第209話・古代迷宮の上層(2)

探索しながら進むのは面倒なので、プリームスは迷宮上層の構成をテユーミアから聞き出すことにした。


露骨に嫌そうな顔をするテユーミア。

「それではプリームス様の力を試す試練にはなりませんよ~」



この迷宮は魔神から人類を守る砦であり、魔神と戦える強力な人材を選別する為の壁でもあった。

そしてこの迷宮を古来より管理し、魔神と戦ってきた一族を守り人もりびとと言う。

その守り人の王が自身と同等以上の実力者を求めているのだから、それを試す為の迷宮を楽して進もうと言うのは都合が良い話である。



『むむむ・・・こ奴、私に惚れているくせに、肝心な所は私の言う事を聞かんのか・・・。まぁだからこそ信用に値するとも言えるのか・・・』

プリームスは呆れつつも感心するが、困り果ててしまう。


正直な所、極大魔法で大穴を穿って最下層まで降りてしまいたいくらいである。

それほどプリームスは大雑把であり面倒臭がりなのだ。


もしプリームスにまめな所があるとすれば、それは権謀や策謀と言った戦略的な対人面だけと言って良いだろう。

また強いて他を挙げるなら、自分好みの女子に対する面倒見と言った所か・・・。



『う~む・・・・出向くのは構わんが迷宮攻略は面倒だのう・・・』

ここまで来ていて今更感満載な事を考えるプリームスであった。


そして思いついたのが少しばかりの"おべっか"だ。

『先程もテユーミアがご褒美がなんたらかんたら言っていたしな』



そうしてプリームスはテユーミアの目の前に立ち言った。

「お前達の王は断絶してしまった一族を救うのに急いではいない。100年もの間、私の様な者を待っていたくらいだからな。だが焦ってはいるのだろう?」


プリームスの言葉に沈黙で答えるテユーミア。

その言い様の意図を測りかねているのだ。



更にプリームスはテユーミアの瞳を見据えて続ける。

「今までは一族の安全を確信してはいたが、それが恒久的に続く事が無いのも確信している。だから"焦って"いる。ならば私と王の利害も一致する筈だ」



そして更なる一押しを実行する。

テユーミアに正面から抱きつき、プリームスは上目遣いで言ったのだ。

「私に早く会って、隔絶された一族を救って欲しいと王は考えているのだろう? そして私も王に早く会ってみたい。それにはテユーミアの協力が必要なのだ。だからね、お願い・・・」



少しあざといかと思われたが、テユーミアは顔を赤らめた後、諦めた様に溜息をついた。

「分かりました・・・ですがそれぞれの階層を守護する管理者と戦って力を示さねばなりませんよ。彼らが先の階層へ進む手形を所持していますから」



つまり管理者までの最短距離をテユーミアが案内してくれると言う事だ。

流石にテユーミアと言えど、王まで直行出来る経路は持っていないのだろう。



「ありがとう。テユーミア、大好きだよ〜!」

そう笑顔でプリームスが告げると、テユーミアは抱きしめ返し、

「では、ご褒美を頂きますよ」

などと言ってプリームスへ口付けをしてしまう。

軽い挨拶程度では無く中々にがっつりとだ。



これには流石のプリームスも驚くが、テユーミアの好きにさせる事にした。

だが傍に居たアグノスは、身内以外の者へ唇を許したプリームスに怒りを露わにする。

「ムキーっ! プリームス様いけません! 身内以外にそのような事を許しては!!」



仕方なく熱い接吻を途中で止めるテユーミア。

そして名残惜しそうにプリームスを見つめた後にアグノスを一瞥して言った。

「何を今更ケチ臭い事を・・・それに私もプリームス様の身内のようなモノなのだから、この程度で怒らないでちょうだい」



いくら叔母と言えど中々にキツい言い様である。

だが姪のアグノスも黙ってはいない。

「テユーミア叔母様にはクシフォス様と言うちゃんとした夫が居るでしょう! プリームス様に余計な手出しはしないで下さい!」



するとテユーミアは怯む事無く飄々ひょうひょうとした様子で告げた。

「あら、言ってなかったかしら? "この使命"が私にとって最優先事項なの。だからクシフォス《あのひと》との関係をおざなりにしてしまう事もあるでしょう。それにこうなる可能性は、結婚する前からクシフォスには伝えてある事なのよ」



「なぬ?!」

これはプリームスも預かり知らない事で正直驚いてしまった。

同じくアグノスも驚いて固まってしまっている。



そんな2人を他所にテユーミアは尚も続けた。

「娘と息子も立派に成人して国に仕えているわ。だから私がリヒトゲーニウスに縁を作る使命は達成されたと言って良いでしょう」


つまり今の状況が最優先であり、リヒトゲーニウス王国やクシフォスは二の次なのである。

何とも滅茶苦茶な道理ではあるが、当のクシフォスの承諾を得ているなら外野がとやかく言う筋合いはない。



しかしアグノスは引き下がらない。

「だからと言って不貞行為が許される訳ではないでしょう。そんなのクシフォス様が可愛そうです!」



今度はワザとらしく首を傾げるテユーミア。

「不貞行為とは可笑しな事を言うのね・・・私とプリームス様は"女同士"と言うのに。それに私は只、プリームス様と仲良くしたいだけですよ。アグノスの邪魔をしようなんて考えていないから」



そう言われてしまうと反論する術が無くなる。

プリームスは特に異議を挟む気も無いので問題無いが、アグノスは今にも地団駄を踏み出しそうな様子である。



すると先ほどまで空気だったフィートが、

「こんな所で揉めていては時間だけが過ぎるばかりです。ここは互いに妥協点を探っては如何でしょうか?」

と少し疲れた表情で言い出した。

ひょっとすると2人の言い争いに嫌気がさしたのかもしれない。



「た、確かに時間の無駄ですね・・・フィートの言う通りです。ではテユーミア叔母様、互いの利害が出来るだけ一致する妥協点を模索しましょう」


「そうね・・・これ以上言い争ってプリームス様に時間を取らせるのも道理が違うと言う物ですね」


日頃、必要以上には喋らないフィートが割って入る様に提案をしてきたのだ。

そんな意外なフィートの行動に、テユーミアとアグノスは冷静さを取り戻したのである。



それから2人は懇々こんこんと話し合い、結局プリームスとフィートは30分も待たされる羽目になるのであった。

アグノスが言う時間の無駄とはいったい何だったのか・・・。


またプリームスから離れて話し合っていたので、2人がどう折り合いをつけたかは分からないが、ガッチリと握手を交わしていたので問題は無いのだろう。



「話が付いたのなら階層の管理者とやらが居る場所へ向かいたいのだが・・・」

そうプリームスがテユーミアに話し掛けると、随分と景気の良さそうな笑顔で返事をした。


「はい、ご案内いたします。基本的には警備用の魔法生物は私の傍には寄って来ませんのでご安心下さい。ですが迷宮に生息している魔物に関しては、捕食と縄張り意識で襲ってきますのでご注意を」



「ほほう・・・興味深いな。歩きながら聞くゆえ詳しく話せ」

現金な奴だなと思いつつも、その言葉の内容に興味を惹かれたプリームスであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る