05.修行開始


 まだ日が昇らない薄暗い朝早くから小屋の外に立つ、カルディアと俺。

 俺は、昨日洗濯したTシャツとジーパンを着ている。

 早いところ、着替えを入手しないと。


 カルディアは、魔法の修行なんて久々だなといいながら、ストレッチしている。


「まずは、走り込みだな。これ持って、この森の中を走ってこい。道があるからそれに沿って走るんだ」


「え、森?ドラゴンいるんじゃなかったでしたっけ?朝方活発になるって」


「大丈夫、それもって道沿いに走ってれば」


「なんですか、この水晶みたいのは?魔除けか何かですか。そもそも、どこまで走ればいいんですか?」


「いいから、走るんだ。」


「えぇ・・・」


 まじで、この森を走るのか?しかも、道なりにいけって?


 結構無茶言ってないか?いつやめて戻ればいんだ?

 つか、魔物でるだろう魔物。


 でも魔除けっぽいのをもらったし、これ本当大丈夫なんだろうなぁ。

 とりあえず、言われるがまま、しぶしぶ走りはじめた。



 森を走り始めてすぐに1つ目の太陽がではじめて朝焼けになり、2個目の太陽が顔を出すと、あたりはとても明るくなった。

 思いのほか、森は見通しがよく、とても気持ちがいい。森林浴しながらトレッキングしている気分だ。

 走るのなんて、何年ぶりだろう。




 楽しかったのは最初だけだった。

 もう1時間以上、無言で走っている。ただまっすぐ走る。


 周りは木だけという変わり映えしない景色に、さすがに飽きてきた。

 それと同時に、疲れが出てきて、ついには歩き始めた。


 しかし、魔物が住むはずの森なのに一匹もいない。

 意外と安全な森だな。どこまで行けばいんだこの道。

 この先、街でもあるのかな。




 しばらく歩いていると、地面がかすかに揺れ始めた。

 地震だろうか?定期的に揺れが起こり、徐々に強くなってきた。

 ドシン、ドシンと音も聞こえてきた。



 これは、もう朝方に活発になるっていう、アイツですよね。

 それしかありえない。


 音の方角を目をこらして見てみる。

 あ、ほら、ドラゴンです。本当にありがとうございました。

 わかってた朝活発に動き回るっていう話の時点で、いつかは出くわすだろうと。

 でも、修行初日でそれが起きるのか。



「(だからいったじゃねーかぁくっそぉぉぉぉ、何が大丈夫だぁくそがぁぁぁぁ)」


 心の中で叫びながらダッシュでとにかく逃げる。

 音がきこえなくなるように。


 しかし、音は、どんどん近づいてくる。追ってきてますね、これは。


 ちらっと振り返ると、あぁ、来てます来てます。

 しっかりとした力強い2足歩行。

 そして、がっつり補足されてる俺。何したっていうんだ!!!




 とりあえず、がむしゃらに、走る。

 ちかい、ちかい、足音がかなりちかい、やばいやばいやばい。


 そして、お約束の展開が発生。

 ちょっとした窪地でバランスを崩し、勢いに乗ったまま俺は前にぶっ倒れた。

 あぁ、もうだめだ、倒れながら後ろを振り返る。


 馬鹿でかい、ドラゴンがこちらをめがけて走って来ている。

 足痛い、腰がぬけて立てない。


 あ、終わった。

 ぎゅっと目を閉じた。




 しばらくしても、終わらなかった。


「派手に転んだな。大丈夫か?」


 カルディアの声がする。


 目を開けると、緑のドラゴンの巨体が目の前にある。

 そして、そのドラゴンの後ろからカルディアの声がする。


 後ろにまわると、カルディアがのっていた。

 え、なにしてんのこいつ。まじで。



 カルディアはドラゴンに乗って、俺を追いかけて来たそうだ。

 驚かせようとしたら、まさかここまで驚くとはと。


 申し訳なさそうな顔してる。最近よくみるなぁこの顔、さほど申し訳なく思ってないだろこいつ。

 とりあえず、小1時間ほど、やって良いことと悪いことをお話しました。



 ちなみに、水晶みたいのは、カルディアの魔力が詰まっているそうで、魔除けの効果はちゃんとあり、この森の魔物たちはこの水晶があれば襲ってこないそうだ。

 自分がちゃんと俺の安全を考慮していたことを主張してきた。



 そして、カルディアがのっているドラゴンは、安全だとも主張してきた。

 以前この森の主のフォレストドラゴンを狩って、森の主になった時から、従属しているドラゴンだそうだ。




 主を狩ってんじゃねーよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る