第374話・南方連合治安維持軍(1)  〜第六章プロローグ(3)~

プリームスを王とする永劫の王国アイオーン・ヴァズリオの建国にあたって、リヒトゲーニウスとの会談に一区切りがついたかに見えた。


しかし然も個人的な申し出の様に、国家間に関係する重要な案件をエビエニスが口にしたのだった。



それは南方諸国の治安を維持する為に、"南方連合治安維持軍"なる物を作ると言う内容だ。

只それだけなら特に問題は無い・・・「はい、そうですか、頑張って下さいね」で終わる。


だがその治安維持軍を構成する為に、永劫の騎士団アイオーン・エクェスの力を借りたいとエビエニスが言い出したのだ。


これにはスキエンティアが異議・・・もとい危惧する様子を見せた。

ぽっと出の実力の知れない国の軍が、それに当るのは他国が納得しないと・・・。



まるで準備していたかのように、

「それに関しては力を示す必要があるでしょう。そして丁度良い案件が有りましてな・・・」

などと宰相のノイモンが透かさず言った。


要するに永劫の騎士団アイオーン・エクェスを派遣して解決する程の諍いが有る訳だ。

しかもそれは列国的な問題で、繊細な内容に違いないだろう。


そうなると、ただ武力が強いだけでは無く、政治的配慮が出来る者を派遣しなければならない。

師団や軍団を指揮する程度ならイースヒースやイリタビリスでも問題無いが、取り引きや交渉事になるとテユーミアやエテルノが必要になるだろう。


つまり軍事・政治を鑑みて2人は派遣する必要があった。

何にしても詳しく話を聞かなければ判断しようが無い。


プリームスが仕方ない・・・と諦め顔をしたのを確認して、

「どう言った案件なのか詳細を伺いましょう」

とスキエンティアは告げた。



僅かだがホッとした表情を見せたノイモン。

プリームスがまだ承諾していないとは言え、取り付く島が有った事に胸を撫で下ろしたのかもしれない。

それに本来なら心中を悟らせない権謀の凄腕の筈だが、相手が超絶者のプリームス等だけに、流石のノイモンも緊張していたのだろう。



「実は西方諸国との境にあるセルウスレーグヌム王国で揉め事が起きて居まして・・・。このまま放置すれば戦争に発展する可能性が有るのです。そこで南方連合を代表して軍事的・・・出来れば政治的に介入し仲裁したいと考えていましてね」

そう何も無かったように冷静な口ぶりでノイモンは告げた。



プリームスは聞いているのか、いないのか・・・ソファーに深く身を預けて怠そうにしている始末。

相当にめんどくさい様子である・・・。


なので話を進めてしまった以上、スキエンティアが”全て”対応するしかないと考えノイモンに続きを促した。

「国同士の諍いですか。なら領土問題が一般的ですが・・・領土が定まった平和な今では、それもありえませんよね?」



ノイモンは小さく頷き、

「わざわざ人的資源を消耗する戦争などしようと思う国は無いでしょうね。まぁ、そこまで行かなくとも自国の損得で小競り合いが生じるものです、特に軍事力の高い国は・・・。それに西方や東方とは文化が違いますからな」

と思わせ振りに言う。



文化圏の境目は、どんな時代でも揉め事が絶えない。

それが陸続きであるなら尚更である。


詰まる所、文化が違えば生活様式であったり、信奉する神も違ってくる訳だ。

そうなると価値観も随分と変わってしまう。

そして人間は価値観が違えば、相容れぬ物を嫌悪し排除する傾向を示す。

結果、異なる文化圏同士の紛争が、古来より幾度となく繰り返されて来たのだ。



『実際は”それ”を利用し争わせる者が居る。以前居た世界の大元老院と教会の様に、この世界にも何かが暗躍している可能性がある』

そこまでプリームスは推測し、その先は考えるのを止めた。

差し当たって"それ"の影響が無いからである。


それよりも現状の面倒事を処理しなければならないが、本当に面倒なのでスキエンティアへ任せる事にした。



一方、随伴したエテルノとイースヒースは出番が無い所為か暇そうだが、ダレるプリームスを見て呆れ顔であった。


また例外中の例外であるアグノスは、そんなプリームスを目にして、

『フフ・・・本当に何をしてらしても可愛らしいのですから・・・』

などと1人惚気状態だ。


因みに"例外中の例外"とは、アグノスがエビエニス国王とエスティーギア王妃の娘だからである。

つまりリヒトゲーニウスの姫が今やプリームスの身内で、永劫の王国の首脳陣として会談に臨んでいるのだった。



「ふむ・・・でしたら領土問題に限りなく近い、資源の所有権争いと言った所では? しかも国境・・・無国籍地帯・・・」

と少し考えながらスキエンティアは告げる。



スキエンティアの洞察にノイモンは感心した。

「お見事です・・・僅かな情報で言い当てるとは。もしやご存知でしたか?」



微笑みながら否定するスキエンティア。

「いえ・・・幾つか考えられる物で、それらしいのを口にしただけですよ。で、そろそろ詳しく聞かせて頂けますか?」

顔には出さないが、ノイモンが件の核心を中々話さない事に少し苛立ちを覚える。


そして何故勿体ぶるのか、ノイモンの意図も見抜いていた。

スキエンティアの目端の利きを試していたのである。



スキエンティアの苛立ちを敏感に感じ取ったのか、

「お気を悪くしたのなら、お詫びいたします・・・試すような事をして申し訳ない。どうも小生は権謀に長けた方の実力を試さずには居られない質でして・・・」

とスキエンティアへノイモンは頭を下げた。



「いえいえ・・・私は構わないのですが、プリームス様が本当に飽きて来てしまったようで・・・。こちらこそ申し訳ありません」

逆に謝る羽目になったのはスキエンティアの方であった。

王である自身のプリームスが立場に相応しくない振舞いをすると、その家臣や部下が謝罪する羽目になる。


その言葉通り先程に増して、プリームスは退屈そうにソファーの肘掛けへ頭を預けている状態だ。

これには、この場所に居合わせた全員が苦笑いを浮かべる他無い。



「いやいや・・・私こそ退屈にさせて申し訳ない。では詳細をお話し致しましょう」

こうして漸くリヒトゲーニウスにとっての会談が、本題に進むのであった。


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