第258話・次元断絶を越えて(1)

プリームスが王となる事は保留され、この話は一旦終わりを告げる。

しかし的外れなフィートの質問で、再び王に関しての話が再燃してしまった。


純潔を維持した女性しか守り人一族の王に成れないのか?

その様な質問なのだが、フィートは自身が処女である事も告白したのだった。



20代半ばに見えるフィート。

それで処女と告白されても反応に困ってしまうプリームス。

取り敢えず苦笑いしつつも、その疑問に答えてやる事にした。

「処女・・・つまり純潔の女性は古来より無垢であり、汚れが無いとされてきた。その印象から神聖なものとして扱われてきたのだよ。そして神域で仕える巫女などが登場し、神より強大な魔力を授かったと言われている」



「そうなのですか・・・。では純潔だから魔力が強いと言うのは語弊があるのですね」

感心した語調でフィートは言った。

しかし相変わらずの無表情である。



プリームスは過去の記憶をたどる様に続ける。

「いや、一概にそうとは言い切れない。私の見識では生まれ持って魔力が低い者でも、純潔を守り後天的に魔力を強大化した例も数多い。逆に純潔を失い魔力を低下させた例も多数見てきたゆえ、やはり何かしらの因果関係があるのは確かだな」


するとシュネイが少し恥ずかしそうに補足した。

「守り人一族の王は、月の神スキアへの信奉の証として純潔を捧げます。その為、王で在る間は処女を維持しなければなりません」



察したプリームスは苦笑いしながら「あ~そう言う事か・・・」と納得する。

要するに守り人一族の王に限って言えば、魔力が高く魔術の類稀なる才能は持っていて当たり前なのだ。

その上で神との契約として純潔を維持しなければならないのだろう。


『しかしながら魔導院と同じく、守り人の一族も月の神を信奉していたとは・・・・。エテルノの事も踏まえると、やはり魔導院も・・・。それにこの世界は神と魔力が密接な関係を持っているようだな』

そう他の事情に意識が向きかけたプリームスだが、テユーミアに諭されてしまう。

「プリームス様、そろそろ本題に入りませんと・・・・」



我に返ったプリームスは、苦笑いを浮かべるとシュネイへ告げた。

「そうだったな・・・ではシュネよ、次元断絶を越える手段の説明と、それが済み次第に地下世界あちらへ向かうとしよう」



少し驚いた様子のシュネイ。

「え? 装備品などの準備は宜しいのですか? 行って直ぐに帰って来れるとは限りませんし」



どうやらテユーミアとアグノスは、収納魔道具の事をシュネイには伝えていないようであった。

プリームスが有する収納魔道具は指輪程の大きさで、非常に利便性が高い。

正直言って神器級の魔道具と言っても過言では無い──故においそれと他者に話す事は出来ないのだ。


プリームスの魔道具を巡って諍いが起きる事は容易く想像がつき、下手をすれば戦争が起きるかもしれない。

そう言った事を考慮して、正式な身内で無いシュネイには収納魔道具の事を伝えていなかったのだろう。

しかしながら毎度ながら説明するのも面倒でもあった。



「う~ん・・・・私はそう言った事からは解放されているのだ」

と面倒臭そうにプリームスが呟くと、アグノスが代わりにシュネイへ説明をし始めた。


アグノスの掻い摘んだ説明により、シュネイは理解出来たようで随分と驚いてしまう。

「何と言うか、本当にプリームス様は規格外でいらしゃいますね。分かりました、でしたら無用な心配と言う事で、直ぐにご説明いたしますね」

そう言うとプリームス達を別の場所へ案内しつつ、説明を始めた。



「次元断絶の影響を受けない物が只一つ御座います。それは地下都市内を監視していた保安用のゴーレム。あれは視覚的情報を別次元を経由して水瓶へ送信する様なのです」



プリームス達5人は水瓶が所狭しと25個も並べられた、1度来た事のある陰湿な部屋に到着する。

そしてシュネイは部屋に入って直ぐの水瓶へ手をかざし告げた。

「基本的な構造は、都市内に設置されたゴーレムから視覚情報を、この水瓶に映し出す仕組みになっております。つまりゴーレムからの一方通行な情報の送信になりますね。ですがゴーレムの視線を操作する事が出来るのは、変だと思いませんか?」

そのシュネイの問いにアグノスが首を傾げて言った。


「確かに変ですね。ゴーレムから一方通行と言う事は、こちらから何も操作出来ない筈ですし・・・・」



頷くシュネイ。

「それに気付いた私は、ゴーレムと水瓶が互いに情報の送受信が可能だと判断し、100年間色々と試してみたのです。元をただせば神託の棺より得た魔導技術ですので、不確かな事が多く随分と苦労致しました」



察したようにプリームスは笑みを浮かべ、シュネイへ言った。

「物質を、更には生物をゴーレム側へ送信出来るか試したのであろう?」



「流石プリームス様ですね・・・・」

プリームスの洞察力に呆れつつ、シュネイは話を続けた。

「私は物質や生物も情報体にすれば、水瓶から次元断絶を越えてゴーレム側に送信出来るのでは?と考えました。そこで使用した魔法が消失アパガルです」



消失アパガル──プリームスが魔導院で法王に謁見する時に目にした魔法だった。

その時は魔法封じの手枷を施された者が、自身で勝手に外せないように、手枷に触れる事も見る事も出来なくする効果があった。

つまりその魔法の名の如く、消失させてしまうのだ。


しかし手枷は確実にそこに存在し、魔封じの効果を発生させていた。

プリームスが解き明かした魔法理論で言うならば、物質の存在力を操作し人に干渉できない程の情報体へ変換する──となる。

これをシュネイも導きだしていたのだ。



「見事だ。シュネイ、お主も中々に研究熱心ではないか。で、消失アパガルに因る物質の送信は成功したのかね?」



プリームスの問いにシュネイは誇らしげに頷いた。

「はい。初めは小さな物体で試みました。そして徐々に大きくして、2m四方の物体までの送信が可能であることを実証致しました。そして一番の難関は生物の送信で、ネズミ程の小動物でも2m四方の物質よりも高度な魔法操作を必要としたのです」



プリームスは先を促す様にシュネイの言葉に続いた。

「だがそれも成功し、人の大きさの生物まで成功した・・・のだな?」



「はい、50年もの時を費やしました・・・・」

随分と疲れた様な、そして自嘲する様な表情でシュネイは呟くのであった。



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