第329話・再戦と両陣営の思惑

プリームスは気怠い体をベッドに横たえていた。

魔力を吸収し空中へ拡散させる神鉄鎖を、拘束具として身に付けさせられている為だ。

これに因り魔力欠乏が起き、全身に力が入らず貧血に近い症状をプリームスは患っていたのだった。



そして相変わらず賓客然とした部屋で監禁されている訳だが、このまま手を拱いていても何も改善されない。

かと言って今のプリームスは、無力以外の何者でも無かった。


そこで身内に期待する選択肢が上がるのだが・・・それも厳しい。

例えば優秀なテユーミアがプリームスの事態に気付き駆け付けたとしても、モナクーシアとケーオの2人を相手取るのは荷が重いと感じていた。


更にはアグノスとフィートがモナクーシアの手中にあると考えれば、状況は最悪と言っても過言では無いだろう。



只、淡い期待が他にあり、それが的を射ていれば状況は随分と好転する可能性があった。



ベッドでゴロゴロしながらプリームスが思考に耽っていると、突然入り口の扉が開け放たれる。


「貴方・・・女性の部屋をいきなりノックも無しに開けるのは、礼節に欠けますよ・・・」


「む?! あ、あぁ・・・そうだな、すまない・・・」


「いえ、私に謝られても・・・」


と、モナクーシアとケーオのやり取りが聞こえた。



正直なところ監禁されている人間相手に、礼節云々は可笑しな話である。

『何とも奇妙な関係と状況だな・・・』

それだけプリームスを大事に考えているのが伝わり、当の本人は苦笑を禁じ得なかった。



それからモナクーシアがベッドの傍に来ると、プリームスへ告げる。

「プリームス殿・・・唐突で申し訳無いが、私と共に来て貰おうか」



プリームスは少し揶揄う様に答えた。

「私は囚われの身ゆえな、拒否権は無いかと思うが? 無理やりにでも好きに連れて行けばよかろう」


モナクーシアは苦笑いを浮かべ、

「そうは言うが、貴女は我々を救いに来た救援者だ。存外に扱える訳がなかろう・・・」

そう言うとケーオへ目配せする。


するとケーオはプリームスを優しく抱き上げ、

「納得いかないかも知れませんが、我々を救うと言う点ではプリームス様のお考えに沿っていますから・・・ですから協力をお願い致しますね」

と柔らかくも有無を言わせぬ雰囲気で告げたのだ。



『私に何かさせるつもりか・・・。と言うことは何かあったな?!』

プリームスはこの状況から、モナクーシアの計画に支障を来す"何か"が起こった事を知る。


ならば駄目押しで一気に畳み掛けたい所だが、当のプリームスが無力で囚われの身では、如何ともし難い。


結局、状況に流されるしかないのた。

それでも何とか時間を稼ごうと、悪足掻きをするプリームス。

「ケーオ、待て! 実は用を足したかったのだ・・・一人ではこんな有り様ゆえ、お主を待っていたのだぞ!」



「左様ですか・・・。ですが急ぎですので、申し訳有りませんが我慢か、漏らして頂いても結構ですよ」

などとケーオに言われてしまう始末。



プリームスの魂胆が見透かされているのか、はたまた変態気質が有って本気で言っているのか・・・プリームスは戸惑う。


そうするとケーオは、何故か嬉しそうに続けた。

「こんなに美しいプリームス様ですから、排泄される物もきっと美しいに違いありません」



『後者だった・・・』

自身の魂胆が上手く行かず、そしてケーオが実は変態気質と知り、プリームスは愕然と項垂れるしか無いのだった。




そんな2人のやり取りを笑みを浮かべながら眺めていたモナクーシアは、死神アポラウシウスが追って来ない事に違和感を感じていた。

『恐らくアグノス姫の身柄を優先したのだろうが、まさか最良の機会を狙っているのか?!』

危険な上、未知数な相手とは厄介な物で、最悪を考えて最大の警戒と対策を此方はしなければならない。


『兎に角、今は急ぐしかない』

そう意を決したモナクーシアは先を急ぐようにケーオへ目配せすると、颯爽と歩を進めた。








 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※








イリタビリスはテユーミアの腕の中でグッタリしていたが、意識はハッキリしていた。


「良かった・・・どうやら致命傷は受けて居ない様ね」

ホッとした様子でテユーミアは胸を撫で下ろした。



「ごめんなさい・・・テユーミアさん。相手が想像以上に手強くて、結局逃がしてしまって・・・」

そうイリタビリスは申し訳なさそうに言った。



小さく首を横に振り否定するテユーミア。

「そんな事気にしないで。それより流石、表・真人流の継承者ね! 気で完全に防御を固めて、あの女の遠当てを防いでいたのでしょう?」



照れた様子でイリタビリスは頷いた。

「はい、でも防御に気を使い過ぎて・・・気絶寸前でした。あたし一人では、やはりケーオには勝てないかもしれません・・・」

しかしそう答えた後、自信を喪失したように俯いてしまう。



ケーオはイリタビリスの仇であり、自身の中に鬱積した障害の様な物だ。

それを粉砕し乗り越えなければ、イリタビリスは一生負の思いを抱えたまま生きなければならないだろう。


だがこの末席の身内は、自身の復讐よりプリームスを選んだ。

そして今回ケーオは、プリームスへ行き着く迄の途上に現れた敵でしかない。

つまりテユーミアがケーオを倒してしまっても、イリタビリスは文句を言えないのだ。



『だけど人の心は、そんな単純に割り切れる物では無いわ・・・』

出来るならイリタビリスの手で、直接仇を討たせてやりたい・・・テユーミアはそう思わずには居られない。



「イリタビリス・・・、もしケーオと再戦した場合、勝てる可能性は無いの? 勝つための算段は何もしていないの?」



するとイリタビリスは、まさかそんな事を言われると思って居なかったようで、目を見張った後、少し考え込むような仕草をした。


それから直ぐにテユーミアを見つめると、

「一応、考えは有るんです。恐らくケーオは有無を言わせず魔法を使って来るでしょうが・・・そこが逆に活路になると思って居ます。でも、あたし一人では・・・」

そこまで言って言い淀んでしまった。



「それは飽く迄、貴女一人で戦うと言う事ね? でもお膳立てに最低限の協力が必要と?」

テユーミアは察したように、念を押して尋ねる。



それは詰まる所もう一度テユーミアが、イリタビリスへ機会を与える事を意味していた。


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