第256話・王位譲渡への伏線(2)

プリームスは黒装束の者達を前に、自身がどれ程に王の資質が無いか語り説いた。

自身の欠点を並べ、以前の世界から魔王の地位を追われ、落ち延びて来た事も吐露したのだった。



『これを機に私の印象をどんどん悪くすれば、シュネイも王位の譲渡を諦めるかもしれん・・・・』

プリームスは他人に自分がどう思われようが、何とも思わなかった。


それが身内や、自分が好意を寄せている相手ならいざ知らず、今日初めて目の当たりにした者達──しかも黒装束で仮面までしている相手なのだ。

為人どころか様相すら確認出来ない。

その様な者達の為に、自身を良く見せようなどとはプリームスは一切思っていないのだ。


またそもそもが他人の評価を気にしない質であるプリームス。

それは今まで他者を評価する立場に在った事が大きい。

魔王として魔界を統治する為には、多くの人材を評価し選別しなければ成らなかったからだ。


そしてプリームスは自身を無理に飾らず、自然体で居る事を信条としていた。


一般的に在野の者を勧誘登用しようとした時、また交渉事に臨む場合、或いは初対面の相手と相対した状況で、人は自身を良く見せようとするのが普通だ。

しかしそれはその場凌ぎであり、後々にボロが出て落胆される可能性がある。

下手をすれば人心を失うだろう。


ならば最初から良くも悪くも自然体を曝け出しておけば、そう言った失敗をしなくて済む、そうプリームスは考えているのだ。

つまり後になって起きる諍いが”面倒”と言う訳である。


付け加えるなら、色々と根回し気遣う事が”面倒”なのだ。

結局は煩わしい事が嫌で、プリームスは自然体なのであった。

それでも以前の世界で魔王として多くの人材を集め、多くの臣下に恵まれたのはプリームス自身のそんな素の魅力があったからだろう。




こうしてプリームスは自身を貶める様な事を、自身で行った訳だが、結果はプリームスの想定を超える事となる。



「超絶的な存在でありながら、なんて人間らしい方なのでしょう・・・」


「初対面の我々に御自身の短所を包み隠さずに述べられるとは・・・感服致しました」


「美しいだけでなく、とても可愛らしくていらっしゃる」


「その弱さ、僭越ながら護って差し上げたくなります。是非我々にその役目を!」



口々にそう言い出す黒装束の者達。

プリームスの演説は自身の評価を下げるのでは無く、何故か上がってしまう結果となった。


これにはプリームスも戸惑いを隠せない。

「え? え? どうして?」


その問いにはシュネイが直ぐに教えてくれた。

「プリームス様・・・一般的な王に必要とされる資質と、守り人の王に必要とされる資質はかなり異なる所があるのです。そもそも私共が求めているのは、そう言う事では無くて・・・・」


「なぬ?!」

とシュネイの言葉の最中に食い気味で、女子らしからぬ言葉を発し驚きで目を見開くプリームス。



そんなプリームスを見やり、何故か諦めたようにシュネイは続けた。

「守り人の王に求められる重要な資質は2つあります。それは類稀なる魔術の素質、そして処女おとめである事・・・。それ以外は、どのような能力や人格を持とうが関係が無いのです・・・・」


魔神に対しての最大の切り札──”次元断絶”を完成させる為に、強大な魔力と魔術の才能を何としても受け継がねば成らなかったのだ。



それを聞いたプリームスは「あっ・・・!」と声を漏らし、失念して勘違いをしていた事に気付く。

シュネイの娘であるエスティーギアとテユーミアが何故、人工授精と代理出産で生まれて来たのか・・・それが念頭にあれば、この様な失敗はしなかった筈である。


『シュネイは、こうなる事を見越していたのではないか? と言うか、何故私が処女である事を知っているのだ?!』

そんな怪訝な思いがプリームスの中で湧き上がり、何とも言えない恥ずかしさが脳裏を巡った。



「申し訳ありません・・・・アグノスから言われた時に、プリームス様が王に成る事を嫌われていたのは分かっていました・・・。ですが、どうしても我々の導き手として、プリームス様には王に成って頂きたかったのです」

そう懇願するようにシュネイは告げた。



心が苦恥辱と羞恥心で満たされたプリームスは、最早そんな事はどうでも良く、

「な、何故、私が処女である事をシュネイが知っているのだ!!?」

と少し我を忘れて言い放ってしまう。



するとシュネイとテユーミア、そしてアグノスが口を揃えて言ったのだ。

「「「え?!」」」



プリームスも釣られたように「え?!」と言い、その空間をほんの暫くの間、静寂が支配した。

そして我に返ったプリームスは、おずおずとシュネイに尋ねる。

「え~と・・・・違うのか?」



困ったようにシュネイは頷いた。

「はい・・・・そのような事は存じ上げません」


そして何かに気付いた様子でハッとした表情を見せる。

「も、申し訳ございません! 今の私の話の流れからすれば、プリームス様が”そう受け取って”も仕方無いかもしれませんね・・・」



本日2度目の早とちりで自爆してしまったプリームス。

余りにも情けなくて、頭を抱えてその場に屈み込んでしまう。

「ううぅ・・・・つまり私が処女で在ろうが無かろうが、王にするつもりだったと?」



「左様でございます・・・・。次元断絶が完成している今、”守り人一族の王”は必要はないのです。ですからプリームス様には、我々を導く為の王に成って頂きたいのですよ」

そう告げるシュネイは、プリームスを労わる様にその背中を優しく撫でた。


そうしてプリームスに恥をかかせたことに後悔し、何とかその気分だけでも払拭してあげたいと思い至る。

「プリームス様・・・・私達は貴女様が傍に居て下さるだけで心が安らぐのです。きっとここに居る者達全てが同じ思いに違いありません。それに私達の願いを聞き届けて頂ければ、世界中のあらゆる煩わしさから御守り致します」



そんなシュネイの言い様に、プリームスは苦笑いが込み上げた。

『テユーミアと同じ事を言いよる・・・・』

だがそのシュネイの言い様に違和感を感じる・・・何かを焦っている様な、些細ではあるが長年生きて来た勘がそう言っていた。


故に小声で囁くように問う。

「シュネイよ・・・・今ここで直ぐには言えぬ、本当の理由があるな?」



目を見開くシュネイ。

「・・・・・・・・」

何も言わない事こそが答えであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る