第250話・仙術の奥義

プリームスはシュネイの読心術を試そうとしたが、逆に見透かされ怒られてしまった。

「プリームス様・・・その様にお試しになるのは、お止め下さい。ちゃんと言って下さらねば私でも分かり兼ねます」



プリームスは申し訳なさそうに苦笑いをする。

「いやぁ・・・・すまん。この水瓶と通信しているゴーレムが特別なのは分かっているのだが、元の目的が何なのだろうかと思ってな」



「あぁ・・・それでしたら」

と言ってシュネイは水瓶の前で手をかざし、魔力を込めた後に少し手を横へ動かした。

すると水面に映っていた景色が動き、インシオンがどんどん小さくなっていった。

つまり視野が広がり、俯瞰で眺めている様な映像が水面に映っているのだ。


更にシュネイが手を少し動かすと水面の映像も動き、インシオンが見据える先を捉えた。

そこには断崖がそびえ立ち、巨大な亀裂が目に取れる。

その亀裂の大きさはインシオンを比較し大きさを推測すると、横幅が10m、高さが50mにも及ぶと知れた。



「この次元の切れ目を監視する為に設置されたゴーレムなのです。あの人インシオンを見る事が出来るのは本当に偶然で・・・・もしこれが無ければ、私は100年の歳月を生き続けて待つと言う選択肢を持たなかったでしょう」

そう告げるシュネイの表情は辛く寂しそうに見えた。


一族を犠牲にした挙句、愛するインシオンまで次元断絶の向こうに取り残してしまったのだ。

全ては人類を守る為とは言え見殺しにしたと同義で、自責の念によりシュネイは自害しようとしたに違いない。

だがそれを思い止まらせたのは、インシオンが生きていると自身の目で確認出来たからだろう。



「この大きな亀裂が次元の切れ目なのですか?」

アグノスが水面に映る未知の光景を見て、興味津々でシュネイに尋ねる。


シュネイの感慨など余所に、無邪気に問いかけるアグネスが面白くてプリームスは笑いが込み上げてしまう。

「フフフ・・・そうだよ。その巨大な亀裂こそが次元の切れ目だ。私もこれ程の大きさを見るのは初めてかもしれん」



何故笑うのか不思議そうに首を傾げるが、アグノスは質問を続けた。

「御爺様は次元の切れ目に結界を張って、侵攻して来る魔神と戦っているのですよね? ここから見た様子では、そのような結界は確認出来ませんが・・・」



『確かにアグノスの言う通りではあるが・・・それよりも・・・』

「そうは言うが魔法の結界でも目で確認出来る物は少ない。恐らく仙術による結界なのだろうが、外部から目に見える様な代物では無いのだろう」

そうプリームスは答えるが、正直どのような効果の結界を張っているのか気になってしまう。


何気なくプリームスがシュネイへ視線を向けると、

「次元断絶を発動させる直前にインシオンから告げられたのですが、この結界は自身を含め生き物や物質の時間を止めてしまう奥義だそうです。ただ非常に危険な技でもあるらしく、今まで1度しか使った事がないと言っていましたね」

と察したように答えて来た。



『心を読まれた・・・・と言っても今の程度なら少し気を回せば分かる事か・・・』

自嘲しつつプリームスは、インシオンが使った結界を考察し始めた。

『限定された空間とは言え、物質の時間を止める事など魔法でも容易では無い。それを100年もの間、維持し続けるとはインシオンが凄いのか・・・それとも仙術の奥義が凄いのか・・・あるいは』



再びアグネスが疑問を口にする。

「え? 時間を止めているのに御爺様は動けるのですか?」



するとシュネイも首を傾げてしまった。

「確かに矛盾しますね・・・。時間を止める結界なら、中に入った瞬間に身動きが取れなくなる筈ですよね」



「二人とも”時間を止める”事には驚かないのですね・・・私は驚愕しましたよ」

とテユーミアは呆れ顔でシュネイとアグノスを見やって言った。



テユーミアの言う事は全くその通りで、正直な所、プリームスも時間を止める結界には驚いた。

しかしアグノスとシュネイが言う事も当然と言える。


そこでプリームスが考える結界の仕組みを説明する事にした。

「結界が張られている空間の時間を止めると言うのは、正しい認識では無いだろうな。恐らくだが、結界に入った生物や物質の”物理的”な時間の進行を止めるものだと思われる」



だがシュネイ、アグノス、そしてテユーミアも今ので理解出来なかったらしく、眉を寄せて首を傾げてしまった。

しかし1人だけ理解出来たのか「成程・・・」と呟いた者がいた──フィートである。

先程まで空気だったフィートが、ここに来て目立つとは面白い展開だとプリームスはほくそ笑む。



「要するに肉体の劣化、衣服や装備品の劣化、これらを抑制できる結界と言う訳ですね。ですがこれは長所であって短所もありますよね?」

とフィートは自身で解釈した事を、プリームスへ告げた。



頷くプリームスは、先を語る様に促す。

「うむ、フィート・・・お前は頭が良いな。ならばその短所を言ってみなさい」



顔には出さないが嬉しかったのか、フィートは小さく会釈して話を続けた。

「有難うございます・・・・。時間が進行しないと言う事は、身体に受けた傷も回復しないと言う事です。これが短所かと思われます。また物質に加わった運動力や慣性力は、インシオン様が動けると言うのなら抑制されないのでしょう。この事から魔神も物理的な攻撃行動が可能と言う訳になりますね」



プリームスが補足して言おうとした事を、フィートが殆ど代弁してしまった。

これには流石のプリームスも驚いてしまう。

「凄いではないか、フィート・・・お主、本当に只の文官なのか?」


他の3人も驚いた様子だ。

そして今ので理解出来たのか、「なるほど~」と口を揃えて言うのであった。


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