第358話・国の在り方と人事(2)

プリームスの為の国作りをすると言い出したテユーミア。

それに先立ちプリームスの下に、最上位組織を設立したいと提案したのだった。

しかもインシオンまでもがプリームスに恩義を感じているのか、それに同調する。



ここで問題なのが"プリームスの為の国"な点だ。

正直、この2人からはプリームスへ対する狂信的な忠誠心を感じる。

故にプリームスは、

『過剰な考えや行動を取らなければ良いのだが・・・』

とボヤキにも似た心配をしてしまうのだ。



それに国とは元来、同じ意志や価値観の元に集った人々の集合体である。

なのに只1人の為に国を作ると言うのだ・・・正気の沙汰では無い。

守り人の民達が許す筈が無いのだ・・・。



ここでプリームスは失念していた事を思い起こす。

そして嫌そうな表情を浮かべテユーミアを見つめて呟いた。

「テユーミア・・・民の資質を利用するつもりか・・・」



するとニヤリと笑みを浮かべて、それを無言で肯定した。

その隣に座るインシオンも小さく笑うと、

「良いではないですか。民は盲目的に忠誠を捧げる対象を求めているのです。互いに利害が一致しているでしょう?」

などと告げる始末。



傍で聞いていたイリタビリスが理解出来ずに首を傾げる。


一方フィートは察したように、思考しながら言葉を綴った。

「確か魔神と戦う為に守り人一族は、より完全な統率を求めて遺伝子を操作したのですよね? このまま魔神との戦いが終焉してしまえば、その資質は不要となり・・・更に拠り所となる王まで失えば路頭に迷う事に成り兼ねないでしょうね」



「うっ・・・」と一瞬絶句してからプリームスは言った。

「確かにそうかもしれん・・・だが利害が一致しているとは言えない。私は別に民の忠誠など求めてないからな」



駄々を捏ねる子供を諭す様に、テユーミアが優しくプリームスへ言った。

「我らの王に為る為らないは、もうさんざん御母様と論議されたでしょう。そしてプリームス様が折れられた・・・。今ここで話し合われているのは、プリームス様をどう御守りし、王としてどう盛り立てていくのか・・・と言う事です」




もはやプリームスの退路は断たれているのであった。

ならばせめてもの抵抗とばかり溜息をついた後、一同へ向かって言い放つ。

「はぁ・・・お前達がそれで幸せなら別に異議は唱えん。だがな、私は面倒な事は一切せぬからな! 表立って私の存在が必要ならアーロミーアでも使ってしまえ!」



それを給仕しながら聞いていたアーロミーアが、何故か嬉しそうに言った。

「えぇぇ!? 私なんかで良いのですか? わぁ~プリームス様に代わって王の振る舞いをするなんて、何だか楽しみです」



「フフフ・・・良きに計らえと仰るのでしたら、お任せくださいまし。必ずやご期待に添いましょう。と言う事でプリームス様直下の近衛組織を設立致します」



そう告げるテユーミアを嫌そうに見つめ、

『こ奴、言い切りおった・・・スキエンティアも居ないと言うのに・・・もう私は知らんぞ」

とプリームスは内心で不平を呟きつつも状況を見守った。



「この組織は軍事・政治の両方を、王で在られるプリームス様に代わり代行・代理致します。また組織的な建前は取りあえずですが、王直下の騎士団と言う形態で問題無いかと。そこで騎士団の面子の序列と役割を設けたいと思います」

テユーミアの”序列”という言葉に、イリタビリスとアグノスが敏感に反応する。



「え・・・序列とか作っちゃうんだ?!」


「ムムム・・・叔母様、役職的な序列と言うのでしたら仕方ありませんが・・・公私共にその序列を宛がうのであれば、いささか納得がいきませんよ!」



2人の反応を予想していたのか、

「落ち着いて・・・何も公私共にとは言っていませんよ。飽く迄、公な騎士団としての序列を言っているのです。プリームス様との私的な関係性に言及すれば、各々が分別と良識を弁えて振舞えば宜しいかと思っています」

と落ち着いた様子でテユーミアは補足を口にした。



このやり取りを聞いていたプリームスは、”私的な関係性”の有耶無耶感にテユーミアの強(したた)かさを感じる。

『ものは言い様だな・・・。詰まる所、私を独占したければ他の身内から、顰蹙ひんしゅくを買わないように上手くやれと暗に言っている訳か・・・』


それは結局、何となく存在する私的な序列は、テユーミアも上手く掻い潜って好き放題する事を示していた。




「君達が水面下で火花を散らすのを邪魔する気は無いが・・・騎士団の名称はどうするのだね? それにここに居合わせない身内の役割は?」

苦笑しながら、少し申し訳なさそうにインシオンが言った。



最もな質問にイリタビリスとアグノスが押し黙り、テユーミアを見つめる。

ここまで主導で話を進めたのだから、当然決めているだろうと目で訴えているのだ。



軽く咳ばらいをしてテユーミアは答えた。

永劫の騎士団アイオーン・エクェス・・・は如何でしょうか? 古代魔法語で不滅や永遠を意味します。要するに私達の身が滅びようとも、プリームス様に捧げる忠誠と魂は不滅と言う事ですね」



「おおぉ!」


「かっくいい!」


「ふむ・・・私には異論は無い」


「・・・・・」



プリームスは頭を抱えた。

『うぅぅ・・・重い・・・。何か凄く重みを感じる・・・』



給仕を済ませたアーロミーアが、興味津々にテユーミアへ尋ねた。

「では、役割とその序列は?!」



頷くテユーミアは、更に説明を続ける。

「それも暫定的には考えてあります。先ず御父様インシオンを軍事面での最高の序列に置き、スキエンティア様を宰相として同格にしてはどうでしょうか? その後の面子は、政治・軍事の適正を考慮して振り分け、能力の高さに応じて同格にして行けば良いかと・・・」



それを聞いたアグノスは、記憶を探るような仕草で次々に名を口にした。

「え~と・・・武力や軍事と言う事でしたら・・・フィエルテさん、イリタビリスさん、エテルノさん、それに叔母様テユーミアは・・・両分野でも活躍出来そうですね」



それに続く様に今度はフィートが言及する。

「政治面では、やはりスキエンティア様を頂点にして、アグノス姫・・・・・・他に政治的な細かな配慮が出来そうな方がいません・・・」



中々辛辣なフィートの言い様に、インシオンは小さく苦笑してしまった。



「お父様・・・笑い事ではありませんよ。建国時に一番の問題は事務的な処理になって来るでしょう。人手が足らなければ問答無用で手伝って頂きますからね!」

そう娘のテユーミアに告げられ、わざとらしくインシオンは背筋を正す。



つい先日まで、互いが親子で有る事など意識していなかった筈なのに、この2人は既に打ち解けているようでプリームスは安堵した。



『私がとやかく言わずとも、勝手に事は進んでしまうのは今も昔も変わらんか・・・』

良くも悪くもプリームスの周囲に集まる者は優秀で、土台さえ作ってやれば何事も上手くこなしてしまうのだ。


この親子はその最たるもので、以前の世界でプリームスを支えた忠臣達に引けを取らない活躍をするに違いない。

そう思うと嬉しくもあり・・・過去を思い出し僅かだが物悲しくなってしまうのだった。


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