第291話・休息からの離脱と不安と行動 

「あー!! 師匠! プリームスに何してるの!?」

と突然の叫び声に驚かされるオリゴロゴス。

声の主は、外回りから帰って来たイリタビリスであった。



「え、いや・・・プリームス殿が体調を崩してしまってな、今運び出そうとしていた所だ」

少し後ろめたい様子でオリゴロゴスは答えた。

プリームスに酒を勧め、立ち合いをさせた上に酔いを回させてしまった為だ。



修練場に上がり込み、イリタビリスはプリームスの傍に駆け寄って来る。

「あぁ・・・・眠っちゃってるし。それに顔も赤いし酒臭いし・・・・またお酒飲ませたでしょ!!」

と言うと、鋭い目つきでオリゴロゴスを睨め付けた。


「う、うむ・・・・ワシが一人で飲むのも躊躇われてな、つい勧めてしまった」

少しシドロモドロになりながら答えるオリゴロゴス。


更に弟子からの追撃が続く。

「で、何で修練場に2人しているの?」



「お、お前を嫁がせるのだ・・・プリームス殿の実力を知っておく必要があろう。だからこうして立ち合って実力を見せて貰ったのだ」

150歳以上の歳の差が有りながら、オリゴロゴスはイリタビリスにタジタジである。


そして強気なイリタビリスは、

「ふ~ん・・・・」

と少し不満そうな様子だ。


弟子の態度に困惑したオリゴロゴスは、面倒になって率直に疑問を口にする。

「どうしたと言うんじゃ? プリームス殿を酔わせて、こんな状態にしたのは悪いと思っておる。じゃがお前の事を考えての状況ゆえ仕方なかろう?」



イリタビリスは酔って眠ってしまったプリームスをオリゴロゴスから奪い取り、

「あたしを心配してくれているのは嬉しいけど、プリームスは大切な人なの! こんなにか弱いのに酒なんか飲まされて、立ち合いまでさせられて・・・・。怪我したり体壊しちゃったら、師匠はどう責任を取るつもりなのよ!!」

と怒り散らす有様だ。



オリゴロゴスはシュン・・・と項垂れると、内心でぼやく。

『怪我どころか、内臓を潰されかかったのはワシのほうなんじゃがなぁ・・・』


そしてこれ以上言い訳しても、更に強く言い返されるだけなので素直に謝ることにした。

「すまんのぅ・・・以後気を付けます」


全くもって、どちらが師匠で弟子か分からない状態である。

そうこうしているとプリームスが、「う~ん・・・」と妙に色っぽい声を漏らす。

2人のやりとりの所為で眠りが浅くなったのだ。



透かさずイリタビシスは丁寧にプリームスを抱きかかえると、

「何を試したか詳しい話は明日聞くよ。兎に角今は、プリームスをちゃんとお布団に寝かせるのが先!」

そう小声で告げてサッサと修練場を出て行ってしまう。



『やれやれ・・・この娘はこんなに面倒見が良かったのだな・・・。まぁ”護るべき対象”が出来た事は、我々にとっては幸運な事か』

そんな愛弟子を見送りオリゴロゴスは溜息をつくのだった。







 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※








プリームスが微睡の中から薄っすらと覚醒すると、何やら柔らかい感触を感じた。

「む・・・?」


目の前にイリタビリスの胸がありプリームスは少し驚くが、

『あぁ・・・寝落ちした私に添い寝したのだな』

と直ぐに理解し、柔らかな感触を貪る。


そうすると貪られた相手は反応する訳で、

「ぅん・・・・」

朧げな意識の中でイリタビリスは身を少しよじって声を漏らした。



フィエルテやテユーミアは、プリームスと内包する魔力の相性が良いようで、互いに抱き合っていると非常に心地が良い。

一方イリタビリスは魔力では無く、”気”の相性が良いのでは?とプリームスは感じ始めていた。


何故かと言うと、イリタビリス自身の魔力が一般人並みな事が原因である。

なのにこうして抱き合っていると、前者の2人と同等かそれ以上に居心地が良く、下手をすれば何だか気持ちが良いのだ。



身体の相性が良いと互いの”魔力”や”気”を相互交換する事がある。

これは不足していた魔力が補われ、または疲労した細胞を”気”が活性化させることにより気持ちが良い──つまり快感へと変換される。


プリームスの推測が正しければ、イリタビリスは”プリームスに対してのみ”癒し効果があるのだ。

特に肉体的疲労や傷の回復を早めたりなど、抱き合っているだけで効果が出そうなので、もはや歩く回復魔道具である。


そう脳裏で分析しながらプリームスは、

『ならば憚ることなく触れる事が出来ると言うものだな』

などと大義名分を得たとばかりに、イリタビリスの身体を堪能する。



すると流石のイリタビリスも目を覚ます。

「プ、プリームス・・・・朝から積極的過ぎだよ・・・」



プリームスはイリタビリスから少し身を離し、ニヤリと笑みを浮かべて言った。

「酔い潰れた私を介抱してくれたのだろう? ならば、こうして御礼をせねばな!」



イリタビリスもニヤリと笑むと、

「私はされるより、する方が御褒美かな!っと・・・」

そう告げると、一瞬で互いの体勢と位置をひっくり返してしまった。


余りの早業に唖然とするプリームスだが、その後は抵抗する事無くイリタビリスの好きにさせた。


その後、朝っぱらからはしゃぎ過ぎたのか、引き戸越しにオリゴロゴスから窘められる始末。

こうして2人は苦笑いしつつ半裸状態で朝の湯浴みに向かうのであった。







寝起きの湯浴みを手早く済ませ、身だしなみを整えたプリームスとイリタビリス。

居間へ向かうと既に朝食の準備が出来ており、男物の浴衣だろうか・・・その上から地味なエプロン?を羽織ったオリゴロゴスがテーブルの前に鎮座していた。


イリタビリスに訊くと、オリゴロゴスが着ているのは浴衣では無く、普段着で作務衣さむえと呼ぶのをプリームスは知る。

着れる大きさがあるかどうか分からないが、クシフォス辺りが着たら似合いそうな気がして少し懐かしさが込み上げた。


『まだ一週間も経っていないが、随分前の様な気がするな・・・』

クシフォスとはエスプランドルの迷宮に降りる直前に会って別れたばかりなのだ。

それにスキエンティアやフィエルテ、エスティーギアには何も伝えずに此処にきてしまった。


更にアグノスとフィートも同じ地下世界に来ているが、今は行方が知れない。

早く見つけ出して安全を確保してやらねばならないのだ。


そう考えると実に不安な気持ちになる。

ほんの少し前とは言え、過去に想いを馳せ不安に感じるのは、未来に対して不安要素が有ると第六感が告げているのだ。

飽く迄それは、プリームスの350年生きて来た経験則から為る感覚であった。



席に着きオリゴロゴスに勧められるまま朝食を取り、プリームスは徐に言う。

「この後、早速行動に出ようと思う。不安要素が多々ある故な、先ずは次元断絶に就いて調べたい・・・オリゴロゴス殿、何か知っている事は無いか?」



そう問われオリゴロゴスは少し困った表情を浮かべるのだった。


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