第218話・中層管理者エテルノ

「女子をいびるのは私の趣味では無いが、早々始めるとしようか」

そうプリームスが言うと、中層管理者であるエテルノは不満そうな表情を浮かべた。


「まるで私が君に圧倒されるのが前提のようじゃないか・・・・」



確かにエテルノの言い様は分からなくも無い。

まだ試してもいないのに”いびる”状況になるとプリームスが勝手に言っているのだから。

それにエテルノはプリームスを試す側なのである。



プリームスは苦笑いを浮かべた。

「あ~いや、すまない。お主のように美しくて可愛らしい娘には立ち合いで無く、お茶でもしながら会話を楽しみたいと思っただけなのだが・・・」



するとエテルノは目を丸くしたかと思うと、少し照れた様子で俯いてしまう。

「美しくて可愛いなんて・・・・君に比べれば大した事は無い。それに胸だって・・・・」


どうやらエテルノは胸に劣等感を持っているようだ。

何とも乙女のように可愛らしいとプリームスは思わずには居られない。

『この立ち合いが終われば仲良く出来ないものか・・・』

などと欲が出てしまう程である。



『取り合えずおべっかしておくか』

そう考えたプリームスは微笑みながらエテルノの傍まで行き、

「それは気にする事では無いぞ。お主は十二分に美しいし、そのほっそりした曲線美など実に女性らしいではないか? それに胸なども大きいのが嫌いな者もいるゆえな」

と言って背中を撫でた。


急にプリームスに触れられて驚いたエテルノであったが、褒められたのが嬉しかったようで、

「そ、そうかな・・・・」

と頬を赤らめてプリームスに撫でられるがままである。



これにはアグノスが良い顔をせず、鋭い目つきでプリームスを睨みつけた。

慌ててエテルノから身を離すプリームス。

『おっと・・・少し調子に乗り過ぎたかな・・・』



名残惜しそうな表情を浮かべるエテルノ。

それはプリームスを間近で見て余りにも美しかったからであり、”もう少し様相をよく見たい”と思ってしまったのだ。

そうしてこちらも慌てて取り繕う。

「と、兎に角だ、私は君の実力を試さなければならない。こちらのやり方になるがね」



「了解した。で、どうするのだ?」



プリームスの問いかけにエテルノは踵を返して、

「君とは戦いたくない。イースヒースとの立ち合いを見るに普通にやって勝てる気がしないからね」

と言いながら離れて行く。



そして20m程離れただろうか、エテルノは聞こえるように声を張り上げて告げた。

「今から幾つか魔法を放つから、それを防いでみてくれ。全て防げたら下層への手形を渡すよ」




『なるほど、上層での立ち合いを何かしらの手段で監視していたか・・・。では全て最下層の王には筒抜けと言う訳だな』

「よろしい・・・ならば派手に防いで見せよう」

そう承諾するようにプリームスは答えた。



気を利かせたテユーミアが、アグノスとフィートを連れて入ってきた鉄扉まで下がって行く。

エテルノの放った魔法の余波が、2人に当たらないよう配慮したのだろう。

試練場のほぼ中心に立っているプリームスから壁際まで50mもあるのだ、攻撃魔法と想定したならば相当な威力と範囲である事になる。



ただ、精神作用系や捕縛系の魔法も考えられる。

『そうなると対処も変わってくるので色々と面倒ではあるな』

とまるで他人事のようにプリームスは呟く。



テユーミア達3人が下がり切った事を確認して、エテルノは徐に右手を掲げた。

「では先ずは一発目・・・」



突如、エテルノのすぐ背後に十数個の光弾が発現する。

空中に浮かぶそれは眩い光を発している為に正確な大きさは分からないが、一つ一つが直径20cm程はありそうだ。



魔法弾マジックミサイルか・・・。しかもあの大きさと数、中々の魔法強度と魔力だな。だかその程度の攻撃魔法では私の防御は破れない』

プリームスはそう内心で呟き、自身の周囲に展開する不可視の魔法障壁を外側に広げた。



術者に近い位置で魔法障壁を展開していると、同じ箇所に魔法弾マジックミサイルが続けて着弾する可能性があるからだ。

そうなると万が一だが、魔法障壁が崩壊する懸念があった。



エテルノが掲げた掌を広げた瞬間、魔法弾マジックミサイルが風を切るような音を立ててプリームスに向かって飛来する。

速度、制御、どれをとっても超一流のものだ。

しかし狙い定めて放たれた物など、プリームスにとって対処は容易なのだ。


結果、外側へ押し広げた魔法障壁に直撃し、まるで光の火花が散るように消失した。



「むっ?!」

異変に気付くプリームス。


確かに魔法弾マジックミサイルを障壁で完璧に防ぎ切ったのだが、着弾した箇所で青白い何がうごめいていたのだ。

その数は魔法弾マジックミサイルの数と等しく、十数箇所に及ぶ。

そしてそれは青白く発光した蛇の如く、空中からプリームスへ襲いかかったのだ。



エテルノの声が聞こえた。

「魔法障壁程度はやると想定していたからね、対策に対応した訳だよ」



プリームスは自身に襲い掛かる無数の蛇を眺めながら、独り言のように悠長に言った。

「素晴らしい・・・魔法弾マジックミサイルの核に”魔力の縄ルーンロープを仕込むとは、流石悠久の時を生きる吸血鬼だけの事はある」


こうして無数の魔力の縄ルーンロープが、瞬く間にプリームスを覆い尽くしてしまった。



「プリームス様!!」

強力な捕縛魔法で雁字搦めにされ、姿まで隠れてしまったプリームスに半ば悲鳴のような声を上げるアグノス。

だがテユーミアは慌てる事無く、まるで何かを確信するかのように押し黙ったままだ。



少し感心した様子でエテルノが言った。

「流石なのは君の方だよ・・・・テユーミアが連れてくるだけの事はある」


するとキーンと耳をつんざく様な音が響き渡ったのだ。

その刹那、プリームスを覆っていた魔力の縄ルーンロープが粘土細工のように剥がれ落ち、ボテボテと地面に落下し始める。

それから直ぐに地面に落ちた魔力の縄ルーンロープは、霧散するように消え去ってしまった。



「よ、よかった・・・・」

勿論プリームスは無事であり、その姿を確認したアグノスはホッとしたのか腰が抜けて屈み込む始末である。

片やテユーミアも実は内心では動揺していたのか、よたよたと後退りし壁に背を預けると深く溜息をついた。



そんな2人を遠目に見据えて、

「まだ安心するには早いとおもうけどね・・・今のは本当に”ただのお試し”なんだから」

と笑みを浮かべてエテルノは告げるのであった。


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