第247話・魔神戦争の発端

シュネイは民よりも、想い人であるインシオンを救い出したいようである。

しかしプリームスとしては事の顛末を知らねば、手の貸しようが無い。


それは手を貸し、救い出すに値する事情を孕んでいるのか?

もしくは手を貸す事によって、プリームスの益になるのか?

前者はプリームスのお節介に火が点くか、そして後者はプリームスの興味や知識欲を満たせるかにかかっていると言えるだろう。



それを十分に心得ているのか、シュネイは気落ちした様子で事の発端を話し始めた。

「100年前までは魔神との戦いも小競り合い程度で済んでいました。ですが突然の地殻変動により次元の切れ目が”侵攻”出来る程に広がってしまったのです。そして我々は早急に対応する為、軍を編成し武力で次元の切れ目を封鎖しようと試みましたが・・・・」



シュネイが全て言い終える前に、プリームスが続きを代弁する。

「予想以上の速度と魔神の数に後れを取った訳か。そこから魔神の物量に押され、ズルズルと長期戦になったのだな」



頷くシュネイ。

「はい、仰る通りです。それが魔神戦争の発端なのです」



アグノスが不思議そうな表情で話に割って入った。

「あのぅ、次元の切れ目は閉じたり小さくしたりする方法が無かったのですか?」



確かに誰でも思い至る疑問ではあるが、プリームスは苦笑いを禁じ得ない。

1000年にも及ぶ間、守り人一族が魔神と戦い続けたのは、それが不可能だったと少し考えれば分かる事だからだ。


だがアグノスは馬鹿ではない、どちらかと言えば聡い部類に入る人間である。

つまりプリームスが苦笑いする様な事は踏まえていて、敢えて問うているのかもしれない。

「アグノス・・・現状を見れば分かると思うが、理由があってわざと訊いているのだよな?」

そう心配になってプリームスは言った。



アグノスは「あっ」と声を漏らすと、仕出かしたとばかりな表情を浮かべた。

そして取り繕うように言い訳をし出す。

「プリームス様~、私を馬鹿だと思わないで下さい~! 少し言い方を間違えてしまっただけで・・・・え~と、言い直します・・・」


そうして居住まいを正しアグノスは続けた。

「次元断絶なるものを実行して、この世界から地下都市を切り離すほどの技術があったのです。なら次元の切れ目を操作する技術もあったのでは?、と考えたのですが・・・」



ホッと胸を撫で下ろすプリームス。

「その言い方ならば問題は無い」

それでも若干の呆れは払拭出来ずに告げた。

「何と言うかアグノスはウッカリと変な事を口走ったりする時があるな・・・・。例えば本音が漏れたりとか・・・まぁそれも個性か・・・」


呆れられたのがショックだったのか、泣きつくようにプリームスにしがみ付くアグノス。

「わ~ん・・・おバカ認定はご容赦を~!」



そんな2人のやり取りを見て微笑むシュネイは、アグノスの問いも含めて説明を続ける。

「次元の切れ目は、人間の想像を絶する力によって変化を起こすと考えられています。実際に地上で大きな災害になる程の地殻変動が起きた時、次元の切れ目が広がってしまったのを確認が出来ていますから。つまり大きな地震災害を伴う程の地殻変動は、人間の能力と技術では再現不可能であり、次元の切れ目を操作する事も不可能と言えます」


更に困り果てた様子でアグノスを見つめ言った。

しんば地殻変動を再現出来たとしても、次元の切れ目が広がるか、小さくなるかは良く分かっていないの。だから災害を伴うそう言った危険な研究は全く進んでいないのが現実なのよ・・・」



「そうなのですか・・・」と気落ちしたようにアグノスは呟く。

事情も知らずに軽はずみな事を訊いた自分が情けなくなったのだ。



そんなアグノスを余所に今度はプリームスが質問を口にした。

「他次元に干渉する方法は禁忌であり、神の領域と言われている。それは難解と困難を極めるが故でもあるが・・・。それで干渉出来る穴をどうこうするのでは無く、干渉させない様に”断つ”方法を模索した訳だな?」


こちらは”全て見通した”上で問いかけるのだから、ある意味質が悪いと言えるだろう。

しかしプリームスからすれば、次元に対する互いの認識と技術の確認でもあった。



「はい。模索と言うよりは、解読と言った方が正しいでしょうね」

シュネイは頷いた後、そう意味ありげに答える。


訝し気な表情のプリームスを確認すると、シュネイは補足し始めた。

「実は、我が一族の王家には”神託の棺”なる物がありまして、年に一度その棺内に、未知の技術が書き記された石板を出現させるのです。それを解読し研究する事に因って、多くの優れた技術や魔法技術を得て来ました」


そうして自嘲するように微笑み、独り言のように呟く。

「なので次元断絶の方法は持っていても、次元が”断つ”仕組みを把握しきれている訳ではないのですよ・・・」




『神託の棺!? 非常に興味深いな!』

プリームスの興味に火を点けるには十分であった。


元より守り人の一族を救い、シュネイの真の願いも聞届けるつもりでいたのだが、面白いに越した事は無いのだ。

『これはひょっとすると、随分と掘り出し物に当たったかもしれん。ならばあとは状況の確認だな』

と、ほくそ笑みながらプリームスはシュネイを見据えた。



「話が大分と脱線してしまったが、え~と、インシオンだったか・・・何故こちら側に逃れられなかったのだ?」



プリームスのその問いに、シュネイは少し俯くと徐に答えた。

「魔神の侵攻は予想以上に速く、民を地上へ逃がす機会を逸してしまいました。ですが私がもっと早くに決断していれば、民もインシオンも次元断絶の向こうに残す事など無かったのです・・・・」


シュネイはそのまま感情を殺す様に務め、話を続けた。

その内容によると、インシオンは取り残される民を守る為に、敢えて次元断絶の向こうに残ったと知れる。

それは愛するシュネイと離れ離れとなってでも、身を呈し民を守ろうとした正に英雄らしき判断と行動であった。


こうしてインシオンが奮闘した事に因り、魔神の侵攻は一時的に鈍化し、一族の1000分の1程が迷宮へ逃れる事が出来たのだという。

この経緯はある意味インシオンの超絶な武力を物語っており、その為人と強さにプリームスは心が惹かれてしまう。



しかし1つの疑問がプリームス脳裏に過る。

「100年もの歳月が過ぎ、それでもインシオンが生きていると確信しているのだな?」


人を遥かに超える魔神の軍勢を相手取り、とても1人で生き残っているとは思えなかった。

しかもテユーミアからも聞いていた話からするに、取り残された民も生きていると言うのだから俄には信じ難い。



だがシュネイは自信と確信に満ちた表情で頷くのだった。

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