第359話・国の在り方と人事(3)

結局、テユーミアに押し切られ”永劫の騎士団アイオーン・エクェス”の設立が確定してしまう。



『スキエンティアが何と言うか・・・とほほ・・・』

プリームスは意気消沈し、溜息を洩らした。

一番の忠臣で一番の身内であるスキエンティアを放っておいて、相当に重要な事を勝手に決めてしまったからだ。

正に後悔先に絶たずとはこのことであった。



そもそもスキエンティアとフィエルテを地上に残し、勝手に地下世界にやって来たプリームス。

それだけでも咎められ、クドクドと小言を言われるのが明白なのだ。



プリームスが一人で落胆しているのを余所に、他の面子で話が進み”永劫の騎士団アイオーン・エクェス”の構成と役割、序列が決まる。



先ず騎士団の団長を剣聖インシオンが担当し、同時に軍事の最高権限──軍司令を王より代理する。

同じく同格の団長としてスキエンティアを置き、政治の最高権限──宰相を担う。


インシオンの下には序列1席にエテルノ、2席にフィエルテ、3席にイリタビリスが据えられた。

またスキエンティアの補佐役、そしてその下の序列1席がテユーミア、2席がアグノスとなり、こちら文官勢は1名不足している事となった。


また飽く迄も暫定的で能力を考慮すれば、テユーミアとエテルノは武官側と文官側を兼任する事で落ち着いた。



御祖母シュネイ様が問題無ければ、私どもの文官側に来てもらうのが宜しいでしょうね」

とアグノスが、少し短絡的に意見を告げる。



わざとシュネイの事を口にしなかったテユーミアとしては、気不味くなりインシオンへ申し訳ない視線を向けた。



「テユーミアはシュネイの体調を考えて、騎士団の席に加える話をしなかったのだろう? 守り人の王として寿命が差し迫っているからな・・・」

インシオンはそう言って苦笑いを浮かべる。



アグノスは自身の考えが至らず、慌てて頭を下げた。

「あっ!・・・申し訳ありません・・・」



気にしない様にアグノスへ告げ、インシオンはプリームスを見やった。

そうするとプリームスは思わせ振りに、

「調停条件が達せられた筈なのでな、その辺りは問題無かろう。だろう?、アーロミーア」

給仕が済み傍に控えて居た元”使者”へ問いかけた。



今のアーロミーアは身内以外の周囲の者が勘違いしない様に、口元を隠すフェイスベールを着けている。

そして衣装はアグノスから貰ったのか、侍女服である。


そんな彼女は”人間らしく”立場を弁えているのか、

「はい、魔神王の英知を直ぐにここへ提示する事も可能です。どう致しましょうか?」

と丁寧な口調でプリームスへ答えた。



プリームスはそれを制する仕草で小さく片手を上げる。

「いや、その必要は無い。シュネイと合流するまで大事に仕舞っておきなさい」



テユーミアは少し心配そうにプリームスへ尋ねた。

「プリームス様は以前の世界で魔神戦争を体験し、それを乗り越えられたのですよね? でしたら魔神王の英知を御存じかと思われますが、それはどう言った物なのでしょうか?」



本来であれば魔神戦争が終結し、シュネイが得る筈であった魔神王の英知。

だが多くの不測事態でそう為らず、調停と英知が宙に浮いた状態だったのだ。

それを本来部外者であるプリームスが得てしまい、今の状態に至る。


またプリームスは以前の世界で魔神王の英知を得た経験があり、今ここに居る誰も知らない真実を知り得ていた。



「うむ・・・魔神王の英知は、知識、技術、不死の秘法の三つから構成される。もしシュネイを寿命から救うとするなら、不死の秘法を使う事になるだろう」

出来るだけ端的に要点だけをプリームスは告げた。



するとテユーミアは先程にも増して不安そうな表情で言った。

「不死の秘法・・・それはエテルノ様のようにアンデットになると言う事ですか?」



ここで言うアンデットは、不死王ノーライフキング吸血鬼ヴァンパイアなどを指す。

非常に高位な存在ではあるが、人としての普通の生活を送れる訳も無く・・・それをテユーミアは心配しているのだろう。



「その通りだ。それが一番手っ取り早いが・・・そもそも本人が延命を望まぬなら、それを思案した所で意味が無い」

プリームスが率直に答えると、テユーミアの表情が完全に曇った。


当初の目的は民を救い出し、インシオンをも救い出す事。

そして愛し合う2人を会わせる事がテユーミアの願いなのだ。

それなのに再開して早々、寿命で片方が他界してしまっては悲し過ぎる・・・そう暗に言っているようであった。



当然そんな事は承知しているプリームス。

故にテユーミアを諭す為に優しく言葉を続けた。

「そう心配するな。確かに不死の秘法をそのまま使ってしまえば、我々が知るような最高位のアンデットなってしまう。だが、少し調整してやれば人としての存在を保ちつつ、不死では無く不老に近い存在へと変わる事が可能だろう」



テユーミアの表情が一瞬で明るくなった。

それだけでは無くインシオンも、プリームスの言葉に目を見張る。



「私は元よりシュネイと再会出来る事など、考えてもいませんでした。なのに貴女様はそれを可能とした上、シュネイの命まで救ってくれるというのですか?!」

嬉しさと申し訳無さが織り交ざった感情を湛え、インシオンはプリームスへ問う。



それを無言で頷きプリームスは肯定する。



「有難う御座います・・・」

インシオンはそう小さく呟くように言って、深く首を垂れた。



席から立ち上がるとプリームスは一同へ告げる。

「さぁ話し合う時は終了だ。次は行動を以て示せ」


その言葉に一同は一斉に立ち上がり、

「承知いたしました」

と声を揃えて言うのだが・・・ただ一人、不安そうにプリームスを見つめる者が居た。



アーロミーアである。

彼女はプリームスの背後からソッと囁いた。

「あのぅ・・・私の立場や役割は・・・? 騎士団には入れて貰え無いのですか?」



「うん? あ・・・そうだな、お主の事は明確に決めていなかったな。さて、どうしたものか・・・」



プリームスが少し思案する様子で悩んでいると、テユーミアがきっぱりと言い放った。

「貴女の騎士団入りは許可出来ません!」



「ええぇ!? どうしてですか? 私だってプリームス様の身内なのですよ!」

とアーロミーアは、不満そうにテユーミアへ異議を唱えた。



これにはテユーミアでは無く、フィートが補足するように答える。

「王に成られるプリームス様の影武者なのでしょう? そんな方が騎士団に所属し業務を遂行するには、色々と矛盾と支障が生じるでしょう。ですから特別な枠組みで在るべきです」


更に少し思案した後に続けた。

「そうですね~、役目は明確に影武者で、非番の場合はプリームス様の護衛と傍付従者を兼ねれば良いかと。立場は非公式な存在ですので・・・無しですかね?」



言うべき事をフィートが全て言ってくれた為、テユーミアは立つ瀬が無く黙り込んでしまう。



加えてフィートは追い打ちをかけた。

「え~と・・・アーロミーアさんよりも、私の扱いはどうなるのでしょうか?」



『また問題を増やしおって・・・』

折角、会議を締めくくったと言うのに蒸し返されて、今度はプリームスの立つ瀬が無くなるのであった。


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