第1話

 私が彼を見たのはあの日だった。


 私、一ノ瀬 光が、港市に引っ越して来たあの日。今年から高校1年生の私は知らない土地で知らない人達に囲まれた新しい場所での生活に期待と不安を抱えていた。


 パパの仕事の転勤のため私たちは家族でこの町にやってきた。新しい家は思ったより大きい、立派な一軒家だった。


「良い不動産屋を見つけてな、思ったよりも安い値段で借りれたんだよ、光の学校もそんなに遠くないし、色々と便利だよ」

とパパは言っていた。だけど私が1番素敵だと思ったのはこの家からの眺めだった。今が夕方というのもあって、夕陽がさらに景色を美しく見せる。高台にあるこの家は港市を一望できる。


 港市は港という漢字が入っているだけあって、漁業が盛んで、大きな港がある。そんな海をも眺めることができるこの場所をわたしはとても気に入った。


 ここに来る前は東京にいて、海なんて年に一度行くかどうかくらいだったからこれだけ近くにある海がとても新鮮に感じる。


「すごい良い眺めねー、あなた」

ママも私と同じことを思っていたようだ。


「そうだろー、大きさもそうだけど景色がよかったからここにしたんだ」

父が自慢気に語っている。


 私は何故か無性に早く家の近くにある砂浜に行きたかった。夕方の砂浜で過ごすということに少し憧れがあったのかもしれない。


「ねぇねぇ、ママ、砂浜に行って来ていい?」


「どうしたの急に?別に構わないけど、今日は引っ越してきたばかりなんだから疲れもあるだろうし、もうすぐご飯なんだからなるべく早く帰ってきなさいよー」

「はーい」


 私はいつになく軽い足取りで駆け足で砂浜へ向かった。


 少年はそこにいた。はじめて彼を見た時の印象は「不思議そうな人」だった。


「こんにちわ、今日から港市に引っ越して来ました。一ノ瀬 光です」


「そうなんだ。僕は宮野 海斗」


 私はびっくりだった。え、それだけ?

すごい無愛想な人だと思った。


「よろしくお願いします、ところで宮野君は高校生ですか?私は今年から港高校1年生なんです。初めての場所で初めての高校生だからすごい不安なんですよ」


「海斗でいいよ、宮野ってあんまり呼ばれないから。それとタメ口でいいよ。僕も今年から港高校1年生だよ」


「分かった。でもよかった。こんなところで同級生に会えるなんて、引っ越し初日から運いいー私、これは幸先いいね」


 私は彼に笑ってみせた。だけど彼は無愛想なままだった。


「じゃあ、海斗君はなんでこんなところいるの?なにしてたの?」

「息してるの」


「ははははは、海斗君、以外とそんなボケするんだ。でもそうじゃないでしょ。ちゃんと教えてよ」


「ただ海を見てただけ。海は好きだからよくここに来て、ボーっと眺めてるんだ」


「いいよね、そういうの。ここに来たばっかりだからかしれないけど、海見るのわたしも好きだよ」


「光はどこに住んでたの?」


「いきなり呼び捨て!全然いいけどびっくりするよ、そんな急に名前呼ばれたことないから。そうだねぇどこから来たと思う?」


「東京じゃない?都会の臭いがするよ」


「正解!って都会の臭いってなんだよ

はははは」


「なんか都会っ子ぽいと思っただけだよ」


「そんなことあるのかなー?あ!もうこんな時間だ。ご飯もあるしもう帰らなくちゃ。ごめんね」


「そうなんだ、確かにもう遅いしね」


「また会えるかな?」


「僕は明日も同じ時間にここにいるよ。またここに来たら会えるよ」


「分かった。明日も来れそうだったら来るよ。引っ越しで色々あるから忙しいかもしれないからさ。じゃあ今日はありがと、バイバイ」


 わたしが手を振ると彼は何も言わずに手を振り返してくれた。少し笑っているように見えた。それにしても楽しかったな。海斗君最初は変わった子だと思ったけど意外とおもしろいし。よし、これから頑張るぞー!

私の中で海斗君は「おもしろい人」に変わった。


 彼女が去って行った。嵐みたいな子だったな。すごい騒がしいって感じだったけど、明るくて全然嫌いじゃない。僕がしてたこと見られてないかな?多分大丈夫だよね?彼女のことだし、もし見てたらすぐに言ってるよ。

見られてないからよかった。

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