第395話・アンビティオーとプリームス(1)
本日はセルウスレーグヌムの国王アンビティオーと、
その為、王弟モーレスに案内され、プリームスは厳重に警備された王宮内の会議室に到着する。
謁見の間では無く会議室なのは、両者が同格の王で在り、それを正しく認識し考慮したアンビティオーの判断であった。
また談話室を使用しなかったのは正式な会談と言うのも有るが、機密性を重視し両者の会話が漏洩しない様に配慮した・・・とプリームスは洞察する。
『それだけ私と腹を割って話すつもりなのか・・・それとも・・・』
南方諸国で暗躍する首魁が、どう出て来るか興味が尽きないプリームスであった。
モーレスが扉越しに、室内にいるであろうアンビティオーへ告げた。
「陛下・・・
聖女陛下と呼称され、少し寒気がしたプリームス。
そんな彼女を余所に扉の向こうから声がする。
「うむ・・・お待ちしていました。お入り下さい」
思ったより若々しい声でプリームスは少し驚いた。
厳重に警備された会議室の扉を警備の騎士が開け、プリームスを恭しく室内へ誘う。
入室すると中は思ったより小ぢんまりとしていて意外に感じたが、4人程度の話し合いなら丁度よさそうな広さであった。
また内装はごく一般的で、エスプランドルでもあるような落ち着いた雰囲気だ。
部屋の中央には膝丈程度のテーブルが1つあり、それを挟み込む形で3人掛けのソファーが2つ設置されている。
そのソファーに座っていた人物が立ち上がり、
「良くお越し下さいました、聖女陛下。私がこのセルウスレーグヌムの国王・アンビティオー・ファマトゥウスです」
とプリームスへ告げた。
アンビティオーは中肉中背で、耳に掛かる程度の黒い髪そして黒い瞳をしていた。
更に容姿は至って普通で、実弟のモーレスと同じく無害で人の良さそうな顔付きだ。
余りに普通過ぎて、逆に面を食らってしまったプリームス。
『おおぅ?! これがアンビティオー・・・』
恐らく年齢は40代と思われるが、実弟のモーレスより若い印象を受け30代前半に見える。
若く見えると言う事は内包する魔力が高く、魔術の才能を有する事が一般的だが、彼の髪と瞳は黒だ。
つまり魔術適正が無い者の象徴を有している訳で、純粋に童顔なのだろう。
そんな事を思って呆然としていた為か、アンビティオーが心配して再び声を掛けてきた。
「プリームス聖女陛下・・・大丈夫ですか?」
「え・・・あ、いや、すまない。アンビティオー殿の見た目が、私の想像と全く違っていたのでね・・・少し驚いてしまったよ」
と我に返ったプリームスは苦笑いを浮かべて答える。
「フフ・・・余りに平凡で驚かれたのでしょう、王らしからぬと・・・。以前であれば宰相然していなくて、威厳が無いと良く言われたものです」
そう自嘲しながらアンビティオーは言うと、プリームスへ向かいのソファーに掛けるよう片手を差し出し促した。
今日のプリームスの出で立ちは、
と言っても今や正装になっている漆黒に打掛に、その下は相変わらず扇情的な丈の短いドレス姿。
そのドレスも深い紫色を基調とし胸元が大きく開いた意匠なので、傍に居る者は目のやり場に困る仕様である。
その所為でソファーに座ろうと腰を折れば、ドレスから零れ落ちんばかりの豊満な胸元が見えてしまうのだ。
加えてソファーに座ったは良いがドレスの丈が短すぎて、少し足を動かせば下着が見えそうになる始末。
これには流石のアンビティオーも顔を背けずには居られない。
「お噂は兼ねがね伺っていましたが・・・本当にお美しい。私如きが見て良い物なのか躊躇ってしまいますよ」
そう言って案内役の実弟へ視線を向けるアンビティオー。
するとモーレスは苦笑したあと、兄に同調するように言及した。
「兄上、お気持ちお察しします。私も正直な所、プリームス聖女陛下を直視出来ておりません。出来たとしても暫く正気には戻れそうに有りませんし・・・それに美し過ぎて、見る事が畏れ多いと言いましょうか・・・」
それを聞いたプリームスは、わざとらしく怒った表情で、
「む~、モーレス殿はちゃんと私と相対してくれていなかったのか!? 見られて減る物でもあるまいし・・・この際だ存分に見よ!」
そう言い放ち立ち上がる。
そこから漆黒の打掛を背後のソファーへ落とす様に脱ぎ捨て、仁王立ちで自身を晒した。
まさかそんな行動に出るとは予想だに出来ず、呆気にとられるモーレス。
片やアンビティオーは苦笑しながら目を逸らす。
打掛を羽織っている状態では、身体の線が完全に隠れていたプリームス。
しかしこうなると魅惑の扇情体形が露になり、見る者をある意味ギョッとさせる。
細く真っ白で艶やかな四肢。
引き締まった腰に、程良い大きさで張りがある臀部(でんぶ)。
そして形の良い豊満な胸と、触れれば折れそうに細い首。
極めつけは幼さを残しつつも、神が造形したかの様な美しい顔立ち。
完璧で、それでいて不完全な”何か”を内包させるプリームスの様相は、見る者を魅了し捕らえて離さない・・・故に呆然自失してしまうのだ。
それを肌で感じていたからこそモーレスは直視しない。
プリームスに魅了され自身の在り方を喪失する可能性が有るからだ。
モーレスは漆黒の打掛を拾い上げ、所有者であるプリームスの肩へソッと掛ける。
「聖女陛下・・・そのような御戯れご容赦願いたい。私には今、心に決めた女性がおりますので・・・」
和ませようとしたプリームスの振る舞い。
それに上手く応える事が出来ず、モーレスは申し訳なさそうに言った。
「そ、そうか・・・」
一方プリームスは相手が思ったより反応が悪くて、恥ずかしくなりソファーに座り込む。
その小さくなって座るプリームスが何とも可愛らしく見え、モーレスとアンビティオーは笑みが零れた。
こうして切れ者2人の会談は、互いを警戒し合う事無く和んだ状況から始まるのだった。
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