第六章:奴隷王の国の歌姫

第6章予告

「はぁ・・・誰も私の事を理解してくれない・・・」

少女は自身の思いを汲みとってくれない周囲に苛立ちを感じ、つい独り言が口を衝いた。



良く手入れと管理が行き届いた庭に、小川が流れる優し気なせせらぎが響く。

その少女が居る場所は、そんな趣のある庭が一望できる露台。

高級そうなテーブル席に着き、少女はお茶を楽しんでいたのだ。

しかし憂鬱な思いが少女の心中を支配し、美しい庭と美味しいお茶を楽しむ気持ちにはとてもなれない。



だが彼女を知らない者からすれば、何を贅沢な事を言っているのか・・・と苦言を呈するだろう。

それ程に、この少女は高級な衣装を身に纏い、なんら生活に苦労しない環境に置かれていたからだ。



この少女の名は、クラージュ・ファマトゥウス。

セルウスレーグヌム王国国王アンビティオーの姪・・・つまり王弟の娘にあたる。





「どうしたんだい? 今日はいつになく機嫌が悪そうだな」

クラージュの背後から男性の声がした。


クラージュは椅子に座ったまま少し振り返ると、そこには人の良さそうな中年の男性が立っていた。



不機嫌な表情を何とか抑え込み、クラージュは笑顔をその男性に向ける。

「お父様・・・、いえ不機嫌だなんて・・・。ただ今までの教師が私の求める水準に無いと言うか・・・それに皆、私を硝子細工の様に扱うのが日常になっていて納得がいかないのです」



「フフ・・・やっぱり不機嫌なのだろう? まぁ硝子細工と言うのは仕方あるまい・・・お前はこの王弟モーレスの娘で、詰まる所は姫なのだから」

そこまで言ってモーレスは溜息をつく。


そしてクラージュの頭を優しく撫でて続けた。

「だが・・・前者の方は、お前の言う水準を満たすかも知れんぞ?」



少し驚いた表情を浮かべるクラージュ。

しかし直ぐに諦めた様な顔をして、父モーレスへ告げた。

「毎回そんな事を言って、結局は大した事の無い方ばかり連れて来るのですから・・・」


そんな言い様をされて最早諭す術を失ったのか、モーレスは苦笑いをするだけである。



『姫姉さまが王妃に成られた今、レギーナ・イムペラートムを継ぐのは私しか居ないのだから・・・。私がしっかりしないと・・・』

王弟ではあるが、自分にとって今は頼りにならない父・・・。

クラージュはそれ以上に自身が不甲斐ない事を自覚している。


だからこそ王族として、また憧れたフィエルテの後を継げる様に強い意志をもって自分へ言い聞かせるのだった。


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