第219話・エテルノの究極魔法

エテルノが放った魔法弾マジックミサイルを容易く防いでしまったプリームス。

更には、その魔法弾マジックミサイルが防がれる事を想定して仕込んであった魔力の縄ルーンロープもあっさり対応して見せる。



しかし不敵な笑みを浮かべてエテルノは告げる。

「まだ安心するには早いと思うけどね・・・今のは本当に”ただのお試し”なんだから」


そして直ぐに感心したような表情を浮かべた。

「それにしても魔力の縄ルーンロープをあんな簡単に解除されるとは思わなかったよ。だけど連れの方は肝を冷やしたみたいだし、君は意地が悪いね」



全身を覆い隠すほどの魔力の縄ルーンロープを、プリームスは全て無力化し剥ぎ落としてしまったのだ。

となれば、ルーンロープに覆われる前に対処出来た筈で、テユーミアやアグノスが肝を冷やす必要もなかったのだ。



するとプリームスは惚けた表情を浮かべ、

「別に心配させるつもりは無かったのだがね・・・」


そう告げた後にエテルノを見据えて徐に語り出す。

魔力の縄ルーンロープは高度な魔法と言われており、私の知る限り使い手は非常に少ない。では何故高度な魔法なのか・・・? 理由は簡単だ。この魔法は物理捕縛系の魔法では無く、精神作用系の幻術に近い魔法だからだ」



エテルノが怪訝そうに、一部を肯定しつつも反論した。

「ほほう・・・確かに火炎弾ボーライト魔法弾マジックミサイルの様に、発現させて飛ばすだけの物よりは制御は難しい。だが、精神作用系とは嘘もはなはだしいよ」




その言い様にプリームスは「フッ」と鼻で笑う。

「どうやらその様子では、使いはするが魔力の縄ルーンロープを受けた事が無いようだな」



「それが何だと言うんだい?」


苛立ちを見せ始めたエテルノを他所に、プリームスは説明するように続ける。

魔力の縄ルーンロープの正しい対処方は、無闇に逃れようとしない事だ。確かに一見すれば形もあり触れる事が出来るが、その実、捕縛されると言う精神的な負荷により効果が左右される」



少し苛立ち不快さを見せていたエテルノだったが、プリームスが落ち着いた様子で説明した為か、興味を見せ始めた。

「要するに物理的に対処しても無意味だから動かなかった訳か。だけど少なからず物理的に効果ある筈だから、何もしなければ捕縛されてしまうだろう?」



頷くプリームス。

「その通りだ。故に幻術と認識した膂力が強い者や、魔力が強い者なら”抵抗”も出来よう。しかし普通の人間では魔力の縄ルーンロープから逃れる術はないだろうな」



「おいおい、それだと対抗できる者でも、ある程度の行動を抑制出来るって事だよね? 結局完全な対応策は無い事になるよ。なら君はどうやって無力化したんだよ・・・・」

と半ば呆れた様子で問いかけるエテルノ。


プリームスは、恐らく完璧と言って良い程に魔力の縄ルーンロープを対処して見せたのだ。

それなのに矛盾した事を言うのだから、エテルノが呆れるのも最もである。



それに対してまるで生徒へ教鞭を取る教師のように、

「魔法にはその発現現象を維持する”核”が有る。その核へ直接強い魔力や対属性の魔法をぶつけて破壊すれば、魔法は維持出来なくなり崩壊する。本来であれば対象魔法の核を探らねばならぬが・・・・」

と説明し途中で勿体ぶったように話を止めるプリームス。



「あ・・・・なるほど! だからわざわざ魔力の縄ルーンロープに捕らわれて、零距離で全身から魔力をぶっ放した訳だね」

漸く答えに行き着いて、エテルノは無邪気な子供のように喜ぶ。

それは難問が解けた生徒の様で初々しく見え、本当に悠久を生きる吸血鬼なのかとアグノスは勘繰ってしまう。



片やそんな様子を目の当たりにしたプリームスは、試練の立ち合いなど放っておいて2人でお茶がしたくなった。

余りにもエテルノの仕草が可愛く感じたからだ。

「もうよかろう? ちょっと2人で休憩でもしようじゃないか」



「そうだなぁ・・・・って馬鹿を言うな!! 幾つか魔法を撃つと言っただろう! もう! 面倒臭くなってきた、次の大きい奴で終わりにする!!」

自身の役割を思い出したのか、はたまた単に癇癪を起したのかエテルノはプリームスへ啖呵をきった。



「えええぇ~私はもう疲れたぞ・・・・」

と言ってプリームスはワザとらしく項垂れる。

かく言う2人とも20m程の距離が有ったので、割と声を張り上げて話していたのだ。

なので疲れて当然である。




突然、この空間の空気が凍り付いたかのように張り詰めた。




エテルノの様子が一瞬にして変わったのだ。

先程までのほんの少し冷静で可愛らしい、只の金髪碧眼美少女では無くなってしまった。

それは遠目に見ていたフィートにさえも感じ取れるくらいに・・・。


凄まじい魔力がエテルノから吹き出し、それが冷気として錯覚するほどの影響を周囲に及ぼしていたのだ。



「見事この魔法を防いで見せよ・・・・防げれなければ骨を拾ってやる事も出来ないからね」



冷たく言い放ったエテルノの言葉に、テユーミアは顔面を蒼白にさせる。

何が放たれるか気付いたのだろう、半ば懇願するように声を張り上げて言った。

「いけませんエテルノ様! 漸く見つけた王の希望をここで失うつもりですか!」



だがテユーミアの制止などエテルノが聞く訳も無かった。

「王が認めようとも、この程度防げなくては魔神相手に生き残れはしない」

その刹那、エテルノの眼前に1m程の漆黒の球体が発現する。



目を見張り驚くプリームス。

「おお!? それは・・・!」



消滅ディスインティグレート

エテルノが手を差し出し呟いた瞬間、その漆黒の球体はプリームスへ向かって高速で飛来した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る