第225話・空間魔法の開発者
漸く下層へ向かえる事になるプリームス達。
エテルノが先導するように先を歩き、巨大縦穴の目の前まで来ると、
「私より後ろに居てね。直ぐに縦穴を下層へ繋げるから」
そう告げて瞳を閉じた。
するとエテルノの魔力が可視化する程に身体から溢れ出し、古代魔法語で詠唱が紡がれる。
「我が魔力に応え、その道を開け・・・・
次の瞬間、目の前にあった縦穴の底が跡形も無く消失し、更に下へと続く縦穴が姿を現したのだった。
正に瞬き程の時間で床は消失してしまい、アグノスが驚きの声を上げた。
フィートはと言うと又もや下に降りるのかと、嫌そうな声が聞こえてきそうな程に露骨な表情を浮かべている。
テユーミアはこの迷宮の防衛担当だった為か、特に驚いた様子は見せないが感心した表情は浮かべていた。
「流石エテルノ様ですね、この規模を一瞬で消去されるとは。それにしてもここが開かれるのは・・・・10年ぶりくらいでしょうか?」
少しだけ感慨深い表情でエテルノは頷いた。
「うん、私の魔力との連動が上手く行っているかの定期点検以来だからね。それ以外でここは一切開いた事は無いよ」
つまりエテルノが管理者を担当して100年間、王が求める強者としてこの迷宮を突破し下層まで到達した者が居ないと言う事だ。
だが100年目にしてプリームスがそれを成し遂げた事となる。
プリームスは目の前で起こった魔法現象に首を傾げた。
「
そうプリームスが何気なく尋ねるとエテルノは、
「お?
と振り向くと逆に問い返して来た。
「うむ、その通りだが・・・・」
訝しむプリームスがそう答えると、エテルノは笑顔で話を続けた。
何やら少し懐かしむ様な表情である。
「もともと私は魔導院出身の魔法学者だったんだ。
漸くエテルノの魔術技能に合点がいったプリームス。
南方諸国で魔術の最高峰に位置すると言われた魔導院出身なら、空間魔法の開発者と言われても納得がいく。
そしてプリームスは1つの秘匿された真実に見当がついてしまった。
それは魔導院が古より永世中立国を貫き通した訳に繋がる。
しかしそれを今語った所で何の意味も無く、プリームスに協力的な法王ネオスを困らせる事に繋がりかねない。
『まぁそれは追々分かる事だろうな・・・・』
そう考えプリームスはソッと胸の奥にしまう事にした。
そうしている内にアグノスが我先にと開いた縦穴へ身を躍らせてしまった。
更に間を置かずテユーミアがフィートを抱えたかと思うと、躊躇う事無くアグノスに続く。
勿論フィートの小さな悲鳴付きである。
プリームスは3人を見送った後、エテルノに振り返り告げた。
「どれくらいで戻って来れるか見当がつかんが、戻り次第こき使ってやるからな、覚悟しておけ」
エテルノが意味を理解した時には、既にプリームスの姿は巨大縦穴に消えてしまっていた。
「フフフ・・・・本当に嬉しいよ。新しい我が主・・・・いや、我が求める真の主よ」
それは200年もの歳月を生きた吸血鬼が、たかだか人間に心から喜び屈服した瞬間であった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
プリームスが巨大縦穴の底に到達すると、中層に比べ随分と周囲が明るい事に気付く。
そして1つしか無い通路がプリームス達を誘うように口を開けていた。
「ほほう・・・・想像以上にデカいな・・・・」
とプリームスが感心する様に呟く。
床以外は発光魔石で作られていると思われる程に明るい”回廊”が、目の前に存在するのだ。
しかもその大きさが尋常では無く、天井までの高さは50mは有りそうだ。
また回廊の横幅は縦穴直径の2倍近くはある・・・つまり40m近くの広さがあった。
淡く光る巨大通路もとい、回廊の遥か先には巨大な門が見て取れる。
距離にして2000mはありそうで、正直歩いて進むには億劫になる長さである。
「この広さ、それにこの長さは・・・・待機集積フロアーと言った所か」
プリームスの独り言に、テユーミアは驚きを隠せなかった。
中層に降りた時もそうであったが、プリームスは一目見ただけで巨大縦穴の”本来の用途”に気付いたのだ。
更にここに来て回廊の用途にも気付いたのだから、正直驚愕せざるを得ない。
「プリームス様は本当に何でも見通せてしまうのですね・・・・」
そのテユーミアの言い様にプリームスは苦笑いで答える。
「いや、そうでもないさ。ただ、50万人もの民を地下都市で生活させるならば、私なら有事に備えて”脱出手段”を用意するからな。”私ならそうする”を前提に考えれば、そう難しくは無い」
テユーミアも苦笑して相槌に困ってしまった。
詰まる所プリームスだからそう考えられる訳で、普通の者ではそこまで考えが及ばない筈なのだ。
そうしてテユーミアは溜息をつき言う。
「プリームス様の洞察通り、ここは巨大縦穴を利用する為に一旦大人数を待機させる場所になっています。いわゆる避難区域になっていて、非戦闘員が優先的にここへ逃げ込めるようになっていました」
「だが、その用途では使用される事は無かった・・・訳か」
とプリームスの言葉が静かに続いた。
「そうですね・・・ですが私は”戦後”生まれですので、母の悲しみを汲んであげる事は出来ないのです・・・」
そう告げるテユーミアは、自身の不甲斐なさに落ち込んでいる様であった。
プリームスはソッとテユーミアに近寄り、背後から胸を鷲掴みにする。
「きゃっ!!? な、何をプリームス様!?」
と驚くテユーミアだが、抵抗する様子が”全く”無い。
そんなテユーミアを余所にプリームスは問答無用に弄り倒す。
「フフフ・・・・な~にを暗い顔をしておる。こうしてお前は私を連れて来る事ができたであろう?」
テユーミアはプリームスから積極的に構って貰って嬉しかったのか、建前だけ繕う言葉を発する。
「あぁ~プリームス様・・・・最終試練を前にこのような事をされては・・・あうぅ・・・」
呆れと嫉妬が入り混じった様子でアグノスは、
「もうこんな2人は放って先に進みましょう、行きますよフィート!」
そう言ってフィートの手を引き先に進んでしまうのであった。
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