第373話・永劫の国と光の国(2) 〜第六章プロローグ(2)~

永劫の王国アイオーン・ヴァスリオとリヒトゲーニウス王国の首脳会談が、漸くそれらしくなり始めた。

詰まる所、先程までは緩い歓談に等しく、現実的な会談には至っていなかったのである。



こうなると、政治的な擦り合わせになり両国宰相の出番となる。

永劫の王国アイオーン・ヴァスリオからはスキエンティアが。

リヒトゲーニウス王国からは、2大大公爵の一人ノイモン・レクスアリステラが担当する事となる。



そして話し合われる内容は、永劫の王国アイオーン・ヴァスリオの建国にあたって、リヒトゲーニウス王国がどう動くか・・・と言う事だ。


既にスキエンティアから建国の後ろ盾になって欲しい旨は伝えてあり、後はノイモンの対応次第になる。



「エビエニス陛下・・・一応確認ですが、永劫の王国アイオーン・ヴァスリオの後ろ盾・・・つまり建国承認と支援を前提に話を進めて宜しいのですね?」



ノイモンの問いかけにエビエニスは静かに頷いた。



そもそもこの確認は、プリームスから建国の知らせが届いた時点で緊急の会議が行われ、既に済まされていた事だった。

敢えて今、ノイモンが口にしたのは、”今ならまだ引き返せますよ”と暗に確認を取った訳である。



それだけノイモンはプリームスを危険視していた。

その武力、魔法力、英知、そして容姿・・・全てが人の域を超えており、もはや人ならざる者と言っても過言では無い。

そんなプリームスに関わってあまつさえ手を貸せば、後々碌な事にならない・・・そんな漠然とした不安がノイモンの心中を支配していた。



『人は自身の手に余る物に、手を出すべきでは無いのだ』

そう思いつつも、最終決定権は国王であるエビエニスが持っており、ノイモンは従わざるを得ない。


『ならば何時でもこの超絶者とたもとを別けられる様に・・・また排除出来る様に準備しておかねばなるまいて・・・』






こうしてスキエンティアとノイモンに因る協調・・・つまり国家間の協定や条約は驚く程にすんなりと纏まってしまう。



永劫の王国アイオーン・ヴァスリオの立ち位置としては、魔導院と同じく永世的な中立国を目指す──それは南方連合に参加しない事を意味していた。

因って南方諸国から国家として孤立する。


これを踏まえてリヒトゲーニウス王国は永劫の王国アイオーン・ヴァスリオの後ろ盾になる見返りに独占的な通商技術提携をし、有事の際は互いに軍を出し合い事に当たる事で折り合いをつけた。

所謂、二国間軍事協定だ。



建前では両国の不足した所を補う形になる。

だがボレアースの聖女として名を馳せたプリームスへ、独占的に唾を付ける事が出来たリヒトゲーニウス王国としては、建前以上の見返りを得たことになった。


またプリームスがギルドマスターを務める魔術師ギルドは、リヒトゲーニウスと魔導院が折半していた運営費をそのままに、運営権の比率が変化する。


以前は1:1の比率であったが、永劫の王国アイオーン・ヴァスリオが加わり1:1:1となったのだ。

これは運用で二つに意見が割れた場合の解決策・・・と言うより、国王でギルドマスターであるプリームスの存在を考慮しての事であった。




両宰相の擦り合わせが終了し、後日文書で確約する事を決めた頃合いで、エビエニスが徐に口を開いた。

「一つ、余からも案と言うか、お願いに近い事があるのだが・・・構わんかね?」



少し改まった様子で告げられ、プリームスとスキエンティアは顔を見合わせた後、頷く。

「うむ、何だねエビエニス国王?」

「はい、お伺いしましょう」



ノイモンが僅かだけエビエニスへ目配せしたように見え、どうやら事前に打ち合わせしていた事を告げるとプリームスは洞察した。



『ひょっとして今から話す内容が本題なのではないか・・・?』

プリームスがそう勘繰っていると、少し緊張した表情でエビエニスが話し出す。



「南方諸国の治安維持にプリームス殿・・・いや永劫の騎士団アイオーン・エクェスの力を借りたいのだ。名目で言うなら南方連合治安維持軍となる訳だが、どうだろうか?」



エビエニスの話す内容にプリームスは顔が引きつりかける。

『エビエニスめ・・・我々が勝手出来ぬ様に枷をはめるつもりか・・・』

そうプリームスが内心でぼやくのも仕方ないと言うものだ・・・。

何故なら、プリームス等を法の番人にすると言っているに他ならないからだ。


南方連合と言えど、リヒトゲーニウス王国からすれば他は全て他国なのである。

その他国が要らぬ野心を抱かせない為に、プリームス等の武力で監視させる・・・そしてその他国とは永劫の王国アイオーン・ヴァスリオも含まれる。


こうなると永劫の王国アイオーン・ヴァスリオからすれば、他国を監視し牽制するだけで手一杯になり、南方諸国で台頭しようなどと考える暇が無くなる・・・と言う寸法なのだろう。



またノイモンの口からでは無く国王であるエビエニスが告げたのも、一考もせずに門前払いされる事を避ける為だと思われた。



『詰まる所、危険な獣は鎖に繋いで番犬の如く使いたい訳か・・・。”人間らしい”考えだな。しかし、』

「そんな面倒な事を私が引き受けるとでも?」

とプリームスは率直に尋ねる。



相も変わらず物怖じしないプリームスに、エビエニスは苦笑いを浮かべ、

「う~む・・・今までの功績を見るに、プリームス殿は正義感が強い世話好きに感じたのだが・・・違うのかね?」

と逆に問い返して来た。



「いや・・・それは成り行きと言うか・・・私は別に・・・」

そこまで答えて口ごもってしまうプリームス。

理由は自分のしてきた事を客観的に見て、エビエニスが言う様な印象を持たれても仕方が無いと思ってしまったからだ。


正直な話、プリームスとしては自身の好奇心を満たすために行動しただけである。

『はぁ・・・私は昔からこんな質だったな・・・。またやってしまった訳か・・・』

結果、こうして内心で項垂れてしまうのだ。



『だが、ここはキッパリと断って、怠惰で自由気ままな生活を守るべきだ。今までの御節介な私に別れを告げてやる!』

などど、プリームスは変な方向へ意気込んでしまう。



すると、そんなプリームスを余所にスキエンティアが口を開いた。

「エビエニス陛下は守り人一族の武力を知っておられますが、南方連合の他の国々はそうではありません。ぽっと出の我々が治安維持軍として活動する事に、異議や疑問を持つ国が必ず出て来るでしょう。それこそ諍いの火種では?」



スキエンティアの理路整然とした言い様に反論できないのか、エビエニスは黙り込んだ。



『流石スキエンティア! でかしたぞ』

とプリームスは内心で喝采を贈る。



しかし一人だけリヒトゲーニウス側で黙っていない者が居た。

「それに関しては力を示す必要があるでしょう。そして丁度良い案件がありましてな・・・」

と告げたのは宰相のノイモンだ。



『これは・・・道理が通れば引き受けると言う話の流れなのでは・・・』

自身の願いとは裏腹に、雲行きが怪しくなり焦り出すプリームスなのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る