第208話・古代迷宮の上層(1)
間者の疑いを持つフィートを尋問しようとしたが、それが不可能と分かってしまう。
それは尋問するとフィートに掛けられた"制約"の魔法が発動し、命を奪いかねない状態になってしまうからであった。
またこれによりフィートがセルウスレーグヌムの間者である事が確定するが、プリームスの意向でフィートは不問にされる。
つまり今まで通りプリームスの従者を続けると言う事である。
そう言う訳でアグノスに古代迷宮の秘匿事項を打ち明けるのだが、自然と傍に居るフィートも耳にする事になった。
これには口には出さないがテユーミアは不満を含む様子を見せていた。
一方アグノスもフィート経由で情報が漏れる事を心配した。
「セルウスレーグヌムの中枢に魔神の存在が伝わるのは問題無いとは思いますが、万が一、市井に伝わった場合は危険かもしれません」
テユーミアも同意見のようで、
「私もそれが心配ですね・・・世の中には色んな闇組織がありますから」
とフィートを一瞥して言った。
苦笑いしてプリームスはテユーミアを諭す。
「余りフィートを虐めないでくれよ。何か有れば私が出来うる限り責任を持つゆえ、不満や含む事があれば私に直接言いなさい」
少し畏まった様子を見せるテユーミア。
「い、いえ・・・そのような事はありません」
『それが遺憾のだ・・・まぁ気持ちの問題ならばどうにもならんか』
そう思いプリームスは溜息をついた。
そしてアグノスの危惧する所が気になってしまう。
「アグノスの言い様が今一要領を得んのだが、どう言う事だ?」
「古来より魔神信奉者なる者が存在するのです。彼らは魔神の強大な力により、この汚れた世界の人間が滅亡し浄化される事を願っているとか・・・。この迷宮が魔神に対する人類の砦ならば、そう言った者達の横槍が入るかもしれませんね」
とアグノスは心配そうに説明をした。
「ふむ、なるほど・・・人間とは実に興味深い。自身を滅ぼす存在を信奉するとはな」
そう言いながらもプリームスはその裏にある意図に気付いていた。
それは人では到達出来ない境地や存在になる事を魔神に求めるのだ。
要するに世界の浄化などは建前と言う訳である。
その最たるものが魔術を極めんとする者達だ。
彼らが到達する
「まぁ悪戯に情報を漏らすような馬鹿ではあるまい? 大丈夫であろうよ」
プリームスがそう評価した相手は、セルウスレーグヌムの宰相だ。
人の権力者とは人外なる者を嫌い恐る傾向にある。
ならば魔神とは敵対こそしても、守り人の一族の邪魔などしない筈だ。
「そうであれば良いのですが・・・」
と心配そうな様子を崩さないアグノス。
そんなアグノスの緊張を解そうと、プリームスが抱き着き身体を弄(まさぐ)り出した。
「きゃっ!? プリームス様?! こんな所でお止め下さい・・・」
お止め下さいと言いつつ抵抗しないアグノスは、言葉尻も萎んでしまいプリームスの成すがままである。
そんなこんなでフィートとテユーミアの冷ややかな視線を浴びつつ、プリームスとアグノスは迷宮へ侵入する階段を降りるのであった。
迷宮の上層に降り立つと、思った以上に明るくプリームスは驚いてしまう。
迷宮の入り口を厳重に守る建屋もそうだったが、明かりとなる蝋燭の火や松明の炎などは存在しなかった。
しかも明かり窓なども保安上付いていないにも拘わらず、見通せるほどにボンヤリと明るかったのだ。
どうやら内壁や床の花崗岩に混じって”魔光石”を含む岩を使っているようであった。
更に迷宮の内部の壁はそれがふんだんに使われており、地下だと言うのに入り口の建屋より明るいのだ。
「凄いな、これ程まで魔光石が使われているのは初めて見たぞ。それに迷宮自体の劣化も殆ど見られない・・・随分と管理が行き届いているな」
とプリームスは感嘆の声を漏らしてしまう。
するとアグノスが首を傾げて言った。
「ひょっとして"発光魔石"の事を言っているのでしょうか? ぼんやり光を発している壁や床の石の事ですよね?」
「発光魔石というのか・・・」
『まぁ世界が違えば呼び方も異なるのは当然か』
そうプリームスが思っていると、テユーミアが補足するように説明を始めた。
「発光魔石はこの迷宮の特産物ですが、構造物からの採取は禁止されており、もしこの規則を破れば罰金や禁固刑が課せられます。あと特産物なので入手は可能ですが・・・魔物からですね。因みに迷宮から帰還した時に、詰所の衛兵から手荷物検査をされるので発光魔石の不法採取は事実上不可能となっています」
それを聞いたプリームスは、壁を興味深そうに見つめながら独り言のように呟いた。
「う~む、なるほど。つまり迷宮自体が守り人の一族の資産であり、壁の一部であろうが採取してしまうと窃盗になると言う訳か。それにしても魔光石・・・いや発光魔石が魔物から採れるとは意外だな・・・」
これには先程からウズウズしていたアグノスが説明をし出す。
プリームスが知らない事を伝えられるのが嬉しくて堪らないようである。
「所説あるのですが、一番有力な説ではその地域的な魔力の影響を受けて、魔物が体内に魔石を結晶化させるとされていますね。ですのでこの迷宮は光の魔力が強い場所と言えるでしょう」
またアグノスに機嫌を損ねられては困るので、プリームスは少しおべっかしておく事にした。
徐に得意げなアグノスへ近寄り優しく背後から抱き寄せると、その耳に息が掛かる様に話しかける。
「アグノス、お前は本当に優秀だな。これからも私の為にその見識を存分に発揮してくれ」
プリームスの吐息が敏感な耳にかかり、身震いするアグノス。
そして恍惚な表情を浮かべるとアグノスは、
「もっとご褒美を頂ければ、もっともっと頑張れると思います・・・・」
と少し恥ずかしそうに告げた。
アグノスの言い様にプリームスの胸が高鳴ってしまう。
『何て可愛らしい事を言う奴だ・・・・』
「欲張りな奴め、そんな奴にはこうだ!」
そう言ってプリームスは、アグノスへ再び抱きつきコチョコチョと擽った。
喘ぐアグノスを楽しみながらふと正面を見据えると、真顔でこちらを見ているフィートと物欲しそうにしているテユーミアが見て取れる。
今更ながら他人の目が有ると、これ程までに恥ずかしいのかと思ってしまったプリームス。
そうして息も絶え絶えなアグノスを余所に、「ごほんっ」とワザとらしく咳ばらいをして、
「で、では迷宮を進む前にこの上層の概要を聞いておこうか・・・」
とテユーミアへ話を振る。
するとテユーミアはあざとく恥ずかしそうにして告げた。
「ご褒美を頂ければ、もっともっとお役に立てる情報を提供で出来るかと・・・」
「・・・・・・」
呆れてしまい暫し無言になってしまうプリームス。
そして溜息をついて告げる。
「私を好いてくれるのは嬉しいが・・・二番煎じは止めておけ」
一方、傍で見ていたフィートはと言うと、露骨に
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