第353話・一触即発の身内と身内未満
何時の間にか部屋にやって来ていたイリタビリス。
プリームスとアーロミーアが抱き着いているのを目の当りにして、血相を変えてしまう。
「あー! な、何してるの!?」
しかし直ぐに状況が変な事に気付き、呆然として呟いた。
「プ、プリームスが2人・・・!!?」
プリームスは全身が痛くて思う様に身体が動かない。
対してアーロミーアは不思議そうにイリタビリスを見やり、
「私ですよ、アーロミーアです。そんなに驚く事ですか?」
などと言う始末だ。
呆然としたままイリタビリスは、プリームスとアーロミーアを交互に見つめる。
更に何度も確認するように見つめた後、
「白いプリームスと黒いプリームス・・・大変だ・・・」
と呟き固まってしまった。
『いや・・・問題はそこじゃ無いだろ』
そう内心で突っ込むプリームス。
状況を把握していないイリタビリスを考慮すると、他の身内もアーロミーアが”こう為っている”事を知らない筈である。
早々に対応する為、イリタビリスが正気に戻るまで呼び続ける事になった。
「イリタビリス・・・」
弱々しい声で10回程呼び、漸く我に返ったイリタビリス。
「あっ・・・はい! 何? 何? え~と、白い方のプリームス・・・が呼んだんだよね?」
『こいつは天然だな・・・何だよ、白い方って・・・』
ぼやきつつもプリームスはイリタビリスへ小さな声で告げた。
「余り大きな声が出ないのだ・・・側に来てくれ」
従順にベッドに横たわるプリームスに近付き、イリタビリスはその口元へ耳を寄せる。
「この黒っぽい私に似た奴はだな・・・」
と話し始めたプリームスは、イリタビリスに分かり易い様に1から10まで説明をする事にした。
中々に聡い所も有るが、若い所為か天然な所もチラホラ見受けられるからだ。
こうして何とかイリタビリスへ状況を把握させるに至る。
「でも、本当にソックリだよね〜。やっぱりプリームスみたいに武術と魔術も完璧なのかな?」
イリタビリスはアーロミーアをマジマジと見やり、不思議そうに何方へとも無く尋ねた。
これはプリームスも気になっていた事であり、アーロミーアへ興味津々な視線を送った。
因みに2人は抱き合ったままなので、プリームスがアーロミーアの胸元から顔を見上げる状態だ。
するとアーロミーアは、まるで双子の妹を世話する様に、プリームスの背中を撫でながら言った。
「う〜ん・・・どう言った仕組みなのかは理解していますし、恐らく実行も出来るでしょう。ですが質や精度、それに威力や規模がプリームス様の足元に漸く届くと言った所かと」
「え? 何で!? 全く同じ体なのに、技や魔法の威力が違うって事でしょ? 変だよ〜」
とイリタビリスは、不満と不可解さが折り混ざった様子で告げた。
しかしプリームスは予想していたように呟く。
「やはりそうか・・・」
そして今一理解出来ないイリタビリスへ説明を続けた。
「経験の問題だ。例えば凄まじく良く切れる剣が二本有るとする・・・これを私とアーロミーアの体と仮定しよう。で、実際にこの剣を振るうのが私自身と、ズブの素人だったとしたら?」
そうプリームスに言われ、イリタビリスは察して声を漏らした。
「あ! なるほど・・・確かに使い手が素人なら剣が良く切れる物でも、その力を発揮出来ないよね。それと同じで黒い方は、プリームスの技や魔術を扱う素人だから下手で弱いって事だね!」
間違ってはいないのだが言い様が悪かったようで、
「黒い方って・・・私はアーロミーアと言う名前が有ります。ちゃんと名前で呼んでください。それに技や魔法もプリームス様に及ばないと言うだけで、その辺の強者など相手に為らない程度には私・・・強いですよ」
少し拗ねた様にアーロミーアは反論する。
イリタビリスは「ムッ」として、
「そうなんだ・・・じゃぁ、あたしより強いんだ?」
とアーロミーアへ挑発紛いの言葉を口にした。
売り言葉に買い言葉・・・アーロミーアも負けじと言い返す。
「あら、実際に確かめたいと言うなら吝かでは無いですよ。表へ出ますか?」
その2人の様子をみてプリームスは溜息が漏れた。
『やれやれ・・・イリタビリスからすれば、”身内(かぞく)”内での序列が下がる可能性を潜在的に感じたのだろうが・・・』
そこまで思い、言い忘れていた事が脳裏を過った。
「まてまて2人共・・・いや、特にイリタビリス。伝え損ねた事が有る」
家長であるプリームスに諭されれば、黙って従うしかないイリタビリスとアーロミーア。
喧嘩腰が一瞬で素に戻り、プリームスが話し出すのを従順に待った。
「・・・・・」
「・・・・」
「アーロミーアを身内へ迎えようと思う。理由は分かるな?」
プリームスから端的に告げられて、イリタビリスは顔色を変えた。
それから嫌そうな渋い顔になり、珍しく反抗的な態度を示す。
「分からない・・・こいつは私の母を殺したケーオと同じ存在なんだよ!!」
ケーオの一件に片を付けた筈ではあるが、イリタビリスの心に傷を残したのは明らかなのだ。
これを癒すには時間が必要であり、その時間も数日しか経っていないのだから、この反応は仕方のない事なのだろう。
それが分かっているプリームスとしては、末席の彼女へ命令する様な強い言葉は憚られた。
「分かっている。だが良く聴いて欲しい・・・アーロミーアはケーオとは別の個体なのだ。つまり人間と同じように”使者”にも個性がある。それに人を傷付ける事はしていないと本人も言っていただろう?」
イリタビリスは少し俯くと、頑なな意志を示す様に首を横に振った。
すると見兼ねたのかアーロミーアはベッドから降りると、イリタビリスの前に立ったのだ。
『うお?! 一触即発!』
と慌てつつも、内心で他人事のように呟くプリームス。
今一なこの反応は、自身の身体が自由に動かない事もあり、どうしようもない諦めから来ているとも言えた。
何とも頼りない家長である。
だがアーロミーアは良い意味で期待を裏切った。
ソッとイリタビリスの手を優しく取ると、
「私は人を傷付けたいなどと思った事は1度も有りません。出来れば人間と仲良くしたい・・・もっと傍に居て、見て知りたいと思っているだけなのです」
計算なのか本心なのか、そう下手に出て神妙な面持ちで告げたのだった。
今のアーロミーアの姿は、プリームスと髪と瞳の色は違えど瓜二つ。
その外見の美しさからくる主張の強さに抗うのは、イリタビリスにしてみれば至難の技・・・故に若干折れてしまう。
「・・・プリームスがどうしてもって言うなら我慢はする。でもあたしは貴女を信用しない。常日頃、自分の振る舞いに気を付ける事ね!」
そう捨て台詞の様に告げると、イリタビリスはそっぽを向いてしまった。
やれやれ・・・とプリームスとアーロミーアは、顔を見合わせ苦笑いを浮かべた。
その時、部屋の扉をノックする音がする。
イリタビリスに続き、再び難事がやって来たような気がした。
故にプリームスは、入室許可を出す声が中々出せなくなってしまうのだった。
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