第229話・激戦まえの一時(1)
かれこれ1時間は歩いただろうか・・・・漸く緩やかな螺旋階段を降り切ったプリームス一行。
そこは螺旋階段前の割と大きな空間になっており、40m四方広さと天井の高さに至っては10m程もありそうだ。
恐らく非難する場合にあたって、螺旋階段へ卒倒し怪我などの事故を防ぐ為の物なのかもしれない。
またこの空間から大きな通路が2股に伸びて、1つは50m程進んだ所で先が瓦礫に埋まり通行が不能、もう一方は100m程進んだ辺りで門が見て取れた。
ここまで到達して完全に疲れ果ててしまったのはフィートとプリームスだけで、テユーミアとアグノスは平気そうであった。
「若さと基礎的な頑強さには感心させられるばかりだな・・・」
とプリームスは床に座り込んで言った。
フィートなど殆ど虫の息の様な状態で、床に転がってしまっている。
そんな2人の状態を見たテユーミアは食事の支度を始めた。
ここまで突貫で進んできたので、そろそろ休憩を挟んでも良い頃合いと考えたのだろう。
特にプリームスが指示も命令もした訳ではないのだが、勝手に率先して行う所が気が利くと言うか・・・ある意味独断専行とも言えた。
その様子をボーっと見つめていたプリームスに、
「いけませんでしたか?」
と少し心配そうにテユーミアが尋ねて来た。
独断であった事には自覚がある様だ。
「いやいや、気にしないでいい、進めてくれ」
そうプリームスが告げると安心したように準備を続けた。
するとアグノスも自身が侍女の役目を担っていた事を思い出し、慌ててテユーミアの手伝いに入る。
この辺りは一国の姫である為か、従事への行動に時間差が生じるのは仕方無いと言えよう。
何よりアグノスの侍女役は、本日限定の罰なのだから。
そうしてプリームス達が食事を済ませた後、テユーミアが徐に懐中時計を取り出し時間を確認した。
「随分と遅い時間になってしまいましたね・・・・もう午後の11時です」
そう呟くとテユーミアは指示を仰ぐようにプリームスへ視線を向ける。
自分やアグノスは大丈夫だが、プリームスとフィートの体力を気遣っての事だろう、野営をするか暗に尋ねているのだ。
こういった行動方針を大きく左右する内容は独断せず、健気に伺いを立てるテユーミアへ笑みが零れてしまうプリームス。
『どうせなら小姑の様にグイグイ来ても良いのだが、流石にそこは私との距離をどう保つか手探りのようだな・・・』
そしてハッと考え直す・・・『いや・・・スキエンティアのような奴が2人に増えるのも困るか・・・』
「うむ・・・安全性に問題無いならここで一夜を明かそう」
プリームスがそう答えると、ちゃんと主従関係の様になっているのが嬉しいのか、
「ここは避難区画ですので魔物も存在しません。安全です。そう言う訳ですから野営の準備を致しますね」
とテユーミアは律義に返答した後、野営の準備を始めた。
どうも出会った当初よりもテユーミアが畏まっている様な気がしてならない・・・。
テユーミアはここまでの途上で、プリームスに”今後世話をさせて欲しい”などと告げていたのだ。
詰まる所それはプリームスに仕えたいと言う事である。
テユーミアの中にある”本質”は忠誠であり、今までは人類を魔神から守ると言う”使命”に対して忠誠を誓って来たとプリームスは洞察していた。
そんな彼女が使命では無く、人に対して忠誠を誓いたいと言うのだから随分な方向転換だ。
『元々漠然としていた忠誠が、恐らく魔神の存在する本来の意味を知ってしまい揺れ動いたのかもしれないな・・・・』
プリームスはそう思うが、1つ抜けている事が存在する。
それはテユーミアが美少女愛好家と言う、女性でありながら変わった性癖の持ち主と言う事である。
それをプリームスが思い知るのは、もう少し後になってからであった。
プリームスが床に座り込んだまま惚けていると、続々と野営の荷物が目の前に飛び出してくる。
アグノスが収納魔道具の指輪からベッドを取り出していたのだ。
それも2人が余裕で横になれる程の物が2つ・・・・明らかにプリームスへ添い寝したいのが見え見えである。
片やテユーミアは収納魔道具から湯舟を取り出していた。
こちらは完全にプリームスを裸にする魂胆が見え見えだ。
何とも分かり易い煩悩表現をする2人に、プリームスは苦笑を禁じ得ない。
『まぁ別に嫌では無いし、スキエンティアも居ない事だから2人の好きにさせるか』
こんなプリームスの態度や振る舞いが、プリームスを慕う者達を増長させ欲望を加速させてしまうのだ。
しかし逆論点からすると、女性を虜にして離さない凄腕の女たらしとも言えた。
女性なのに女ったらしとは・・・・これ如何に・・・。
プリームスが『お湯はどうするのだろう?』と心配していると、テユーミアが指輪から巨大な酒樽を取り出した。
そして栓を開けると、片手で豪快に中に入っていた水をダバダバと湯舟に注ぎだしたのであった。
それを計3回繰り返し水で満たされた湯舟の下に、大量の木炭を取り出し敷き詰め始めるテユーミア。
そうした後に極小に調節した火炎魔法で木炭に点火したのだ。
正直、スキエンティアより手際の良い風呂の支度に、プリームスは唖然としてしまった。
『そんなに私の身体を洗いたかったのか・・・?!』
それから程なくして大量の木炭のお陰で湯の準備が整い、アグノスとテユーミアから有無を言わせず裸に剥かれそうになるプリームス。
「ま、待て・・・先にフィートを世話してやってくれぬか? 無理について来た上にヘトヘトだろうから、風呂に入れてやり先に寝かせてやりたい」
プリームスにそう言われてしまうと、せざるを得ないアグノスとテユーミア。
今のアグノスは侍女の刑であり、テユーミアに至ってはプリームスに仕えるつもり満々なのだから。
こうして食事後にウトウトしていたフィートは強引に起こされ、即座に裸にひん剥かれ綺麗に洗われてしまう。
アグノスは仕方なしにフィートの世話をするが、テユーミアは少し様子が違っていた。
「あら、フィートは意外に良い身体をしてるのね・・・いつも地味で身体の線が余り出ない恰好をしていたから分からなかったわ」
などと言い出すのだ。
プリームスもフィートに関しては、そこそこに良い評価を持っていた。
表情や仕草は色々問題有るが、その様相に限って言えば美人であり、体形も実に女性らしい。
そう考えるとテユーミアの性向は、
『美人であれば少女でなくても良いのか?』
と訝しんでしまう。
まぁそれはそれで個人の自由であるので突っ込みようは無いが、ふと疑問に思っていた事をテユーミアへプリームスは告げた。
「ここを野営の場所に選んだのは、安全な事以外に理由があるな?」
洗い終わったフィートをタオルで拭きながら、ニコッと笑みを浮かべるテユーミア。
「お気付きでしたか・・・・。実はこの先に迷宮の最大の難関があるのです。それを前に英気を養って頂ければと思いまして」
快進撃でここまで来たプリームスに、”最大の難関”とテユーミアは言ったのだ。
『これは、いよいよ王の本心に近付くか?』
と思いつつも、嫌な予感がするプリームスであった。
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