第352話・二人のプリームス(2)
プリームスの過去の事情を詳しく知っているのは、身内でテユーミアぐらいしか居ない。
そのテユーミアから話を聞き出した訳でも無いのに、アーロミーアは”それ”を良く知っている素振りを見せた。
流石に身内でも無い者・・・否、人間でも無いアーロミーアに”それ”を知られるのはプリームスとしては許容し難い。
故に優しく問い質すと、彼女はあっさりと訳を話し始めた。
「実は・・・プリームス様の遺伝子を拝借した時に、流れ込んできたのです。貴女の記憶が・・・」
そう告げた後、慌てて言い訳をし出す。
「あっ・・・でも、故意に記憶を探ろうとした訳ではありませんよ! 本来なら口付けを交わした程度で、そんな事が起きよう筈が無いのですが。恐らくプリームス様と何らかの相性が良かったのかも知れません・・・」
『何らかって何だよ・・・』
と内心で突っ込むプリームスだが、必死に取り繕うとするアーロミーアに免じて黙ってやった。
その代わり、どの程度まで知り及んでいるのか訊いておく事にする。
「起こってしまった物は仕方ない。それよりも私の記憶を何処まで把握した?」
「え~と・・・プリームス様は350歳で在らせますので、記憶は深く何処と言われましても困るのですが・・・。少なくとも
そのアーロミーアの答えにズッコケて、プリームスは膝枕から落ちてしまう。
幸い下は柔らかなベッドで、弱々しい今のプリームスでも大事には至らないが、問題はそこでは無い・・・。
正直な所そこまでの記憶は、スキエンティアでさえ知り得ないプリームスの過去なのである。
つまり忠臣であるスキエンティアを容易に飛び越えて、プリームスとの間に割り込んで来たのだ。
それがどれだけ無茶で危険な事か・・・考えるだけでプリームスは寒気がした。
「プ、プリームス様! どうされましたか? お気を確かに!!」
そんなプリームスを余所に、アーロミーアは漠然と心配するだけだ。
プリームスは溜息をつくと、
「お主は人間では無いから分からんのだ・・・。人と人は時間を掛けて互いを知り、関係を築くのに・・・」
そこまで口にして、諦めたように先を言い
人間でも無い相手に”人同士の関係はとは斯くあるべし”と説明しかけたからだ。
「え? え? 途中で止めないで下さい・・・。気になりますよ!」
困ったように文句を言い出すアーロミーア。
その戸惑っている様子を見るに、本当に元魔神なのか俄には信じ難い。
『よくよく考えれば魔神王から生み出されたのかも知れんが、それが”魔神”と言う定義に沿っているのかは定かではないしな・・・』
とプリームスは思いつつも、人間か?と言うとアーロミーアは明らかに違うのだ。
その矛盾を抱えた様な存在が、自身と根底が似ている気がして苦笑いが漏れた。
プリームスの反応に、怪訝な顔でアーロミーアは問いかける。
「何で笑うんですか・・・」
何も答えずプリームスは、アーロミーアをジッと見つめてみた。
全くもって外見はプリームスに瓜二つ・・・遺伝子を複製し姿を模倣したのだから当たり前ではあるが。
しかし様相は何時ものプリームスとは随分違う。
黒のショートパンツに、同じく黒色でレース生地を基調にしたキャミソールを身に着けていた。
他は何も身に着けておらず、非常に薄着である。
片やプリームスは薄着も薄着・・・真紅上下の下着のみであった。
「って、寒いと思ったら・・・風邪をひくではないか」
首を傾げてアーロミーアは言った。
「え? プリームス様がお眠りになる場合は、裸か下着のみと伺っていましたが・・・」
「いや・・・時と場合を考えよ。こんな弱っている私では免疫力も下がり、身体を冷やして病気になると言っておるのだ」
そうプリームスが苦言を呈すると、アーロミーアは合点がいった様に「あぁ~!」と声を漏らす。
そして何故かニッコリ微笑むと、プリームスに身を寄せてベッドへ横たわったのだった。
「む?! なんだ?」
不安そうなプリームスなど放って、アーロミーアは抱き付き肌を寄せて告げる。
「寒いのでしたら、私がこうして温めて差し上げてますから」
アーロミーアの基礎体温が高いのか、少し冷えたプリームスの体には心地よく感じた。
またその柔らかさと、ほのかに香る甘く優しい匂いが鼻腔をくすぐる。
『おおぅ!? まさか自分自身に抱きしめられるとは・・・。それにこんな扇情的なのは駄目だ! 下手に野放しには出来んぞ・・・』
自分と同じ外見で、自分の預かり知ら無い事をされる危険を思い描き、プリームスは恐怖を抱いた。
「アーロミーア、色々訊きたい事があるが・・・先ずは何故私の姿を模して、私の元に居るのか詳しく答えて貰おうか」
プリームスの問いに、アーロミーアは特に戸惑う事無く頷くと徐に語り出す。
「先程も言いましたが・・・調停条件を達成した者の姿に、私は成りたかったのです。それは私の自由に直結してはいますが、"本当"の使命が強く影響しています」
プリームスは自身と全く同じ豊満な胸に顔を埋めて、アーロミーアの言葉を復唱する様に訊いた。
「本当の使命?」
胸の谷間に吐息が触れて、アーロミーアは少し擽ったそうにしながら答える。
「はい・・・私は淘汰された者達と世界を監視するのが役目なのですよ。只、私達の様な個体は、それぞれ自立した個性や意志があるので、どういった形で監視するのかは個体で変わってくるでしょう」
「なるほど・・・つまりアーロミーアは、私を監視する事が目的な訳だな?」
と結論を端的にプリームスは口にした。
アーロミーアは、抱き寄せたプリームスの頭と背中を優しく撫でながら頷いた。
「要約すると、そう言う事ですね。因みに私の願いは、美しく強いプリームス様を模倣して傍に置いて貰う事です」
『う~む・・・』
何だか嫌な予感がしたプリームス。
恐らくアーロミーアはプリームスに惚れたのだ。
そして惚れた者の姿を自分自身も真似したい・・・と言うのも分からなくも無い。
一般的な常識で言えば着飾り方を真似したり、仕草を模倣したりなのだが・・・。
『まさか姿形を完璧に模倣されるとはな・・・』
と内心でボヤキつつ溜息が出てしまった。
差し当たってアーロミーアの件は、プリームス的に安全は確認出来たと言えるだろう。
そうしてホッと胸を撫で下ろした瞬間、新たな来客が問題を運ぶ。
「あー! な、何してるの!?」
声の主は、いつの間にか部屋に来ていたイリタビリスの物であった。
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