第249話・隔絶した世界への干渉(2)

魔道具に因って次元断絶の向こうを見通していたと明かすシュネイ。

また、それがどう言った物なのか、直接プリームスへ見せたいと告げた。


ならば残りの関係者を放置するのも可哀そうなので、フィートを呼び伴い一行はシュネイと”その場所”へ向かう。



テユーミアにシーツで抱き包められプリームスが案内された場所は、灯りが全く無い陰湿な空間だった。

ただ不思議と圧迫感が無く、部屋の中を見通す事も出来た。


灯りが無いのに何故、部屋の中を見通す事が出来るのか?

それは部屋の床を埋め尽くさんばかりの水瓶が設置されており、その水面から淡い光を発していたからである。

水瓶の1つ1つは人の腰程の高さで、横幅が1.5mもある大きな物だ。

また部屋自体も相当に広く15m四方は有るようなので、それで圧迫感が無かったのであろう。



シュネイに促され、部屋に入って直ぐの水瓶へ視線を向けるプリームス。

その水瓶の水面には、ある風景が映し出されていた。


「これは・・・もしや地下都市か?」



プリームスの問いにシュネイは頷いた。

「はい。これは警備保安用で、地下都市内に設置されたゴーレムからの視覚情報です。本来は突発的に発生する小規模な魔神を察知する目的で運用されていました」



プリームスは感心した様子で水瓶に身を乗り出す。

危うく頭から水瓶に落ちかけて、抱えていたテユーミアが慌ててプリームスを抱きしめる。

「あ、危のうございます!」



苦笑いで誤魔化すプリームス。

「すまんすまん・・・余りにも珍しくてな」

そして部屋を見渡し呟いた。

「この水瓶が全て地下都市内のゴーレムと通信し、視覚情報を送っているのか・・・・凄いな」



するとシュネイは少し残念そうな表情を浮かべ言った。

「はい・・・ですが魔神戦争以前は、この数十倍もの監視ゴーレムが存在していたのです。でも魔神との激戦のさなかゴーレムが巻き込まれてしまい、今では25基しか残っていません」



シュネイ曰く、ゴーレムは固定設置型と巡回移動型が存在していたのだという。

どちらも監視目的の為に魔法に因る迷彩が施されている物もあったが、小型で戦闘能力は皆無だったらしい。

こう言った事から魔神戦争時に巡回型が戦闘に巻き込まれ、殆どを消失してしまったのだ。



ふと部屋の中央にある一際大きい水瓶に、プリームスは目を止めた。

他の水瓶はより一回りは大きく頑丈そうであった。

「あの真ん中の奴は何だ? 何か特別な仕様のゴーレムと通信しているのか?」

プリームスのその問いかけにシュネイは神妙な面持ちで答えた。


「あの水瓶に映るものが、私がプリームス様にお願いする本当の依頼なのです」



つまりそこに映るのは剣聖インシオンだと言う事になる。

「見せてくれ」

プリームスにそう言われたテユーミアは、シュネイの許可を取らず真っ直ぐに中央の水瓶に向かった。


そんな様子を見て苦笑いを浮かべるシュネイ。

テユーミアの親で王でもあるのに、今はプリームスが主だと暗に態度で示しているからだ。

『この子は私の与えた使命をちゃんと果たしてくれたのだから、もう私からも、守り人の宿命からも解放されるべきだわ』

そう思う事でシュネイは寂しさを紛らわせた。



プリームスが中央の水瓶を覗き込むと、そこには過去夢で見た男の姿を見る事が出来た。

『この男が剣聖インシオンか・・・』


少し疲れた様な表情だが、その精悍な顔立ちは非常に美形であり意志の強さが窺い知れる。

また少し白髪が混じり始めた髪の毛が違和感に感じる程、インシオンの顔立ちは若く見え、どう見ても20代後半と思える。



「わぁ~、この方が剣聖インシオン・・・・私の御爺様なのですね? って、凄く若くないですか?」

と、いつの間にか部屋にやって来ていたアグノスが、水瓶を覗き込んで呟く。

そして傍にはフィートも立っている。

今までアグノスは、別室で控えて居たフィートを呼びに行っていたのであった。



インシオンに対するアグノスの印象はプリームスと同じものだ。

つまりインシオンの様相は、常識から逸脱していると言えた。


過去夢で見たインシオンの姿は、100年前の魔神戦争が起こる前だったとプリームスは推測している。

そして今、水瓶に映っているインシオンの姿は、その100年前の姿と何も変わっていないのだった。



「インシオンは極まった剣術以外にも仙術を使います。これは魔術に匹敵する程の力を有しており、導引なる技で老いを限りなく遅める事が出来るそうです。我が守り人の一族では唯一、イースヒースがその仙術の使い手ですね」

とアグノスとプリームスを見やり、シュネイは説明してくれた。



「成程・・・そう言う事か」

そう納得しながら頷くプリームスも、仙術の知識を持っていた。

武術を極めるなら、気、大地の力、そして螺旋と言った仙術を知る必要があったからだ。

またイースヒースが魔術の才が無いのに、100年を超えた長命で有る事も”導引”から合点がいく。



「御爺様はいったいお幾つになられるのです?」

そう不思議そうにアグノスがシュネイに尋ねた。



「確か今年で250歳になる筈です」

直ぐに返答が返って来て、アグノスは驚愕の余り口が開いたままであった。

正直プリームスも驚いた。

仙術がこれ程までに長命にさせる技を有していたとは、思わなかったからだ。



では、魔力の影響で長命なシュネイは何歳なのだろうか?

そんな思いでプリームスがシュネイへ視線を向けると、

「私は丁度150歳になります」

と察したようにシュネイは答えた。



その年齢よりシュネイの読心術にプリームスは驚いてしまう。

それが守り人一族の王として生まれ持った能力なのか、それともそうある為に培った能力なのか・・・。


『どちらにしろシュネイの前では変な事を考えられぬな・・・』

そうプリームスは思い、少し試したくなる。


ジッとシュネイの目を見つめながらプリームスは、

『このインシオンを捉えているゴレームは、元の目的が他にあったのだろう? だろう? だろう?』

と内心で数回呟いたのだ。



そうするとシュネイは呆れた様な表情を浮かべる。

「プリームス様・・・その様にお試しになるのは、お止め下さい。ちゃんと言って下さらねば私でも分かり兼ねます」



どうやら相手が考えている細かい内容までは、察しえないようであった。


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