第318話・身内との初邂逅

イリタビリスは魔法騎士ロンヒの助けも有り、無事に都市部から脱出を成功させる。


実際は追手が掛からず、そのまま外壁門を正面から抜けられるのでは・・・と思いつつも万全を期した。

ロンヒの道案内で地下の下水道を使い、都市の外へ抜けたのである。



去り際にロンヒが、

「オリゴロゴス様によろしくと・・・」

そうイリタビリスへ告げて、颯爽と都市へと戻っていく姿が印象的であった。


『師匠ったら、何もしてない振りして間者を送り込んでるんだから~』

と感心しつつも揶揄するようにイリタビリスは呟いた。

だがよくよく考えると、次元断絶が完成した後で間者を送り込むなど不可能だとイリタビリスでも分かってる。


当時は完全に行政府側と元帥府側で勢力が分かれていた。

そして劣勢だった元帥府側のオリゴロゴス達は、都市部から追いやられ周辺の森や荒野へ逃げ隠れたのだ。


こんな状況で都市部へ間者など送り込める筈が無い。



つまり次元断絶が完成する以前から、オリオロゴスはモナクーシア側へ自身の手の者を送り込んでいた事になる。

しかしそれでもオリゴロゴスが後れを取り今に至るのだ。


要するにオリゴロゴスがやる程度の事は、権謀術数に長けたモナクーシアに出来ない訳が無く、その駆け引きでイリタビリスの師匠が劣っていた事になるのだった。



「え・・・と言う事は、ロンヒさんは少なくても120歳程度の歳はとってるって事よね!?」

と集落に向かって疾走しながらイリタビリスは驚く。

ロンヒの外見が若々しく、どう見ても30代にしか見えなかったからだ。


「はぁ~、魔力が強くて魔術の才能がある人は、長命で老けないって聞くけど・・・凄いなぁ~羨ましいなぁ~」

と独り言が絶えないイリタビリス。


それは群を抜いて長命で若々しいプリームスが居て、その傍にイリタビリスが何時まで一緒に居られるのかと不安になった所為だ。

何にしろ捕らわれたであろうプリームスを救い出さねば、この不安も意味を成さないのである。


「先ずは師匠に会って相談して、テユーミアって人を探さないと!」

そう気持ちを切り替えたイリタビリスは、隠蔽された集落へ猛進するのだった。







 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※








日ごろ鍛えている為、かなりの速度で走ったにも拘わらず息を切らさないイリタビリスは、汗も殆どかいていない。

そんな超絶的な身体能力を持っていても、精神的な負荷は肉体に影響を及ぼすようであった。



目の前の現実を受け入れ難く、イリタビリスは驚きと緊張の余り汗が噴出したのだ。



では何を目の当りにしたかと言うと、母屋の横にある修練場の壁が吹っ飛んだように崩壊し、庭先へオリゴロゴスが転がっていた為だ。

「え? え? 何?師匠どうしたの!!??」



するとオリゴロゴスは両腕を擦りながら立ち上がり呟いた。

「いたたたたぁ・・・。流石イースヒースの弟子であり、プリームス殿の身内だけの事はある」


状況が飲み込めないイリタビリスは師匠へ駆け寄り、その身体を支えて尋ねる。

「何があったの?!」



「おぉ~戻っていたのかイリタビリス。何って・・・いや、少しな手合わせをして実力を見せて貰っていたところだが、まぁ恥ずかしながらこの様だ」

とオリゴロゴスは苦笑しながら答えた。



「も、申し訳ありません! どうも加減が下手で・・・お怪我は有りませんでしたか?!」

血相を変えて修練場の崩壊した壁から顔を出したのは、深い藍色の髪をした美しい女性だ。


その姿はプリームスが着ていた武闘着によく似ており、その雰囲気と振舞いから相当な実力が有るとイリタビリスは看破した。

「貴女は一体何者・・・?」



イリタビリスにそう問われ、すまなそうな表情でその女は答える。

「あ・・・私はテユーミアと申します。修練場の壁を壊してしまって・・・本当に申し訳ありません」



イリタビリスからすれば、そんな事はどうでも良く、目の前に”尋ね人”が居る事へ驚愕するばかりであった。







取り敢えず3人で落ち着いて話す事になり、一同は母屋の居間で腰を据えていた。

3人でオリゴロゴスが淹れたお茶をすすり、すっかりマッタリしてしまう。


「って、こんな落ち着いている場合じゃない!!」

と湯呑をちゃぶ台に叩き置き、慌てた様子で言い放つイリタビリス。



そんな美少女を見て、微笑みを浮かべテユーミアは言った。

「貴女はプリームス様の新たな身内になったイリタビリスね? 随分と今までとは趣向が違うように感じるけど・・・美人さんには変わりはないわね!」



何を呑気な事を・・・。

そう口に出して叫びたかったが、イリタビリスは見透かしたようなテユーミアの言葉に息を飲んだ。


「貴女が一人で戻って来たところを見ると・・・プリームス様に何かあったのね? それにプリームス様が早々遅れを取る事も失敗する事も無いわ。つまり、アグノスとフィートが足を引っ張ったのかしら・・・」



俯き小さく頷くイリタビリス。



それを目の当りにして深い溜息をつくと、テユーミアは冷静な口調で告げた。

「この地下世界の情勢は、オリゴロゴス様から凡そは伺っています。プリームス様はお優しいですから・・・相手の気持ちを汲み取ってから行動に移ろうと御考えだったのでしょう。ですがそれを大司教モナクーシアが蔑ろにしたのですね」



冷静で丁寧な口調だが、明らかに怒りの感情を含んでおり、イリタビリスは気圧されてしまう。

『あたしなんかが想像出来ないくらいに、この女性ひとはプリームスを心配しているし怒ってる・・・あたしが口を挟む余地なんて・・・』

自身の不甲斐無さと、プリームスとの関係の浅さにイリタビリスは落胆する。



だが、それをも見透かしたようにテユーミアは言った。

「イリタビリス・・・。プリームス様は貴女を信用して逃がしたのです。私と共に必ず救い出しましょう・・・愛する主を」



自身より遥かに強者で在ろうテユーミアから、イリタビリスは認められたような気がした。

そしてプリームスのように理路整然とした質では無く、目的の為なら手段を選ばない何か恐ろしい質をテユーミアに感じ、悪寒と共に力強さを覚えるのであった。


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