持ちを知ってか知らずか。


 やたら明るい母さんの声に背中を押されるようにして、唯斗はアパートを出た。


 唯斗が通う高校までは徒歩10分ってとこ。


 通学路には桜が綺麗に咲き乱れる。


 学校に着くとすぐに桃香と陸に会う。2人とも今さっき着いたらしい。


 桃香とは本名、高山桃香。小さい頃からの幼馴染み。いつも元気で、優しい。可愛いところもある。幼馴染みという関係でなければ。そういうくくりでなければ、どこかで恋をしていたかもしれない。


 陸こと、渡辺陸。高校からの友達だ。1年生の時から仲良くしてくれている。優しいやつで友達付き合いがうまい。女子からも何かと頼られる。そんな存在だ。


 そんな唯斗たちは普通の高校生活を送っていた。





 その日までは……





 2年生になった唯斗たちのクラスに1人の転校生がやってきた。彼女の名前は有村莉奈。規格外といっても良い美少女。黒髪ロングにモデルのような顔立ち。そして華奢な体型。彼女はモテるに違いない。


 学校にやってきた彼女が、唯斗たちの日常を非日常へと変えていく。そのことをまだ唯斗たちは知らない……



 その彼女は一番後ろである唯斗の後ろの席に座った。


「よろしくね、俺は二階堂唯斗 」


「よろしく 」


 これが二人の初めての出会いだった。


 唯斗は莉奈と仲良くなりたくて話しかけた。


「ねー、君はどこから来たの? 」


「君? 名前ちゃんとあるんだけど? 」


「ああ、有村さん? だよな! 」


「そう、だけど莉奈でいいよ 」


「うん、じゃ莉奈 」


 唯斗はいきなり下の名前で呼ぶのは馴れ馴れしいと思ったからこその気遣いだったのだが、彼女には逆効果だった。


「で、どこから来たの? 」


「東京 」


「ここも東京だぞ? 」


「いろいろあるの…… 」


「ああ、わかったよ 」


 唯斗はこれ以上聞かない方が良いと判断し、会話はそれ以降はあまり弾まなかった。


 

 

 

 学校が始まって、何か変化もなく1週間経ち、学校のない週末になった。


 唯斗や、学生全般、普通なら土日が来るのはもちろん嬉しい。だが、今週の唯斗だけは違った。






 土曜日の朝



「起きなさいよー、今日は相手の方の家にいく大事な日なんだから! 」


「……はいはい 」


 唯斗は今日、この日を迎えるのが本当に嫌だった。


 そのことで母さんとの関係が良くなくなったのかもしれない。



 唯斗が悩むのも無理はない。1年前に離婚した母親は昔からの繋がりがある男性と再婚を前提に同居が始まることが決まっていた。


 唯斗はずっと反対していたが、金銭面や、生活面、いろいろなことを考えて、どうしても仕方なく、承諾していた。兄の快斗は別にどちらでも、という興味を見せない感じだった。


 


 母親と兄の快斗、唯斗は、その相手の家に向かった。


 

 相手の方の家は想像の何倍も大きい新築の一軒家。俗にいう豪邸だった。それも相手を考えれば、無理はない。相手の方は有村グループという不動産会社の社長である。


 唯斗たちは家の中に招待されリビングのソファーに腰掛けた。



「元気だったか? あゆみ 」


「うん、元気ですよ 」


 あゆみとは唯斗の母親の名前である。


「じゃ、娘たちを呼んでくるから、待っててくれ 」


「はい 」


 唯斗と快斗は驚いた。相手にも子供がいるなんてこと聞かされていなかった。しかも女の子。


「そんなの聞かされてないぞ! 母さん 」


「たしかにそれは俺も聞いていない 」


 唯斗の発言の後に、あまり関心が無さそうに見えた兄の快斗も流石に今回は母親に言った。


「ごめんなさいね。あなたたちに言ったら絶対嫌がると思ったから…… 」


「ならなおさら言えよ! 」


「たしかにな 」


 唯斗は怒りを抑えれなかったが、兄の快斗は唯斗に比べれば冷静だった。




「こんにちは〜!! 」


 可愛いお姉さんが部屋に入ってきた。


 唯斗は驚いた。唯斗のタイプの美女だ。いや、これは世の中の男子はみんな好き。年は少し上くらいのお姉さんだ。


「もしかして、今日からこの人が俺たちの家族になるのか…… 」


 さっきまでの怒りが収まったような気がした。


「こんにちは…… 」


「あ………!!! 」

「あ………!!! 」


 もう一人入ってきた女の子と目が合った瞬間のことだった。お互いに何かを瞬時に感じた。


 

 その子は同じ学校で同じクラス。唯斗の後ろの席。そう転校生の有村莉奈だった……


 

 


 

 

 この瞬間のことは一生忘れないだろう。

 そう、忘れたくても絶対忘れられないだろう……

 

 





 


 こうして唯斗と莉奈の誰にも言えない、新生活が始まるのであった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る